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【天を見上げる戦乙女】
第016話
しおりを挟む伝令の報告では早ければ明日から本隊の攻撃が開始される。
時間的な余裕はあまり残されていない。
セレン達偵察隊は森を通って周囲を一望できる高台まで出て、草木に紛れるようにして谷を越えた先にある敵陣の様子を観察していた。
「(あれが敵本陣ねえ…。背後は岩壁でその向こうは川も流れていて奇襲は無理か)」
「(うっわー。聞いてたより多くないスか?)」
敵は岩壁に挟まれた峡谷の先、岩山の合間にある遺跡を利用した砦に本陣を構えており、駐屯する軍のテントの数だけでもざっと見積もって1000以上が集結している。
兵数に換算すれば4000は下らないだろう。
これは領軍の事前情報より明らかに多い。訓練された猟犬の姿もチラホラ見掛けた。
「(あー、大型犬飼いたい…。モフモフしたい)」
「(えぇー、めちゃくちゃ凶悪な顔してますよアレ。絶対人とか食べてるっスよ!)」
あまり長居すれば風向き次第で匂いがバレてしまうと判断して、早々に偵察を切り上げて情報を持って中隊へと帰還した。
◇◆◇
セレン達が帰還してすぐに偵察した内容を報告したら、何やら騒がしくなったのでフェードアウトして抜け出し、気分転換の為に戦馬へ騎乗ながら任されている傭兵部隊の動きについて思案していた。
「あいつらじゃ組織立って動くなんてできないし、班を別けておいて友軍がおっ始めたら後は適当にそれぞれの班に任せて強襲かな~」
正規兵ならともかく、傭兵個々の理解力はバラバラで細かな作戦を共有出来る者とそうでない者との差がある。
だから作戦はシンプルな方が良い。
「あー、殺気立ってんなあ。まあ、あんだけ罠だらけの面倒な道通った後じゃ仕方ないか…」
昨日まで森の中で神経を張り巡らせながら行軍させられていた傭兵達は、精神的な疲れに道中の稼ぎが得られなかった事や本陣攻略前という事もあり、目で見て分かるほどピリピリしていた。
「よーセレン嬢。作戦は決まったかい」
そこへ食後の散歩をしていたというアマンダがやって来た。
「作戦なんてねえよ。本隊同士がぶつかったら美味しい所を横からかっさらう。金は面倒だから自分が殺った分を取る。傭兵流でいいだろ?」
「いいねえ、最っ高。特に評価出来る点は、うちの若いのでも理解出来るくらい分かりやすい所だな!」
アマンダはセレンの作戦を聞いてすぐに同意した。
「班ごとに鉢合わせない潜伏場所だけ先に決めて、後は適当に配置すりゃ適当に暴れて適当に稼ぐだろ」
戦場で揉める一番の原因は誰がやったか、どっちが金を受け取るかである。
どんなに気を付けても起こるなら、開始する場所の間隔を空けて互いに縄張りを決めさせれば良い。
纏め役が下手にあれこれ口を挟めばどちらにも恨まれてしまう。そうした要らぬお節介で逆に信用を落とした傭兵も少なくないのだ。
「じゃー場所の予約させな。そしたら後で揉めた時に口裏を合わせてやるよ」
「はいはい。希望はどこ?」
小規模ながら傭兵団を束ねているアマンダは他の傭兵達からも一目置かれる顔役の一人である。
彼女の賛同が得られれば他の傭兵を纏めるのもやりやすくなるだろう。
◇◆◇
その日の深夜。
昼間に本隊と連絡して早朝に仕掛ける旨を届けられてから早くに休息を取り、決戦に備えていた。
領軍の大隊が真正面から敵主力を釘付けにして、時間差で複数の中隊による強襲を試みて退路を塞ぎ、そのまま敵本陣の包囲を狭めて敵の数の利を封じる作戦らしい。
定石通りで無難。
良く言えば堅実で隙が無い。悪く言えば意外性が無い。
定石通りだからこそ、ある程度対策されるのも込みで、数の不利さえ無ければ押せると踏んだのか純粋なぶつかり合いを選んだようだ。
「いよいよだな。部隊の状態は?」
「はっ! 旗下の各小隊、いつでも出られます!」
小隊長が一歩前に出て敬礼をして報告した。
「選抜騎士隊も法士共々、万全を期して臨めますぞ」
副隊長がさも自信ありげにニヤリと口元を緩めてヴィンスに報告する。
「セレン、傭兵部隊はどうだ?」
「ようやく稼げるってんで気合いは十分だな」
あれは気合いというか、殺気というべきか。目付きが腹を空かせた猛獣みたいになっていた。
「ふん、有象無象の輩ではあるが、折角の中隊長殿のご厚意でここまで連れて来られたのだ。働きで報いてみせろ!」
もういい加減この副隊長の態度に慣れたセレンは、決戦を前にしても調子が変わらないのはある意味では才能というか、隊の緊張緩和に貢献しているのではないかと思った。
「言われるまでもない。アンタこそ流れ弾にでも注意してな」
「な、何だとっ! この、人が優しくすればつけ上がりおって。これだから卑しい出自の者は、我々に対する敬意が足らない!」
こうして部隊長以上が集まった最後の打ち合わせは終わった。
しかしセレンはどうも腑に落ちない。
「(優しさ、あったか…?)」
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