黄昏に舞う戦乙女

Terran

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【天を見上げる戦乙女】

第051話

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ー△▲△ー



〘はいはーい。貴女の頼れる神様エルドルですよー!〙

(…このタイミングで来るのかよ。空気読んで?)

〘ええ~、神様呼んだよね? タイミングもドンピシャだよね? 空気はむしろ読んだよね? だからもう大丈夫。ちゃんと答えを持ってきました。そんな貴女にピッタリのお仕事です!〙

(そんな都合良くあれもこれもどうにか出来て、駄目なアタシにも意味のある解決策なんて本当にあると思ってんの? 神様なのに頭沸いてるの?)

〘凄く、ひどいです。それでも神様はそんな貴女の為にちゃんと主神様と交渉してきました。安心してね?〙

(…分かった。一応聞いといてあげるから言うだけ言ってみたら?)

〘うん立場逆だよね、普通。でもちゃんと教えます。貴女にはなんと『戦乙女』をやって貰うことになりました~! これって前代未聞です!〙

(つまり誰を殺せばいいの?)

〘殺伐してる! 話が早くて助かるけど! えっと強い地上の英雄や戦士をなるべく戦いの中で戦死させて神界送りにして下さい。主神様には『高額払ってリーグに参加させるより、事故で生き返って働かせた方が結果的にはお得だった』と思わせれば良いんです!〙

(アタシが地上で殺しまくって、そいつを神界で働かせれば神々は潤うって話でしょ? それで戦乙女とか笑っちゃうほど外道ね。それを許可するんだから酷い神々だわ)

〘うん。地上には職業に貴賎なしっていう言葉があるんだけどね。この仕事は一般には汚れ役だけど、今の神界の逼迫した状況においては救世主となります!〙

(神々は本当に戦争好きだったのね。でもいいわ、気分は最悪だし他に選択肢は無いし。理不尽な暴力装置なんてクズのアタシにピッタリじゃない。その仕事、殺ってあげる)

〘発音が不穏! でもこれで貴女は名実ともに【地上の戦乙女】です。ああそうそう、《ラグナロクショップ》はそのまま使っても大丈夫だよ。サービスを利用する為の神貨(ラド)は送ってくれた英雄のオークションで落札された額の一部から与える完全出来高払いとのことです。やったね!〙

(ふーん。傭兵のアタシにとっては雇用主が変わっただけで今までと大して変わらないわね)

〘正確には臨時雇いの戦乙女の下請けだね。一応神界の書類上は僕『エルドルの使徒』という扱いになるよ。うん、説明は以上だけど何か聞いておきたい事はあるかな?〙

(英雄になれない連中を殺すとペナルティとかあったりするの?)

〘なるべく死の運命に無い人は殺して欲しくないんだけど、戦場に居る場合はその限りではないね。もう少ししたら以前に要請してた派遣の戦乙女が来る予定だから、お仕事関係の詳しい話はその娘に聞くといいよ。今回は特別だったけど今後僕はこんな風に気軽にお話しに来れなくなっちゃうからね〙

(じゃあエルドル様。これから頑張るアタシに具体的な激励とかしてくれないかしら?)

〘具体的な激励って、要するに何かご褒美をあげるってことかな? うん、何か考えとくよ。もう『念話』とか《ラグナロクショップ》とか『主神様との交渉』とか色々しちゃってるような気もするけど。僕は貴女の神様だからね!〙

(さすがはアタシの神様は太っ腹だわ。こっちとしても払いの良い依頼主は大歓迎よ。特別にアタシの事をセレンディートって呼んでもいいわ)

〘え、本当に! それは凄~く嬉しいよ! 感激だなあ、神様やってて良かった~! これからよろしくねセレンディート!〙

(こっちの名前なんかで何でそんなに喜ぶのよ…)

〘おほん! もっと色んなお話したいけど、そろそろ時間みたいです。これから大変だと思うけど頑張ってね。セレンディートは運命の歯車から外れてしまったから何時何処で死んじゃうかは神様でも分からないので、くれぐれも気を付けるんだよ? 僕はいつでもセレンディートの幸せを願ってるから!〙



◇◆◇



 時間と意識が戻された次の瞬間。
 涙と嗚咽にまみれる己の肉体の不快感に顔をしかめる。

「はぁ…、はぁ…。そっか、このタイミングだった」

 心の整理がつくまで無理せず泣く事で、セレンは自分への戒めとして受け入れた。
 エルドルの所に呼び出されたタイミングは最悪ではあったが、己を罰するには最適なタイミングでもあったらしい。

「神様ってこんなに過保護なものなの? だとしたらエインフェリアも悪くないのかもね…」

 セレンは自分をやけに気遣う神を思い浮かべて、神界も案外悪い場所では無さそうだと思い直し、それを蹴った己の決断を自嘲する。

「ちゃんと信仰した方が良いのかな…。あ、でも何を司ってる神様なのか聞いてなかったわ」

 そこで、またしても自分の事しか考えていなかった己の悪癖が、あれだけの事があった後でも全く改善されていない事実に呆れ果て。
 馬鹿は死んでも治らないを実体験で理解してしまった。

「ヴィンス、ベテルギウス。ごめん、アタシはもっと先へ進む…」

 治らないのなら仕方が無い、と。
 治せないなら、そういう生き方しか出来ないのだと、今更抵抗する気にもなれず、有りのまま受け入れるしかなかった。

「たぶんアタシのこれは二度と無い奇跡。だから次に死んだら神界で会うことになると思う。その時が来たら、愚痴くらいは付き合うわ」

 それが愚かな自分に出来る精一杯。

「こうしてアタシだけのうのうと生きていくなんて、間違ってる事なのは分かってる…」

 けれど、どんなに忌々しかろうともそれが自分なのだと、力無く嗤う。

「…っ…。神様ごめんなさい。明日からはお仕事ちゃんと頑張るから…。今日は…ッ…ぅ…」

 セレンは泣いた。
 その涙すらも、結局は自分の為にしか流せないと思い知っても。
 そんな自分を信頼してくれる人が居るのなら、せめて自分らしくある事を決して辞めない為に。

 一本筋を通して。
 強く、強く、明日を生きる為に。




◇◆◇




「あ~、空が綺麗だわ」

 先月まで雪がちらついていたのが嘘かと思うほど穏やかな春の日差しに美しい青空が広がり、大地には華が咲き乱れ、昨日まで活気付いていた人々の声は鳴り潜め、穏やかな風が香りを運ぶ。

「(ヴィンスはあの天の向こうへ行ったのかな。アタシも受け入れていれば一緒に行ったのかもね)」

 初春の冷たい風も和らぎ、本格的な春の訪れを肌で感じる。
 天を見上げて大きく深呼吸を一つ。

「(でもアタシは生にしがみついて今こうして地上に立ってる…。なら、せいぜい足掻いて生きてやろうじゃない! あの世で会いに行くなんて後からでもできるんだし!)」


 この日、改めてセレンディートは

 【地上の戦乙女】に成った。






ー《第一章・完》ー



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