フルーツティーと恋の味

おもち

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フルーツティーと恋の味

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――失恋した。
頭に浮かんだ言葉はじわじわと体を侵食していく。どうしようもできない、やりきれない気持ちでいっぱいになる。幼なじみ、家が隣同士、クラスもずっと同じ、好きなスポーツも一緒、後は・・・・・・後は。漫画や小説ならこんなに条件が揃っているなら2人は両片思いで物語が紡がれていって、卒業式には両思いだって分かってハッピーエンドを迎えるはずなのに。なのに、どうして。ふにゃりと頬を緩ませながらしあわせなオーラを漂わせる彼の目に映るわたしは、上手く笑えているのかな。今ここで好きだと伝えたら・・・・・・ダメ。言えるわけない。笑顔の理由がわたしじゃなくても、わたしはこの笑顔が好きだから。失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した、失恋した。あと何回言い聞かせればわたしの体はその事実を受け止めてくれるのだろう。受け入れるのは先でもいい、受け止めるだけでもいいのに。1秒って、こんなにも長いものだっけ。

「うーん、でもちょっとびっくりしちゃったな。大地がやってたアプリゲームの同じギルドの子かぁ。オフ会もあったもんねえ」

「チャットだとすげー元気な子ってイメージなのに、実際に会ったら大人しくて驚いたんだよなー。あ。元気だからいいとか、大人しいから悪いって意味じゃないぞ」

「はいはい、わかってます。それで?心惹かれたのはどんなところなのかにゃ?」

「お前、その聞き方はからかってるだろ!」

「いや、その子の事を知りたいだけ」

頬を膨らませてぷんぷんする大地は、真っ赤な顔をしてわたしを睨む。テーブルの上に置いてあるガラスのティーポットに手を伸ばそうとしたら、大地が先に掴んでわたしの空になっているカップにとくとくと注いだ。瞬間、オレンジの香りが鼻腔をくすぐる。どうしてかな。たったそれだけの事で、目尻に涙が浮かんだ。さり気なく人差し指で涙を拭いながら、ありがとうと感謝の気持ちを伝えると、んーっと気の抜けた声が返される。こくこくと飲むと、さっきよりも香りを強く感じて自然と美味しいと声に出た。

「もう、ぬるくなってないか?今更だけど熱いの入れて注ぎ直そうか?」

「あはは。大丈夫、だいじょーぶ!ぬるくなっても美味しいよ」

そう。ぬるくなっても美味しい。大地に好きな子がいたことも知らず、いつの間にか付き合っていた事を知った今でも大地に対する気持ちはまだ残っている。大地もきっとわたしの事を好きだと思っていた、勘違いしていたからこそ余計に消化しきれないのかもしれない。好きな人に好きな人がいる事が分かった瞬間、スッパリ諦めればいいのに。なーんて、漫画を読んでいた時は思っていたのに現実はこのザマだー。わたしってやつはー。いーやーにーなーるー。

「そういえば、花梨(かりん)はこのフルーツティー好きだよな」

「ん?うん。オレンジ多めだからオレンジの香りが強いけど、りんごとかキウイも入ってるからかなぁ。なんかこうー、ふわふわふぁーんっていう、なんていうの。複雑な香りになってるし、見た目も楽しめ・・・・・・何、声殺して笑ってるのよ」

大地の作ってくれるフルーツティーの表現をわたしなりに伝えようとしたら、大地はソファの肘掛けにもたれて顔を背けながら肩を震わせていた。ふっ、くくっと声にならない声を漏らしている。もう!語彙力の無さは分かってるわよ!

「んんっ、わ、悪い。花梨の独特な表現、やっぱり好きだわ。おもしれーもん。ふひっ」

「ぁっ・・・・・・ふひって変態みたいな笑いになってるわよ」

「だっはっはっはー!!!!」

「だからって大笑いしなくてもいいわよ!!」

糸がぷちんと切れたようにお腹を抱えて笑い出す大地とは反対にわたしの心は風のない日の海のように、ゆらゆらとしながらも落ち着いていた。わたしに向けて言われた『好き』なのに、いつもと変わらない含みのないトーンに心臓が握り潰されそうになる。何も知らなかった30分前のわたしなら大喜びしてただろうな。知ってしまった今のわたしには痛くて堪らないよ。

「このフルーツティーはさ、彼女に教えてもらったんだよ。落ち込んだ時にリラックス出来るやつないかなってギルドのグループチャットで聞いた時にさ」

「恥もなく彼女呼びできるとはやりおるな、大地殿」

「ばっ!今のはそういうのじゃなくて!と、とにかく!教わったんだ!」

「つまりわたしは彼女を味わっているも同然」

「言い方。あー、でも。どんなフルーツにするかは俺が花梨の為に考えたからどちらかと言うと俺を味わってることになるな。オレンジもりんごもキウイもお前が好きなやつだろ?」

大地って、そういうとこある。だからわたしは、大地に。そんな大地に。

「大地はさ、なんで今日このフルーツティーを用意してくれたの?わたしがせがんでも作ってくれないのに」

声が、震える。上擦る。壁に立てかけてある時計の音が、やけに大きく聞こえる。

「言わないと、ダメかな」

時間が一瞬、止まった気がした。空気が重い。ずしんと広がる見えないものに、押しつぶされそう。ううん。むしろ、押しつぶしてほしい。自分の足でここから逃げるのは無理だから。はっ、と息を吐いて気付いた。呼吸するの、忘れてた。

「ずるいよ、大地。わたしには言わせてもくれないんだ」

「確信がなかったから。俺の勘違いかもしれないし。でも、もしそうだったらって」

ぽちゃん――カップの中に涙が落ちた。波紋が広がって、歪んだ顔のわたしと目が合う。笑顔、作れてないじゃない。

「わたし、一生フルーツティーに嫉妬してやるんだから」

「彼女にじゃなくて、フルーツティー?」

腑抜けた声を出す大地に目をやると、ぽかんとした顔をしていた。ばか。

「わたしは何度もこのフルーツティーに救われたの。いつも大地が作ってくれたけど、作り方を教えてくれた彼女・・・・・・さんにも救われたようなものでしょ。だから彼女さんに嫉妬するのもなんか・・・・・・もにゃもにょするのよ」

「出たよ、花梨節。俺がいうのもなんだけど、嫉妬しないって選択肢はないのか?」

「ないわ!フルーツティーに嫉妬することで、嫉妬し続ける事でわたしは・・・・・・わたしは」

失恋を受け止める事ができそうだから。わたしに振り向いてくれなかった大地を恨むこともできない、彼女さんに嫉妬するのも何か違う気がする。それなら2人を繋ぐ役割を果たしたフルーツティーに嫉妬するしかないじゃない。結局、わたしはこうなった今でもこのフルーツティーを嫌いになりきれないでいるんだから。カップに揺らめいているフルーツティーを、一息にごくごくと喉を鳴らして飲み込んだ。

――失恋した。

「大地。わたし、今日のフルーツティーの味、一生忘れないよ。今まで、ありがとう」

「花梨・・・・・・ごめ・・・・・・いや。俺こそ、ありがとう」

いつか、ガラスのティーポッドに入っているフルーツを食べられる時がきっとくる。紅茶が染み込んでじんわりと深みを増した味。きっとまた、泣いてしまうけど。今日はここまで。受け入れるのはまだ先でもいいよね。
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