【後日談追加】男の僕が聖女として呼び出されるなんて、召喚失敗じゃないですか?

佑々木(うさぎ)

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第四章 分岐

帰り道 **

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「タカト、そこは危ない。下りておいで」

 優しく語りかけてくる声。
 じゃりっと近寄る足音がして、僕は肩越しに振り返った。

「来ないで……ください」

 背後に立っていたのは、やはりリディアンだった。
 どうやってここがわかったんだろう。
 でも、そんなことはもうどうでもいい。
 何もかも、もう遅い。

「もういいです。帰れなくても、ここからいなくなれればそれでいい」
「タカト」

 リディアンが静かに名前を呼んだけれど、僕は聞き入れずに続けた。

「わかっています。僕が望んでも、もう帰ることなんてできない。帰り道はないって」

 リディアンが手を伸ばしてきた。
 捕まりたくなくてわずかに後退ると、手摺からかかとがはみ出た。

 周囲から悲鳴が聞こえて、僕の姿が他にも見られているのだとわかる。
 普段の僕なら、リディアンのことを考えて、そこでやめる自制心があった。
 でも今は、何も考えたくない。

 近づくリディアンに、首を振って拒絶を示す。
 これ以上、傍に寄られたら、僕は何をするか自分でもわからない。
 
 瞬きをしたら、涙が頬を伝った。
 その時だ。

「俺も一緒に探すよ」

 リディアンは、真っすぐに僕を見て言った。

「お前が帰る方法を、俺も探す。無事に元の世界で暮らせるように、一緒に道を探そう。──だから、こっちへおいで」

 そんな簡単なことじゃない。
 異世界への扉なんて、そうそう開かないし、道なんて見つかるわけがないじゃないか。

「無理です」

 そうわかっているのに。
 僕を助けようと必死になるリディアンを見ていたら、心が痛んだ。
 僕が帰って一番困るのは、リディアンのはずだ。自分のサガンを失うのだから。
 それでも、今僕に語り掛けてくれるその言葉は、嘘ではないとわかる。

「タカト」

 柔らかく微笑んで両手を広げるリディアンに、心が動いた。

「俺は、必ず帰り道を探し出す。お前を元の世界に送ると誓う」

 そんなことを言えば、自分が追い込まれるとわかっているのに。
 たとえ道が見つかったとしても、元の世界に送るなんてできないはずだ。
 サガンを失えば、一体どうなってしまうのか。
 周りからもどれほど責められるか、わからないリディアンでもないのに。
 それでも、僕の気持ちを優先してくれようとしている。

「おいで。そこは寒い。アデラ城に帰ろう」

 この場限りの言葉じゃなく、リディアンなら必ず全力を尽くす。
 僕は、リディアンがそういう人間だと、誰よりも知っている。
 そんな相手を、これ以上どうやって拒めるだろう。

 僕は、リディアンの方へ手を伸ばし、そこで力を失った。

「タカト!」

 リディアンが僕を受け止め、グンターが走り寄ってくる姿が見えた。

「裏手に馬車を寄せました。そこから帰れます」
「わかった。案内を頼む」
 
 リディアンは僕をマントで包み、抱え上げた。

「通してくれ!」

 馬車で移動しているうちに、身体は熱を帯び、吐息が熱くなっていった。
 僕は馬車に揺られながら、痛いほどに拳を握り、奥歯を噛み締めて耐えていた。



 アデラ城に着いて部屋に入ると、ベッドの上に仰向けに寝かせられた。
 僕は必死に空気を求め、浅い呼吸を繰り返す。
 喉がひりつき、唇が渇いている。頭が痛くて、胸が苦しい。

「タカト、これから水をたくさん飲むことになる。俺が飲ませるから、慌てずにしっかり飲んでくれるか?」

 僕は何とか頭を上下させて頷いた。
 リディアンが水を口に含み、僕に顔を寄せる。
 口移しをするつもりなのだとわかり、僕は胸を押し返した。
 それでも、リディアンは僕の顎を指先で固定して、唇を合わせてくる。

 どくりと心臓が跳ね、僕は鋭く息を吸い込む。

「ぐ……けほ……っは」

 噎せてしまって半分も呑み込めず、口の端から水が零れ落ちた。
 リディアンは僕の口元をタオルで拭い、落ち着かせるように頭を撫でる。

「慌てなくていい。少しずつでいいから飲んで」
「いや、だ……」

 これ以上、リディアンに触られるのも、誰かの体温を感じるのも嫌だ。
 一人になりたい。そっとしておいてほしい。
 
 身を縮めて、視線で訴えると、リディアンは目元にキスを落とす。

「いつもしているキスだ。俺とのキスが、嫌になった?」

 リディアンとのキスは嫌じゃない。でも今は、したくない。
 上手く伝えることができず、歯がゆくて、また涙が零れた。
 僕の涙を指先で拭い、前髪を梳く。

「喉が渇いているんだろう? もう一度飲もう」

 頬を指の背で撫で、リディアンは語り掛けてくる。
 そして、また水を口に含んでから唇を触れ合わせる。

「……ん……っは」

 コクリと飲み込んだ水は、これまで感じたことがないほどに美味しい。
 僕は、貪るように飲み、リディアンの唇に吸い付いた。

「落ち着いて。焦らなくていい。ゆっくり飲んでいこう」

 それから、リディアンは少しずつ、時間をかけて僕に水を飲ませた。
 水を飲むにつれて、喉のひりつきは治ったけれど、もっと身体が熱くなる。

「もう、……いや……」
「タカト」
「やめて、くださ……」

 リディアンから顔を逸らし、顎を引いたところで、身体の奥底から熱が湧き起こった。
 それが何であるのか、わからないほど子どもじゃない。

「いやだ……っ」

 頬が熱くなり、リディアンから逃げ出したくなる。
 でも、ベッドとリディアンの身体の狭間で、どこにも逃げ場がない。

「は……っあ……う」

 足先までじんと痺れて、僕は身体を跳ねさせた。

「我慢しなくていい」

 リディアンは僕の頭を撫で、髪にキスをする。
 その途端に、ガクガクと身体が揺れ、僕は喉を反らして射精した。

「あ……く……っぅ」

 射精の余韻で身体が浮き立ち、空気を求めて唇を開ける。
 リディアンが唇の端にキスをしてから、口腔内に舌を入れてきた。
 ぬるつく舌に口の中を弄られて、身体がびくびくと揺れる。

「ん……は……っいや、……っあ」

 射精したことを悟られ、快感に蕩けた顔を間近から見つめられて、僕は恥かしさに居た堪れなくなる。

「リディ……1人、にして」
「もう少し水を飲んで、落ち着くまでいるよ」
「おねが、い……リディ……は……っあ……」

 息遣いが荒くなり、また股間に熱が集まった。

「タカトのせいじゃない。媚薬の効果なんだ。──これはその治療だ」

 リディアンは、僕に覆いかぶさって、深く濃厚なキスを仕掛けてくる。

「ん……っぁ……ゆる、し……っ」

 このままでは、またイってしまう。
 何とかリディから逃れようとしたその瞬間、リディアンは僕の股間に触れた。

「いやっ……だ!」
「しー。落ち着いて」
「や、だ……ぜった、い……さわら、な……っ」

 混乱して必死に訴えたが、声は唇で封じられて、押し返していた手を捉えられた。
 手首を一つにまとめてシーツに縫い留めて、リディアンは布地の上から僕自身に触る。
 さっき触られた時には、吐き気がして苦しかったけれど、今は快感が苦しい。

「んく……っんん……っ」

 逃げ惑う僕の舌を絡め取り、吸い上げ、その間に今度は下穿きの中へと手を入れてきた。

「んんっ……んーっ……は……ぁ……ふっ」

 下穿きの中は、きっと僕が出した精液で汚れている。
 それなのに、リディアンは構わずに僕を握り、ゆったりと手を上下させる。
 滑らかな手のひらに包まれて、先端を撫でられて、僕は2度目の射精に導かれた。

「んぁ……っあ……は」

 顎を上げて啼き、僕に絡みつく長い指を外させようともがく。

「タカト。気持ち悪い?」

 気持ち悪くはない。リディの手は気持ち良くて、耳元で囁く声やしっとりとした唇も、僕を刺激してくる。

「さわ、らな……で……また、イく、から」
「いいよ。イって。いっぱい出して」

 直接的に言われて、僕は首を振った。

「いや、だ……もう……」
「どうして? これ、気持ちいいよね」
「ああ……っあ……くぅっ」

 先端をくるくると撫で、くびれた部分をいじってくる。
 僕の腰が揺れて、吐息が余計に乱れ、声が上がってしまう。

「俺にすべて委ねて、力を抜いて。──そう、いい子だ」
「リディ……だめ、また……っああ……ああ……──っ」
 
 一際高い声を上げ、ぶるぶると身体を震わせる。
 腰を突き上げ、リディアンに握られた状態で、僕は勢いよく吐精した。
 びゅくびゅくと放たれたもので、リディアンの手を汚し、僕は身を竦ませた。
 
 リディアンは、口移しで水を飲ませ、こめかみや耳の傍にもキスをしてくる。
 冷たい唇は肌に心地良くて、僕は目を開けていられなくなった。

「眠って、タカト。俺の胸でおやすみ」

 頭の芯が揺らいで霞み、瞼が重くなる。
 僕は、リディアンに言われた通り、胸元に身を寄せて眠りについた。
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