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第三章 リデアスの勇者
レイが来ない
「今日も勇者様はいらっしゃらなかったのですね」
昼食を摂りに食堂へ行くと、一人で現れた僕に対してサイデンは言う。
僕は頷いてから、自分の席に腰掛けた。
給仕係が僕の分の料理を手にし、テーブルに並べていく。
僕はそれを、黙々と食べた。
昨日と今日と、2日続けてレイは学びの間に顔を出さなかった。
それまで欠席も遅刻もなかったため、僕は少し気になった。
風邪でも引いたのか。それとも、講義に対する興味が失せたか。
もしかしたら、昼食に誘われたくないのかもしれないとまで考えた。
レイが昼食を摂らないと聞いて、それからは見かけると誘うようにした。
雨の日は書庫に寄って、見つけたら食堂へ連れて行った。
別に、レイと食事をしたかったわけじゃなかった。
一人で食事をする度に、レイのことを思い出してしまうため、昼だけでも食べさせようと思い立った。
それまで一人で食べることに疑問を持ったことは、なかったというのに。
どうして僕は、レイの言葉に左右されてしまうのか。
昼食に誘うことはサイデン求めようとしなかった。
本心でどう思っているかはわからない。
でも反対しないということは、好きにしてもいいのだろう。
幸い食料は潤沢にあり、一人増えようがまったく問題ない。
そうして、切れ目なくレイと昼食を過ごしてきたが、昨日から姿を見ない。
その日の役目を終え、中庭の噴水の縁に座り、僕はレイのことを考えていた。
ここに座って、本を読んでいたレイは、初めてミーアの剣を手にしたあの夜のレイとは別人に見える。何よりも、僕に対して優しくなった。
どういう心境の変化なのかは知らないけれど、僕にとっては都合がいい。
あの頃のように、ドミートスの言葉を盾に僕自身を捧げろと言われるより、よっぽどマシだ。
レイを知っていくうちに、僕も変わったのかもしれない。
今のレイに対して剣を抜くかと言われたら、躊躇うだろう。
当初のように、毛嫌いするほどじゃない。
それは、レイという人間が見えてきたからかもしれない。
噴水を見上げて、レイのことを考えていると、こちらに向かってくる衛兵の声が聞こえた。
一瞬身構えたが、今は部屋を抜け出しているわけじゃない。
堂々としていればいいのだと思い直し、姿勢を正した。
「……勇者様の……あまり良くないらしい」
「やっぱり、異世界から……溜まっているんだろうか」
途切れ途切れに聞こえてきた言葉に、僕は嫌な予感がした。
衛兵さえも知っているのであれば、レイの話は城中に広まっているのかもしれない。
彼らに事情を直接聞くか迷ったが、僕はサイデンにまずは聞いてみることにした、
この時間、恐らく執務室にいるだろうと向かってみると、やはりそこにサイデンはいた。
僕が確認しやすいように、デスクに書類を分けているところだった。
僕を見ると胸元に手を当てて一礼し、ソファへ座るよう促した。
だが、僕は座ることなく、単刀直入にサイデンに訊いた。
「レイ様のお話ですか。たしかにまことしやかに噂は囁かれております。どうやら、体調が芳しくないということで」
わかっているのなら、なぜ僕に言わないのか。
僕は、つい眉根を寄せた。
「詳しいことは、ギルドに行けばわかるかもしれません」
サイデンは、最後にそうまとめた。
噂は噂であり、あまりはっきりとしたことは言えないということなのだろうが。
冒険者ギルドか。
王都の中心街にある、冒険者に仕事を斡旋する場所だ。
今は魔物が多くいるため、斡旋というより冒険者は引く手数多で、依頼人が頭を下げていると聞いたことがある。
僕は、考えた末にサイデンに告げた。
「馬を用意してほしい」
「なりません、エスティン様」
何をするつもりなのか察したサイデンは、僕が言ったと同時に止めてきた。
「そんな危険な場所に足を向けるなどと。使いを出しますから、どうぞこちらで連絡をお待ちください」
使いを出すという方法があったか。
うっかり失念していた。
あまりに自分が考え無しであったことに、恥ずかしさを覚える。
サイデンに諭されて、僕は使いの帰りを待つことにした。
その間、落ち着かない気持ちで、執務室ではなく城の前庭で待機した。
サイデンも僕のそばに立ち、使いの者の帰りを待つ。
半刻ほど経った頃だろうか。
使いの帰りを焦れて待っていると、栗毛の馬が城門を通って現れた。
そして、城の前庭で馬を降り、息を切らして僕たちの前に跪いた。
「ご報告いたします。ギルドによると、勇者様はトメント地区のラザルという宿場にいるとのことです。先程、訪ねたところ、たしかにそちらにいらっしゃいました」
「して、ご様子はいかがか」
サイデンは、横目で僕を見てから、使者に訊ねた。
僕が一番知りたかったことだ。
「体調が悪いのは、本当のようです。眠っているからと、顔を見ることはできませんでした」
起き上れないほどに悪いのか。
それなら、今すぐにでもそのラザルに行って、治療に当たるべきだ。
「なりませんぞ」
「まだ何も言っていない」
さすがはサイデンだ。
僕のことをよくわかっている。
強行突破できなくもないが、それだと今後レイとの繋がりさえ断とうとしてくるかもしれない。サイデンは僕の味方ではなく、監視役だ。父王に報告した上に、僕の自由を奪うだろう。
僕は、サイデンから目を逸らし、城門を見た。
既に日が暮れて、城門には明かりが灯っている。
ミーアの輝きが空に広がり、地上を照らす。
隣から厳しい視線を向けられて、僕は城門からサイデンへと目を向けた。
「──今日はもう遅い。明日になってもレイ様が来なければ、お見舞いに行こうと思う」
「承知いたしました。護衛と馬車を手配します」
サイデンは、僕の言葉を受け入れた。
もう一日、レイに我慢を強いることになる。
本当に重病であれば、こんな悠長なことはしていられない。
僕は、もう一度城門の外を見据えて忸怩たる思いを抱く。
そして、サイデンに促されて寝室に向かった。
昼食を摂りに食堂へ行くと、一人で現れた僕に対してサイデンは言う。
僕は頷いてから、自分の席に腰掛けた。
給仕係が僕の分の料理を手にし、テーブルに並べていく。
僕はそれを、黙々と食べた。
昨日と今日と、2日続けてレイは学びの間に顔を出さなかった。
それまで欠席も遅刻もなかったため、僕は少し気になった。
風邪でも引いたのか。それとも、講義に対する興味が失せたか。
もしかしたら、昼食に誘われたくないのかもしれないとまで考えた。
レイが昼食を摂らないと聞いて、それからは見かけると誘うようにした。
雨の日は書庫に寄って、見つけたら食堂へ連れて行った。
別に、レイと食事をしたかったわけじゃなかった。
一人で食事をする度に、レイのことを思い出してしまうため、昼だけでも食べさせようと思い立った。
それまで一人で食べることに疑問を持ったことは、なかったというのに。
どうして僕は、レイの言葉に左右されてしまうのか。
昼食に誘うことはサイデン求めようとしなかった。
本心でどう思っているかはわからない。
でも反対しないということは、好きにしてもいいのだろう。
幸い食料は潤沢にあり、一人増えようがまったく問題ない。
そうして、切れ目なくレイと昼食を過ごしてきたが、昨日から姿を見ない。
その日の役目を終え、中庭の噴水の縁に座り、僕はレイのことを考えていた。
ここに座って、本を読んでいたレイは、初めてミーアの剣を手にしたあの夜のレイとは別人に見える。何よりも、僕に対して優しくなった。
どういう心境の変化なのかは知らないけれど、僕にとっては都合がいい。
あの頃のように、ドミートスの言葉を盾に僕自身を捧げろと言われるより、よっぽどマシだ。
レイを知っていくうちに、僕も変わったのかもしれない。
今のレイに対して剣を抜くかと言われたら、躊躇うだろう。
当初のように、毛嫌いするほどじゃない。
それは、レイという人間が見えてきたからかもしれない。
噴水を見上げて、レイのことを考えていると、こちらに向かってくる衛兵の声が聞こえた。
一瞬身構えたが、今は部屋を抜け出しているわけじゃない。
堂々としていればいいのだと思い直し、姿勢を正した。
「……勇者様の……あまり良くないらしい」
「やっぱり、異世界から……溜まっているんだろうか」
途切れ途切れに聞こえてきた言葉に、僕は嫌な予感がした。
衛兵さえも知っているのであれば、レイの話は城中に広まっているのかもしれない。
彼らに事情を直接聞くか迷ったが、僕はサイデンにまずは聞いてみることにした、
この時間、恐らく執務室にいるだろうと向かってみると、やはりそこにサイデンはいた。
僕が確認しやすいように、デスクに書類を分けているところだった。
僕を見ると胸元に手を当てて一礼し、ソファへ座るよう促した。
だが、僕は座ることなく、単刀直入にサイデンに訊いた。
「レイ様のお話ですか。たしかにまことしやかに噂は囁かれております。どうやら、体調が芳しくないということで」
わかっているのなら、なぜ僕に言わないのか。
僕は、つい眉根を寄せた。
「詳しいことは、ギルドに行けばわかるかもしれません」
サイデンは、最後にそうまとめた。
噂は噂であり、あまりはっきりとしたことは言えないということなのだろうが。
冒険者ギルドか。
王都の中心街にある、冒険者に仕事を斡旋する場所だ。
今は魔物が多くいるため、斡旋というより冒険者は引く手数多で、依頼人が頭を下げていると聞いたことがある。
僕は、考えた末にサイデンに告げた。
「馬を用意してほしい」
「なりません、エスティン様」
何をするつもりなのか察したサイデンは、僕が言ったと同時に止めてきた。
「そんな危険な場所に足を向けるなどと。使いを出しますから、どうぞこちらで連絡をお待ちください」
使いを出すという方法があったか。
うっかり失念していた。
あまりに自分が考え無しであったことに、恥ずかしさを覚える。
サイデンに諭されて、僕は使いの帰りを待つことにした。
その間、落ち着かない気持ちで、執務室ではなく城の前庭で待機した。
サイデンも僕のそばに立ち、使いの者の帰りを待つ。
半刻ほど経った頃だろうか。
使いの帰りを焦れて待っていると、栗毛の馬が城門を通って現れた。
そして、城の前庭で馬を降り、息を切らして僕たちの前に跪いた。
「ご報告いたします。ギルドによると、勇者様はトメント地区のラザルという宿場にいるとのことです。先程、訪ねたところ、たしかにそちらにいらっしゃいました」
「して、ご様子はいかがか」
サイデンは、横目で僕を見てから、使者に訊ねた。
僕が一番知りたかったことだ。
「体調が悪いのは、本当のようです。眠っているからと、顔を見ることはできませんでした」
起き上れないほどに悪いのか。
それなら、今すぐにでもそのラザルに行って、治療に当たるべきだ。
「なりませんぞ」
「まだ何も言っていない」
さすがはサイデンだ。
僕のことをよくわかっている。
強行突破できなくもないが、それだと今後レイとの繋がりさえ断とうとしてくるかもしれない。サイデンは僕の味方ではなく、監視役だ。父王に報告した上に、僕の自由を奪うだろう。
僕は、サイデンから目を逸らし、城門を見た。
既に日が暮れて、城門には明かりが灯っている。
ミーアの輝きが空に広がり、地上を照らす。
隣から厳しい視線を向けられて、僕は城門からサイデンへと目を向けた。
「──今日はもう遅い。明日になってもレイ様が来なければ、お見舞いに行こうと思う」
「承知いたしました。護衛と馬車を手配します」
サイデンは、僕の言葉を受け入れた。
もう一日、レイに我慢を強いることになる。
本当に重病であれば、こんな悠長なことはしていられない。
僕は、もう一度城門の外を見据えて忸怩たる思いを抱く。
そして、サイデンに促されて寝室に向かった。
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