【完結】殺人ゲームの主人公のお前に、俺は人殺しをさせない

佑々木(うさぎ)

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第四章 スピンオフ

不測の事態

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 もう駄目だ。
 クロエを襲ってしまう。
 今にも理性が決壊し、床に押し倒してしまいそうだ。

 その時だ。
 扉がガタガタと揺れて、外で声がした。

 聞き覚えのある声の主は、サロモンとオルリアンだ。
 今ここに二人が踏み込めば、ゲームのシナリオ通りになってしまう。
 三人でクロエを凌辱するゲームの光景が、脳裏を掠めた。

「クロエ、早く隠せっ。お前の身が危ない」
「嫌よ! だって、まだ目的を達していないものっ!」

 俺の言葉に被せるように、クロエは叫ぶ。
 やがて、鍵を開ける音がし、二人が中に入ってこようとした。

「駄目だ! 入るな!!」

 怒鳴りつけるように外に向かって叫ぶ。
 きっと悲鳴のように聞こえてしまっただろう。

「……セルジュか?」
「どうしたんだ」

 二人の驚く声がする。

「クロエも中にいるのか?」
 
 続いて聞こえたのは、アレンの声だ。
 今この状況をアレンが見たら、一体どう誤解をするだろう。
 俺がクロエの服を脱がせ、犯そうとしたと思うだろうか。
 俺を非難して軽蔑し、殴りかかってくるかもしれない。
 自分に向けられるアレンの苛烈な瞳を思い浮かべ、俺は奥歯を噛み締めた。

「お退きになって」

 だがそこで聞こえてきたのは、凛とした女性の声だ。
 この場に似つかわしくない、上品な言葉だ。
 
「おい、待てよ」
「ディアーヌ」

 オルリアンが止め、サロモンが諭すように名前を呼ぶ。
 だが、それでも扉が開いて、中に入ってくる足音がした。

「……っなんてこと」

 ディアーヌの驚く声がしたそのすぐ後に、衣擦れの音が耳に届く。
 クロエに服を着せているのだと理解して、俺はその場に座り込んだ。

 最悪の事態は免れた。
 クロエを犯さずに済んだのだ。
 だが、お終いだ。
 この状況は、言い逃れできない。

 ディアーヌの罵倒を覚悟していたが、そこで思いも寄らない言葉が聞こえて来た。

「馬鹿な子ね。ですが、責任は私にもありますわね。煽った自覚はありますもの。──対象は、あなたではなかったとしても」

 馬鹿な子。
 それは、俺ではなくクロエに向けられた言葉のようだ。
 俺は驚き、ようやく目を開けて声のした方を見た。
 そこには、力なく項垂れたクロエと、毅然とした態度のディアーヌ、そして見覚えのない女子生徒の三人がいた。
 そして、遅れて中に入ってきたのは、アレンだ。
 俺たちをざっと見回して、顔を顰めている。

 何か言おうとしたその機先を制するように、ディアーヌが言う。

「クロエのことは、お任せいただけますか? この場のことは、私の侍女に処理させます。よろしいですわね」
「お任せを」

 最後の言葉は、侍女に向けて言ったものらしい。
 制服を着た女子生徒が恭しく頭を下げ、俺を背に庇うように立った。

「私たちは転移いたします。ここでは人目がありますでしょう。騒ぎを大きくしないためにも移動を最優先とします。アレンさんはどういたしましょう」

 ディアーヌは落ち着いた声で説明してから、アレンに問いかける。
 アレンは、表情を強張らせ、じっと俺を見据えていた。
 だが、ディアーヌにもう一度名前を呼ばれて我に返ったようで、二人を振り返る。

「僕も同行する」

 短くそう言い、俺から目を逸らしたまま「セルジュ」と名前を呼んだ。

「君とは日を改めて話す。今は……冷静でいられない」

 それはそうだろう。
 こんな場面を目にして、兄であるアレンが冷静でいられるわけがない。
 ディアーヌがいなければ、俺に詰め寄っていたに違いない。

「それでは、行きましょう。あとは頼みましたよ」
「かしこまりました。ディアーヌ様」

 三人は一つ所に集まり、ディアーヌが転移魔法を発動する。
 周囲が緑色に光り、ふっと姿が掻き消える。
 そして、その場には俺と侍女だけが残った。

 侍女は扉を開けると、サロモンとオルリアンに淡々と説明した。
 倉庫の中で、クロエが気を失ったこと。
 状態があまりにも悪く、人目に晒すことは憚られたため、医務室へ転移したと説明がなされた。

 二人に話した後も、侍女は手際よく処理した。
 事が明るみにならないよう、細心の注意を払って対処しているのが見受けられた。
 ベルナールにもその旨を伝えて、内々に事を収める。
 俺はその様子をぼんやりと眺め、帰るよう促されて頷いた。

「セルジュ、酷い顔色だよ。送っていく」

 エリゼが俺の傍に立ち、下から顔を覗き込んできた。

「お前では、いざという時に運べないだろう。オルリアン、俺と一緒に」

 サロモンも俺の様子が気になったようで、オルリアンを引き連れて送ってくれようとした。
 それぞれの優しさを感じなくはなかったが、俺は疾うに限界だった。

「放って、おいてくれ。頼む」

 今は、誰にも構ってほしくはない。
 寮にだって、帰りたいと思えない。

 俺は三人の目から逃れるようにその場を離れ、行く当てもなく彷徨った。
 頭の中ではずっと、倉庫に入る前後のことが浮かんでいた。

 なぜついて行ったのか。二人きりになるとは考えなかったのか。
 どうして自分にあんな衝動が起きたのか。

 失態を犯してしまった自分が許せなくて、俺は自身を罵りながら歩き続けた。
 やがて、シランの並木が見えてきて、俺はその深緑のアーチを抜けて高台に上った。
 悔しいのか哀しいのか、もうわからない。

 俺は、木の下に座り、身体の内側から起こる震えを必死に抑え付けた。
 そして、門限を知らせる鐘の音が聞こえるまで、その場を動かなかった。
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