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第5章 夢から覚めない
8・遠景は霞んで
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「みよ。江崎と何かあったでしょ」
そう尋ねるちーちゃんの目は、まっすぐにわたしを見つめていた。
「えっ」
その言葉に、わたしはどう返したらいいかわからなかった。どう返そうか……そう考えている間にもちーちゃんは「そもそもさ、最近おかしいんだよね」と普段よりももっと低い、まるで睨むような声で言ってきた。
「何か、いつも上の空っていうか……。みよだってもちろん知ってると思うけど、江崎ってまぁ、普段から元気っていうか、悪く言うと落ち着きがないっていうか。だから落ち着きないのはいいよ。でもさ、最近全然なんだよね。何しててもだよ? もう私の話なんて耳に入らない感じ?
週末どこ行こうか、とかそんな話しててもだよ? ていうか江崎の方から振って来た話に乗っててもたまにキョトン顔されるしさ。……普通に愚痴みたいになっちゃったけど、うん。それでさ」
ちょっとだけ冗談っぽく笑ったけど、すぐにまた真剣な顔に戻って、少しだけ迷うように視線を泳がせてから、ちーちゃんらしいハッキリした口調で言った。
「何かね、みよの名前が出たときなんだよ、特におかしくなるの」
すごく苦しそうに、だけど確かに怒っているのはわかる。
顔も、声も、視線も、空気さえ、全部でわたしを拒絶するような空気が漂っている。そのまま口を開いたちーちゃんの顔はいつもよりずっと暗くて、胸が締め付けられそうになってしまう。
「前は、けっこうみよの名前出してたの。やっぱ幼馴染?ってのは強いよね、そういうとき。それに今はクラスも一緒だし、何かっちゃみよの名前出ててさ……何か心配とかしてたし、まぁカノジョとしてはちょっと、ね。それなりに複雑だったけど、まぁ優しいんだな、で済ませてたよ。
でもさ、最近は全然だよ。友達の名前くらい普通に出るはずなのに、そんな風にすらみよの名前出てこないの。むしろ私の方でみよの名前出した時まで何かビクッてして話題変えてきたりさ……。変えんのも下手なのに。そわそわするし、汗かいてるし、目ぇ泳いでるし、顔赤くなったりしてるしっ!」
ちーちゃんが声を荒げるところなんて、初めて見た。
それくらい、ちーちゃんの心を傷付けちゃったのかな。
あっ、とわたしは気付いてしまった。
よく見ると、ちーちゃんは手にお弁当を持ってない。中庭に来るとき、っていうか昼休みにはいつもお弁当を持ってきてるのに。
そっか、この話をするために来たんだね。
「それでさ、何かあったんだよね、江崎と?」
「…………っ」
何も答えられなかった。
言えるわけがなかった。
でも、それが返事になっていた。
「わかった。もういい」
ちーちゃんは、もうわたしの目を見てくれない。
慌てて追いかけようとして、でも何て言って追いかければいいかわからなくて。中途半端に立ち上がった姿勢で言葉に詰まったわたしをもう1回だけ振り返ったちーちゃんは。
「あっ、マイちゃんにもよろしくね。あ、これは兄からだから」
厳しい目なんて全然してなくて。
代わりに、きっとわたしはちーちゃんからずっと遠くのものになってしまったんだ、ってわかってしまった。
「じゃあね」
もう、わたしは何も言えなくて。
入れ替わりに「お待たせ~」とやって来たゆいちゃんが「あれ、何かあった?」と訊かれたけど……。
「別に、何もないよ」
それ以外に、何を返せたんだろうね。
そう尋ねるちーちゃんの目は、まっすぐにわたしを見つめていた。
「えっ」
その言葉に、わたしはどう返したらいいかわからなかった。どう返そうか……そう考えている間にもちーちゃんは「そもそもさ、最近おかしいんだよね」と普段よりももっと低い、まるで睨むような声で言ってきた。
「何か、いつも上の空っていうか……。みよだってもちろん知ってると思うけど、江崎ってまぁ、普段から元気っていうか、悪く言うと落ち着きがないっていうか。だから落ち着きないのはいいよ。でもさ、最近全然なんだよね。何しててもだよ? もう私の話なんて耳に入らない感じ?
週末どこ行こうか、とかそんな話しててもだよ? ていうか江崎の方から振って来た話に乗っててもたまにキョトン顔されるしさ。……普通に愚痴みたいになっちゃったけど、うん。それでさ」
ちょっとだけ冗談っぽく笑ったけど、すぐにまた真剣な顔に戻って、少しだけ迷うように視線を泳がせてから、ちーちゃんらしいハッキリした口調で言った。
「何かね、みよの名前が出たときなんだよ、特におかしくなるの」
すごく苦しそうに、だけど確かに怒っているのはわかる。
顔も、声も、視線も、空気さえ、全部でわたしを拒絶するような空気が漂っている。そのまま口を開いたちーちゃんの顔はいつもよりずっと暗くて、胸が締め付けられそうになってしまう。
「前は、けっこうみよの名前出してたの。やっぱ幼馴染?ってのは強いよね、そういうとき。それに今はクラスも一緒だし、何かっちゃみよの名前出ててさ……何か心配とかしてたし、まぁカノジョとしてはちょっと、ね。それなりに複雑だったけど、まぁ優しいんだな、で済ませてたよ。
でもさ、最近は全然だよ。友達の名前くらい普通に出るはずなのに、そんな風にすらみよの名前出てこないの。むしろ私の方でみよの名前出した時まで何かビクッてして話題変えてきたりさ……。変えんのも下手なのに。そわそわするし、汗かいてるし、目ぇ泳いでるし、顔赤くなったりしてるしっ!」
ちーちゃんが声を荒げるところなんて、初めて見た。
それくらい、ちーちゃんの心を傷付けちゃったのかな。
あっ、とわたしは気付いてしまった。
よく見ると、ちーちゃんは手にお弁当を持ってない。中庭に来るとき、っていうか昼休みにはいつもお弁当を持ってきてるのに。
そっか、この話をするために来たんだね。
「それでさ、何かあったんだよね、江崎と?」
「…………っ」
何も答えられなかった。
言えるわけがなかった。
でも、それが返事になっていた。
「わかった。もういい」
ちーちゃんは、もうわたしの目を見てくれない。
慌てて追いかけようとして、でも何て言って追いかければいいかわからなくて。中途半端に立ち上がった姿勢で言葉に詰まったわたしをもう1回だけ振り返ったちーちゃんは。
「あっ、マイちゃんにもよろしくね。あ、これは兄からだから」
厳しい目なんて全然してなくて。
代わりに、きっとわたしはちーちゃんからずっと遠くのものになってしまったんだ、ってわかってしまった。
「じゃあね」
もう、わたしは何も言えなくて。
入れ替わりに「お待たせ~」とやって来たゆいちゃんが「あれ、何かあった?」と訊かれたけど……。
「別に、何もないよ」
それ以外に、何を返せたんだろうね。
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