ねぇ、神様。わたしはあなたに復讐したい。

鏡上 怜

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第5章 夢から覚めない

9・もう、星は見えない。

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 もう何ヶ月、2人だけの昼休みを過ごしてるんだろう。
 ゆいちゃんはいつもと――前から変わらない感じで「あれ、ちー今日も来れないって。まぁ、中間近いから勉強とかしてそうだしね~」とか言ってるけど、気を遣ってくれてるのが痛いくらい伝わってくる。

 ちーちゃんに江崎えざきくんとのことを問い詰められたとき以来、もう全然会えてない。
 ゆいちゃんとちーちゃんはかなりよく会ってるみたいだけど、わたしが混ざりそうなことは全部キャンセルされたり、わたしの名前が出た途端に別の約束が入ったりとか、とにかくなことが続いているらしい。

「まぁ、別にちーが麻衣まいを避ける理由なんてないもんね!」
 そんな笑顔で言われると、本当に胸が痛い。
 ちーちゃんには、あるよ。
 わたしの方から避けなきゃいけないくらいの理由があるんだよ。


 そんなこと、ゆいちゃんには言えなくて。
 言ったらゆいちゃんまで離れてしまいそうで、いつも笑っているゆいちゃんの笑顔が違う表情になってしまうのを見るのが怖くて、想像しただけで泣きそうになってしまうから、言えるはずがなくて。

『じゃあね』
 そう言ったときのちーちゃんの顔は、思い出したくもないのに忘れられない。
 はっきりとわたしを軽蔑した顔。
 されても仕方ないけど、本当に辛かった。
 ちーちゃんのこと、嫌いになりそうな顔だった。
 どうしてそんな顔でわたしを見るの、って訊きたくなって。
 わたしたちは友達でしょ? なんでそんな顔するの? ひどい。
 
 時折浮かんでくるちーちゃんの顔に向かって、言いたくなる。我慢できなくて、小さな声で口に出してしまっていたことだってある。独り言なんかじゃない、目の前にはのちーちゃんがいるんだから。
 でも、そのたびにその言葉はわたしが受けるべきものだって思って。
 ひどい自己嫌悪に襲われて。
 教室での何気ない噂話が、わたしと江崎くんのことを言ってるみたいに聞こえる。
 それに、たぶんちーちゃんじゃない誰かからわたしたちのことが漏れているみたいに感じる。もちろん江崎くんは言うわけないし、でもたぶん、わたしたちの様子を見てた人かも知れない。下校中で、人目なんて気にしてなかったから。
 露骨に、何かをされることなんてなかった。
 教科書もなくならないし、机にも落書きなんてされないし、黒板に消えない相合傘なんてない。無くなったものが汚れて返ってくるなんてこともない。
 だけど、空気がわたしを責め立てる。
 ううん、その空気に、わたしが自分自身を責めなくちゃいけなくなる。

 なに普通に入ってきてんの? 親友の彼氏寝取ったやつが普通に息していいと思ってんの? 笑っていいと思ってんの? 喋んなよ、こっち見んな、そっぽ向いて黙ってろ。
 そう言われてるみたいに感じてしまう。
 いつの間にか、そういう空気ができている。

 いやだ、いやだよ。
 学校までわたしの居場所じゃなくなったら、わたしはどこにいたらいいの?
 家にいたって、お父さんから幼い頃のわたしを重ね合わせられて、今のわたしを否定されて、罵られて、泣いて謝れば許してもらえるなんて思ってそうな態度で散々犯される。それを止めてくれる人もいない家になんていたくない。このままだと、たぶんわたしはお父さんをどうにかしてしまいそうだから。
 マイに会ってくれる人たちは、ただすぐにヤレる女の子が好きなだけ。セックスだけして、わたしのことなんて全然興味なくて、たまにわたし個人に興味を持ってくれる人だって、それは体の関係が前提で。前まではそういう風に見られるのも平気だったはずなのに最近は虚しくて苦しい。

 だから、わたしにはここしかないのに。
 汚い関係じゃない、わたしのままで付き合える友達がいて、身体も心も痛くない、そんな場所だったはずなのに。
 嫌だ、嫌だよ……っ!
 そう思うのに、わたしには何もできない。


「でさ、そうしたらイインチョがさ! ……」
 不意に、楽しそうに笑いながら話をしていたゆいちゃんの声が、止まる。
「うちらさ、なんでこんなんなっちゃったんだろうね……」
 少しだけ冷たくなってきた風が吹き抜ける中庭で、ゆいちゃんが寂しそうにそう呟いて。
 原因でしかないわたしも、それには何も答えられなくて。
 だんだん短くなっていた一緒に食べるお昼休みの時間が、その日はたった5分くらいで終わった。
 その次の日から、昼休みの中庭には誰も来なくなった。
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