俺が同期の不破と付き合うようになったわけ

佑々木(うさぎ)

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俺が同期の不破と付き合うようになったわけ

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 外では雷が鳴り、ゼミ室の蛍光灯がチカチカと点滅する。
 これは、そのうち停電するんじゃないかと、俺は天井を見上げながら思っていた。

「では、次回の発表者は──」
「はい、俺です」

 ゼミ生の顔を追っていた教授に向けて、俺は手を上げた。

「ええと、君は……桜井くんだったか」

 惜しい!
 と言いたいところだが、相手は教授だ。
 ここで笑いを取るわけにはいかない。

「佐倉です」

 きっと今、樹木の方の桜が思い浮かんでいるんだろうなと思ったが、俺はただニコニコと笑う。

「そうか。レジュメは2日前までにメールで送るように」
「はい、わかりました」

 残り1週間もあれば、発表原稿は準備できるはずだ。
 余裕でメールを送れるだろうと、俺は返事をした。

 そして、次の講義に行こうと席を立ったところで、「ああ、そうだ」と教授は続ける。

「不破くん」

 名前を呼んだ相手は、俺の同期だ。
 どうやら、そっちの顔と名前はしっかり覚えているらしい。
 それはそうだろう。向こうは、卒業後は研究室に残る人間だ。
 学部卒で就職しようとしている俺とは扱いが違って当然だ。

 不破は、二年の時に既に学会でポスター発表し、既に卒業論文を書き始めていると噂されている優秀な学生だ。
 見た目はパッとしないが、将来有望だということで同期の間でも人気がある。
 名前を呼ばれるとペンをしまう手を止めて、教授の方を見る。
 だが、返事はしない。
 こういうところが、不破が「不和」と影で揶揄される原因となっている。

 だが、教授の方では気にならないのか、続けて言う。

「この後、時間はあるかね」
「ありません」

 今度は即答だ。
 いや、教授は時間の有る無しを純粋に聞いているわけじゃない。
 用事があるから残れと言っているんだ。
 
 俺は他人事ながら、ハラハラして成り行きを見守っていた。

「おい、佐倉、聞いていたか?」
「ん? 何?」

 不和と教授のやり取りに気を取られて、俺は同期の話を聞いていなかった。

「この後、実習の準備をするから、ちょっと手伝ってもらえないか?」

 実習というのは、教育実習のことだ。
 母校に戻って教壇に立つわけだが、それは来年のことで、別に今からやる必要はない。
 要するに、自主勉強みたいなものだ。
 ここで不破みたいに、「時間がない」と言えればどんなにいいだろう。

「あー……」

 何か用事は見つからないかと脳をフル稼働させ、俺は微笑んだ。

「ごめん! 不破と約束しているんだ」
「え、そうなんだ?」

 半信半疑と言った感じで聞き返されて、俺は頷いて肯定した。

「じゃあ、また今度な」

 そうして、何とかゼミ室を出ると、廊下に不破が立っていた。

「ん? 何?」

 じっと見つめられて問うと、不破はゆっくりと口を開いた。

「僕との約束って」

 そうだった。
 今まさに目の前で、不破を出に使ったんだった。

「いや、別に……ちょっと話したいなって前から思っていて」

 どうせ時間はないはずだ。
 教授に素気無くしたんだから、俺のことも断るだろう。

 すると、不破は首を傾げて「わかった」と言った。

「は?」
「佐倉と話す」

 こうして俺は、不破と会話をすることになってしまう。
 だが、今ここで続けるわけにはいかない。
 もうすぐ、ゼミ室から同期が出てくるからだ。
 不破との話がこんな場所で済むのなら、終わったら手伝えと言われそうだ。

「ええと、そうだな」

 学内のカフェテリアだと遭遇しそうだ。
 かといって、こいつと二人、どこに行っても気詰まりだろう。
 その時だ。

「うちに、来る?」
「うちって?」
「僕のマンション、すぐそこだから」

 不破の部屋に行く。
 この3年間、数えるくらいしか言葉を交わしたことがないのに、突然部屋に押しかけていいものか。だが、本人が誘っているのだから、いいんだろう。この不破が、社交辞令を言うとも思えない。
 それに、これ以上ここに留まるわけにもいかない。

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 引きつった笑顔で言うと、不破は頷いて先を歩き出した。
 ついて来いってことなんだろう。
 俺は、不破の背中を見ながら後ろを歩いた。

 こうして見ると、バランスのいい身体をしている。
 背は俺より少し低いが、175以上はあるだろう。
 痩せている印象はあったが、肩幅はしっかりしている。
 半袖シャツの袖から覗く腕も、華奢というほどではない。
 ただ、筋肉はなさそうだ。
 外で運動をしそうにないし、そのせいか色も白い。

 じっと観察していると、突然足を止めた。
 俺も同じように立ち止まったところで、くるりと俺を振り返る。

「ここ」

 そうして、指差したのはアパートではなく、本当にマンションと呼ぶにふさわしい建物だった。
 実家が太いのか。
 まさか、金持ちなのかと直接は聞けない。

 エレベーターで11階まで行き、不破は先に降りた。
 俺も続いていくと、カードキーを翳してドアを開け、俺が入るのを待っている。
 意外と気遣いのできるヤツなのかと思いながら、「お邪魔します」と言って部屋に入った。

 ドアを開けた先には、ドアが3つ。
 1Kの俺の部屋とは雲泥の差だ。

「もしかして、家族と同居?」
「いや、1人」
「あ、そう」

 俺を追い抜き、真ん中のドアを開けたところで、広いリビングが見えた。
 本当に、こんな広い部屋に一人で住んでいるのか。
 そう思いながら通されるままにリビングに足を踏み入れる。
 すると、壁の3方がすべて本棚になっていた。
 しかも、ぎっしり本が並べられている。

「これ、全部読んだのか?」

 聞いてすぐに、なんて頭の悪そうな質問だろうと思った。

「悪い、今のなし」

 俺が腕でバツを描いて言うと、不破は頷いてキッチンの方へ歩いて行った。
 そして、グラスを二つとペットボトルの麦茶を持って戻ってくる。

「これくらいしかない」
「いいよ。充分だ」

 ちょうど喉が渇いていたから、麦茶は助かる。
 俺がソファに座ると、不破はその傍の床に座った。
 ラグが敷いてあるとはいえ、そんなところじゃなくて隣に座れば良くないか?
 
「不破、ここ座れよ」

 不破は俺を振り仰ぎ、押し黙る。
 奇妙な間が生まれて、俺は言葉を選んで言い直す。

「見下ろしていると話しづらいから、隣に座ってほしい」
「わかった」

 そして、床から立ち上がると、ソファの一番端に座った。
 そんなに近付きたくないのなら、なぜ部屋に誘ったんだろうか。
 俺は不可解に思いながら、麦茶を一口飲んだ。

「それで、話って」
「あ、ああ、そっか」

 そういえば、話があると言った結果がこれなんだっけ。
 俺は、額を指先でトントンと叩き、話題を探した。
 だが、何も浮かんでこない。
 そこで、ふと女子たちの話を思い出した。

 ──「不破くんって、血液型何型だと思う?」
 ──「Aじゃない?」
 ──「あの我が道を行く感じは、B型だと思うけどな」

 俺は、頭に浮かんだその質問を、そのまま不破にぶつけた。

「不破ってさ、血液型何型?」
「どうして」
「……え?」

 もしかして、血液型の話は地雷だったか?
 最近、「ブラハラ」という言葉もあると聞く。
 ブラッドタイプハラスメントの略で、血液型で差別をすることだ。
 そんなつもりはなかったが、これは指摘されても仕方がない。

「いやあ、不破のことをもっと知りたくなったから、かな」

 嘘ではない。
 女子の言葉もそうだが、あまり自分のことを語らない不破に興味はある。
 普段何を食っていれば、そんなに頭が良くなるのかとか。
 何が楽しくて生きているのかとか。
 聞きたいことは、山のようにある。

 なら、それを1つ1つ聞いていくのも悪くない。
 これは、最初の話題が悪かっただけで、話の方向性としてはまだ挽回できる。

 そうやって一人で次の質問を考えている間、不破はただじっと俺を見ていた。
 前髪で隠れて見えていなかったが、色素の薄い虹彩をしている。
 陽が射し込むと、ますます茶色がかって見える。
 肌の白さも相俟って、日本人離れしているように見えなくもない。

 ソファに座り、向かい合って見つめるというのは、同期同士であってもなかなかないことだ。
 これで相手が女子なら、恋のきっかけにならなくもない。
 だが、相手は不破だ。
 きっと、話と言いながらどうでもいいことを聞いた俺を、正直胡散臭く思っているに違いない。

「僕もだ」

 突然、不破はそう言った。
 前後の文脈がわからず、俺は自分のさっき言った台詞を反芻しようとした。
 だが、その前に、不破は身を乗り出してきた。

「佐倉のこと、もっと知りたいと思っていた」

 淡々とした喋り方だが、妙に胸に響く。
 さっき俺が口にしたのと変わらないセリフのはずだ。
 それなのに、どくりと心臓が跳ねた。

「付き合って、くれますか」

 いきなり敬語で聞かれて、微妙に引っ掛かりを覚えた。
 だが、特段断る理由もない。

「ああ、付き合うよ。今日は──」

 俺は、そこで言葉を失った。
 今日は無理でも、明日なら付き合える。
 そう続けようと思っていた。
 だが、不破は俺の手に手を重ねてきた。
 微かに震える、冷たい指先。
 俺の双眸を覗き込む瞳も揺れている。

 顔色は変わっていないが、俺に向けられた直向きな眼差しが、すべてを物語っていた。

「……俺、男だけど」
「知ってる」

 返ってきた声には温度がなく、やっぱりいつもの不破のものだ。
 それなのに、俺の頬は火照り出し、何か言おうと開いた唇がわなないた。
 不破の視線がわずかに下がり、俺の口元を見た。

「キスしていい?」

 今度ははっきりと、何を望まれているのかがわかる。
 不破が、俺とキスをしたがっている。
 頭が良くて、人付き合いが下手くそで、何考えているか分からなくて。
 キスをする理由なんて、何一つない。

 それなのに俺は、瞬きを繰り返す不破の目を見つめたまま頷いた。

 不破は、俺の方へと身を寄せて顔を傾けると、唇に唇を押し当てて来た。
 触れ合わせるだけのキスは、瞬き一つくらいの長さだった。
 顔を離し、元の位置に座りかけた不破に、俺は呼びかけた。

「お前さ」

 不破はさっきと同じ、何を考えているかわからない目をして、俺の言葉を待っている。

「キスの仕方くらい、調べてから誘えよ」

 どうして、そんな気が起きたかわからない。
 俺は、ソファから腰を浮かせて、不破の上に覆いかぶさった。
 真上から顔を覗き込み、反応の薄い不破が目を瞠っているのに気が付いた。

 もっと不破の違う顔が見たい。
 顔色を変えて、慌てたり怒ったり。
 そういう、感情的になっている不破を見てみたい。

 俺は、右手で不破の頬に触れ、輪郭に沿って撫でた。
 二度目のキスは、俺からした。

 唇を重ね、軽くした唇を啄むと、さすがに不破は驚いたらしい。
 微かに唇を開いたところで、その狭間をちろりと舌先で舐める。
 身体を硬直させ、身動ぎすらできないでいる不破に、俺はキスを仕掛けた。
 口の中に舌を入れ、不破の舌と触れ合わせる。
 びくりと身体が跳ね、舌が逃げる。
 俺はそれを絡め取って、吸い上げた。

「ん……う……」

 声が鼻に抜け、甘えたような響きとなった。
 不破には似合わない、温度のある声。
 
「……さ、くら」

 キスの合間に名前を呼ばれて、余計に俺は興奮した。
 頬に触れていた手を滑らせて、その首筋にも触れる。
 滑らかな肌の感触に、そこにもキスをしたくなる。

 男の不破相手に、俺は欲情していた。

 ここで止めなくては、取り返しのつかないことになる。
 今ならまだ、冗談だと言って笑って誤魔化せるだろう。

 だが、その次の瞬間、不破は俺の首筋に腕を伸ばして引き寄せた。
 キスが深くなり、唾液の音がするほどに激しくなった。
 息を乱して、不破は俺にキスをしてくる。
 
 ここまでされて、止められるわけがない。
 
 俺は、シャツの上から不破の身体を弄り、それでも飽き足らず前ボタンを開けた。
 はだけたシャツの中に手を入れて、胸元を撫で、キスを解いて首筋に顔を埋める。

「ん……は……っ」

 堪らずといった風な、不破の声がした。
 もっと聞きたくて、胸元にもキスをし、肌を舐めた。
 顔を上げて不破を見ると、ぎゅっと目を瞑って耐えていた。

 キスすらしたことがなかった不破だ。
 男に抱かれたことなんてないはずだ。
 それは、俺も同じだ。
 第一、男に興奮したのだって、これが初めてだ。
 
「不破、触りっこしないか?」
「さわり、っこ」

 目を開けて俺を見上げ、不破は繰り返した。
 わからない時の不破の癖なのだとわかって、俺はくすりと笑う。

「俺が不破に触るから、同じように俺に触って」
「わかった」

 そして、俺は順番に不破に触った。
 肩から腕、無唸元から腹、下腹から股間。
 ズボンの上から触れると、不破のモノの存在が感じられた。
 不破も、躊躇いがちに俺の股間に触った。
 それまで俺を見ていた目が、股間を見下ろした後、驚きに見開かれる。

「勃起、してる」

 感嘆したように言われて、俺は不破の股間を掴んだ。

「不破だって、してるじゃないか」
「……僕は、いいんだ」
「いいって?」

 どういう意味かと聞き返すと、目を伏せて答えた。

「君が、好きだから……勃起は自然だ」

 その理屈だと、好きでもない自分に勃起している俺は、不自然ということになる。
 それは、否定しない。
 俺だって、自分の身体に起きた変化が信じられない。

「キス、していい?」
「さっきもしたんだから、今更許可なんて」
「違う。──ここに」

 そう言って、不破は俺の股間をぐっと押した。

「お前さ、俺のモノなんて咥えられるのか?」
「できる」

 わざと卑猥な言葉を選んだのに、不破は即答した。

「じゃあ、いいよ。しても。ただし、俺もする」
「……ちょっと、待って」

 不破は腰を引き、俺の手から逃れようとする。
 慌てているのだとわかって、俺はなぜか嬉しくなった。

「待たない。お前のもの、咥えて舐めてしゃぶってやるよ」
「──っ」

 ひゅっと喉が鳴り、声さえも出なかった。
 俺に反応する不破に興奮を覚えて、忙しなく手を動かしてズボンとパンツをずり下げる。
 完全に勃ち上がったモノが、不破が男だと主張してくる。
 それなのに、何を俺はこんなに興奮しているのだろう。

「佐倉、駄目だ」
「駄目じゃない」
「するのは、僕だ。君に、そんなこと……させられない」
「俺がしたいんだよ」

 俺は不破のモノを握り、軽く扱いた。

「あ……っ佐倉……」

 ビクビクと身体が震えて、今にも達しそうになっているのが伝わってくる。
 俺は床に座り、不破の先端にキスをした。
 ちゅっちゅっとわざと音を立てて口付けると、不破は自分の口元を手で塞ぐ。
 俺はその様子を、上目遣いで見ながら、モノに舌を這わせた。

「駄目……佐倉……まずい」

 不破は、ぐっと息を呑み、ふるりと全身を震わせる。
 その様子を見て、初めて不破を可愛いと思った。
 もっと追い詰めて、不破を興奮させて、イかせてみたい。
 不破はどんな顔でイくんだろう。

 俺の興奮をよそに、不破は止めようとしてか俺の胸を押し返した。
 俺はその手を逆に捕えて、押さえ込む。
 
 やったことはないが、要は自分がしてもらいたいように感じる場所を刺激すればいい。
 モノの先端を舐め、裏筋を舌で辿り、口の中まで呑み込む。

「はう……っんん……んっ……」

 漏れ聞こえる声が、あまりにも可愛すぎる。
 このまま、イかせたい。
 出てきた唾液を啜って飲んだ瞬間、生温かいものがどっと口に溢れた。
 不破がイったのだとわかり、俺はモノを口から出して、伸び上がった。
 不破は、顔を真っ赤にして、荒い呼吸を繰り返している。
 俺の視線に気付き、目を硬く閉じたところで、こめかみを涙が伝った。

 俺は、呆気に取られて、口の中に放たれた精液を飲み下した。
 ごくりと喉が鳴り、その音を聞きつけたのか、不破が再び目を開ける。

「飲んだ、のか」
「うん、飲んじゃった」

 不破は固まり、唖然としている。
 その様子がまたおかしくて、俺は喉の奥で低く笑った。
 俺の声につられるように、不破も吐息で笑う。

「お前、可愛いな」

 思ったことを口にした俺に、不破は顔を赤くしている。
 舐めしゃぶられ、イってしまったことよりも、可愛いと言われたことの方が恥ずかしいのか。

 俺は、不破の頭に触り、乱れた髪を撫でた。
 そして、ぽんぽんと頭を軽く叩いて、間近からひたりと目を見据える。

「付き合おう。本気で」
「本気」

 不破は、俺の言葉を繰り返す。
 俺は、頷いてから続けた。

「次は、抱くから」

 俺の言葉に、不破は一度開いていた口を閉じて考え込んだ。
 もしかして、それは嫌なのか。
 互いに黙ってから数秒後に不破は言った。

「調べて、おく」

 俺は、一瞬目を瞠った後、我慢しきれなくて声に出して笑った。

-END-
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