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【天を見上げる戦乙女】
第047話
しおりを挟む〘おめでとうございま~す!〙
不思議な声というより、思念とか意思のようなものが自分の存在へと直接伝わってくる感覚。
そこは光で満たされた空間だった。
〘貴女は生前の功績が認められて、栄えあるヴァルハラの英雄として選ばれました~! ハイ皆拍手~!〙
拍手は聴こえてこない。他の存在は感じない。
そんな事はお構いなく目の前(?)の謎の存在がテンション高めにやや芝居がかった仕草。
〘はい、そういう理由でね。こうして地上まで出張ってお迎えに上がったのです〙
その存在は何となく見た目は十代くらいに思われる、つまりは少年だった。
動きやすそうな半袖と前を開けたフード付きジャケットは赤や緑や茶色。ベルトの複数付いた半ズボンに編み上げのブーツも濃紺やベージュや濃緑。
黒い癖っ毛の頭には縞のバンダナ、首には刺繍入りのスカーフ、複数の腕輪から指空き革手袋に至るまで全体的に暗い色調だ。
その衣装や装飾品の全てに宝石らしき物があしらわれている。
〘混乱してる? 大丈夫大丈夫、英雄の人生はこれからだよ!〙
浅黒い肌は日焼けではなく地の色か。大きなアーモンド型の目の白さが際立ち、瞳は金色。
ペラペラと喋る口はやや大きく、暗い色調の姿とは対照的に口調はとても明るくて、自然な笑顔が気さくな雰囲気である。
〘僕? 僕は貴女を担当する神様で【エルドル】って言います。よろしくね~〙
どこまでも明るい声色で、こちらを気遣うように優しく語り続ける。
その自称神エルドル以外には何も感じ取れない。
〘じゃあこれからの事をざっくりと説明するよ? まずは~〙
エルドルは左手を上げてパチンと指を鳴らす。
すると光しか無かった空間に何処かの風景が浮かび上がった。
〘これから貴女の行く所は僕達の居る神界です。そこで『英霊登録』をしたら晴れてヴァルハラの戦士の一員。つまり『エインフェリア』になりま~す!〙
高き天空の雲を突き抜けて、空中に浮かぶ大小様々な浮き島と虹の架け橋。まるでお伽噺の一枚絵のような幻想的な風景を別々の角度から観た映像。
その浮き島の一つ、白亜の神殿へとズームアップして回廊を抜けた先にある噴水広場と大庭園。
そこで親しげに話す多種多様な種族の戦士や法士達の姿。
〘あれあれ~、テンションが低いぞ~? ヴァルハラだよヴァルハラ! エインフェリアだよエインフェリア! 地上の戦士の憧れ、あの世で就職したいと思う職業No.1の超人気職だよ?!〙
猛獣の毛皮を頭から被った大男が大剣を軽々と振るい遠くの岩を一息に破壊して、つば広の帽子を被る肉感的な女性が杖に腰掛けて空中に浮かび氷の矢の雨を降らせる様子。
白銀の甲冑を身に纏う大盾の聖騎士は剣で十字を切って周囲に光の柱を広げ、完全武装をした四頭の戦馬に引かせた戦車の上では豪奢な衣装に身を包んだ男の指揮で複数の弩弓から稲妻を帯びた矢が放たれる。
〘もう、仕方ないな~。ノリが悪い貴女の為に順番を入れ替えて、先にお得な特典からご紹介しちゃいましょう! じゃじゃ~ん!〙
こちらの反応がいまいちと見るや、映像は切り替わり人で賑わう市場の様子が映し出された。
そして自分の前にも高位古代語で綴られた《ラグナロクショップ》という色彩豊かな看板らしきものが出現したではないか。
何処からともなくファンファーレが鳴り響く。
〘これが《ラグナロクショップ》です! どう、凄いでしょ? 僕が創ったんじゃ無いんだけどね!〙
どう凄いのかさっぱり分からないので訝しんでいたら、突然《ラグナロクショップ》の基本的な使い方が知識として入って来た。
〘本当は神界で英雄登録してから使えるようにするんだけどね。ちょっと前倒しして僕の権限で《ラグナロクショップ》にアクセス出来るようにしといたよ。じゃあ早速開いてみようか!〙
何故か楽しげなエルドルはともかく《ラグナロクショップ》にアクセスして開いてみる。
綺麗なエフェクトと効果音が鳴ってアイコンとサービスの一覧が表示された。
効果音が煩かったのでシステムを選択して音量を下げる操作をスムーズにした所で、頭に入った知識が本物だと理解した。
〘開いてみた? じゃあ簡単に説明するね。《ラグナロクショップ》で受けられるサービスは大きく分けて四つです〙
画面が切り替わってサービスの一つが選択される。
〘一つめは『セットアップ』だよ。英雄自身の魂に少しだけ手を加えて色んな調整ができるよ。例えば、ヨボヨボのお爺ちゃんの魂を若返らせて全盛期の力を出せるようにしたりね〙
任意の肉体年齢への変更。肉体年齢の固定。欠損した肉体の治癒。肉体能力の強化。言語の習得。知識の習得。技術の習得。装備の変更。等など。
〘二つめは『天上工房』だよ。英雄だって誰も彼もが素手じゃ戦えないよね? だからここで自分の欲しい武具とか道具を発注すると、なんと神界の工房にオーダーして貴女だけの一品モノを頼むことだって出来ちゃいま~す!〙
武器、防具、消耗品、小物、魔道具、アーティファクト、衣装、アクセサリー、家具、寝具、家畜、馬具、ペット、参考書、魔道書、器具…、等など。
〘三つめは『祈願』だよ。主に担当の神様にお願い事をできるんだ。お願いの内容は人それぞれだし、叶えられる事は限られるけどね。例えば特定の死者と神界で再会させて下さい、とかは多いよね〙
祈願、要望、陳情、アンケート、イベント、依頼、質問、交流、日記…。余計な物も見える。
〘四つめは『転生』だよ。英雄にもちゃんと人権はあります。神々としては戦って欲しいのは山々だけど、頑張ってる子にはより良い来世を送れるように転生特典を付けてあげちゃいます!〙
開こうとしたがこれは無反応。神界で頑張ってからしか選択出来ないのかも知れない。
〘他にもあるけど、だいたいこんな感じだよ。詳しくは向こうに着いたら係の子に聞いてね。それともう一つ、《ラグナロクショップ》を使う上で大切な事を教えるね〙
とりあえず武器防具の一覧を観て、気に入った見た目の槍を注文してみる。
『三式アラドヴァル:15000R』ポチッ。
しかし[R(ラド)が足りません]という表示。しかも値下げ交渉のアイコンが無い。これは不具合では無かろうか?
早速『要望』の欄を連打する。だが無反応。
〘あのね《ラグナロクショップ》では専用の通貨である『神貨(ラド)』を使うよ。神貨(ラド)は神々の依頼をこなしたり、ヴァルハラの戦士としてラグナロクリーグで戦う事で手に入れられるね。当然、難しい依頼ほど沢山貰えるし、良いサービスを受けたかったら必要な神貨(ラド)も高額になるんだけどね〙
今すぐ神貨(ラド)が貰える要素が無いかとショップ内を探してみる。
何かの拍子に神貨(ラド)が無くても買えないかと思って高額商品の購入を試す。
[R(ラド)が足りません][R(ラド)が足りません][R(ラド)が足りません][R(ラド)が足りません][R(ラド)が足りません][R(ラド)が足りません]
〘はい、これがエインフェリアになって受けられる特典です。凄いよね、普通の人はこんなサービスは受けられないもん。だからエインフェリアが人気職なのも分かるでしょ?〙
『質問』のコーナーを連打する。だが無反応。
〘あ、ここまでで何か質問したい事はあるかい?〙
更に『質問』を連打する。何故か反応が無い。これはきっと不具合。もっと気合いを入れて連打の必要があるのだろうか。
〘…おや、もしかして喋れない? あれあれ、おっかしいな~。何となく感情は伝わるんだけど、無言なのは変だと思ってたんだ。もしかして僕、ちょっとフライングし過ぎたかな~?〙
神様がやっと不具合に気が付いたらしい。
〘えっと、これをこうしてっと…。(テステス、こちらマイクのテスト中~)はい、僕と『念話』を繋げてみたよ。これで会話が出来るね!〙
(ふっざけんなコラァァァーーッッ!!)
セレンはようやく感情表現の手段を得て、力の限り神を怒鳴りつけた。
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