4 / 30
入職の前に
しおりを挟む
廊下に出た後、コノハは女官のあとについて行った。
コノハを案内している女官は、背が高く、姿勢よく歩いている。三十代半ばくらいの年齢だろうか。
二人は、皇宮の裏側に向かっているようだ。
皇宮には、屋根の装飾が美しい重厚な木造建築がいくつもある。女官とコノハが、大きな池がある中央の中庭を通り過ぎると、離れの建物が現れた。
コノハと女官が離れの建物に行くと、建物に入ってすぐの場所、廊下右側の引き戸の前まで着いたようだ。
「……入ってもいい?」
コノハの横で、女官が引き戸越しに部屋の方に声をかけた。すると、「いいよ」と、部屋の中から男性の声が聞こえた。
男性の声を確認すると、女官は引き戸を開けた後に、コノハにも声をかけた。
「どうぞ……、貴女も入って」
コノハは返事をすると、女官に続いて部屋に入った。
女官に案内された部屋は、新しそうな部屋ではないようだ。年期を感じさせる家具も置いてある。
女官とコノハが部屋中央の大きな食台の前まで行くと、一人の男性が立っていた。女官と年齢が近いように見える。
「はじめまして。君と同じく大王家の従者である、白人です。よろしくね。
……あっ、もし彩女が近くに居ない時は、何でも俺に聞いてくれればいーからね」
白人と名乗った男性は、笑顔でコノハを迎えてくれた。
そして、彩女という名前の女官は白人の横に行き、微笑みながらコノハの方を見た。
「彩女と申します。コノハ……、これからよろしくね」
どうやら、彩女がコノハの直属の上司のようだ。
コノハが「よろしくお願いいたします」と言ってお辞儀をすると、彼女は少しだけ安堵したようだった。
「……仕事は明日からだから、今日はゆっくり休んでね」
「はい、ありがとうございます。……なんですが、ココの休憩部屋に居ても何していーか思い付かなくて……。あっ、衛士府の訓練所を、これから見に行ってもいいですか?」
すると、彩女も白人も少し驚いた様子だった。
「もちろん、いいよ。……長旅だっただろうけど、疲れていないのかい?」
「……そーですね……。昨日、町の宿屋で、いつもより長く夜は寝たので、元気みたいです」
心配した白人たちに向かって、コノハは柔らかい表情で言葉を続けた。
「あっ! そーいえば、仕事着って、どこに置いてあるんでしょうか? さすがに朝服だと体が重いので、着替えてもいいですか?」
「右側の部屋が貴女の寝室だから、その部屋にあるわ。机の上に置いてあるから、使ってね」
「ありがとうございます、彩女さん」
自分の寝室に入ると、コノハはさっそく仕事着を確認して、素早く制服を脱いだ。
仕事着というのは、濡羽色の丈夫そうな衛士専用の服のようだ。
(ペラッペラの貫頭衣とは、全然違うなぁ……。木の枝が刺さっても、すぐに破れることは無さそうっ!)
コノハは衛士の服に着替えると、下ろしていた髪を後ろで団子状にまとめて、持参した茶色の麻紐で縛った。
それから、服の横に置いてあった防具を付けた後、弓と矢を持って、食台の方に戻って来た。
「少し、体を動かしに行きますね」
「夕食は女官の子たちが運んできてくれるわよ。三食の食事は、この部屋で取る決まりだから、日の入り前には戻って来てね」
「分かりました! では、行ってきますっ」
休憩部屋を出たコノハは、ゆっくりとした足取りで、衛士府の建物に向かった。
敷地内の一番東側にあり、離れの建物であるので、コノハは迷うこと無く、衛士府に行けそうだった。
(先輩のお二人……、優しそうな人で、本当に良かったぁ~)
少しずつ夕方に近付くにつれて、秋の風は冷たくなっていくようだ。
時々、肌に当たるひんやりとした風を感じ、コノハは歩いている途中で、徐々に早足になっていた。
衛士府に続く渡り廊下を抜けると、ようやく彼女は衛士府の本部に辿り着いた。
訓練所に近くなると、コノハは心を踊らせて、足取りが軽くなった。
コノハがちょうど本部の中の厠を通り過ぎた時、厠から一人の武官らしき男性が出てきた。
それは、朝服を着た上級武官は建比古だったが、彼はコノハの横顔だけ見て、すぐに本人であると分かった。建比古にとっては、良い意味で衝撃的な出逢いだった故、格好は全く違えど、コノハを見間違えることは絶対に無い。
かけるべき言葉がとっさに出ず、コノハに声をかける機会を逃した建比古は、「あぁぁ~……」と低い小声で呟いた。
(ったく、こーゆーのは慣れてねーからなぁ~。……仕方ねーわっ!)
建比古は頭を掻きながら、大きな溜め息をついた後、こっそり……とコノハのあとをついて行くことに決めたのだった。
コノハを案内している女官は、背が高く、姿勢よく歩いている。三十代半ばくらいの年齢だろうか。
二人は、皇宮の裏側に向かっているようだ。
皇宮には、屋根の装飾が美しい重厚な木造建築がいくつもある。女官とコノハが、大きな池がある中央の中庭を通り過ぎると、離れの建物が現れた。
コノハと女官が離れの建物に行くと、建物に入ってすぐの場所、廊下右側の引き戸の前まで着いたようだ。
「……入ってもいい?」
コノハの横で、女官が引き戸越しに部屋の方に声をかけた。すると、「いいよ」と、部屋の中から男性の声が聞こえた。
男性の声を確認すると、女官は引き戸を開けた後に、コノハにも声をかけた。
「どうぞ……、貴女も入って」
コノハは返事をすると、女官に続いて部屋に入った。
女官に案内された部屋は、新しそうな部屋ではないようだ。年期を感じさせる家具も置いてある。
女官とコノハが部屋中央の大きな食台の前まで行くと、一人の男性が立っていた。女官と年齢が近いように見える。
「はじめまして。君と同じく大王家の従者である、白人です。よろしくね。
……あっ、もし彩女が近くに居ない時は、何でも俺に聞いてくれればいーからね」
白人と名乗った男性は、笑顔でコノハを迎えてくれた。
そして、彩女という名前の女官は白人の横に行き、微笑みながらコノハの方を見た。
「彩女と申します。コノハ……、これからよろしくね」
どうやら、彩女がコノハの直属の上司のようだ。
コノハが「よろしくお願いいたします」と言ってお辞儀をすると、彼女は少しだけ安堵したようだった。
「……仕事は明日からだから、今日はゆっくり休んでね」
「はい、ありがとうございます。……なんですが、ココの休憩部屋に居ても何していーか思い付かなくて……。あっ、衛士府の訓練所を、これから見に行ってもいいですか?」
すると、彩女も白人も少し驚いた様子だった。
「もちろん、いいよ。……長旅だっただろうけど、疲れていないのかい?」
「……そーですね……。昨日、町の宿屋で、いつもより長く夜は寝たので、元気みたいです」
心配した白人たちに向かって、コノハは柔らかい表情で言葉を続けた。
「あっ! そーいえば、仕事着って、どこに置いてあるんでしょうか? さすがに朝服だと体が重いので、着替えてもいいですか?」
「右側の部屋が貴女の寝室だから、その部屋にあるわ。机の上に置いてあるから、使ってね」
「ありがとうございます、彩女さん」
自分の寝室に入ると、コノハはさっそく仕事着を確認して、素早く制服を脱いだ。
仕事着というのは、濡羽色の丈夫そうな衛士専用の服のようだ。
(ペラッペラの貫頭衣とは、全然違うなぁ……。木の枝が刺さっても、すぐに破れることは無さそうっ!)
コノハは衛士の服に着替えると、下ろしていた髪を後ろで団子状にまとめて、持参した茶色の麻紐で縛った。
それから、服の横に置いてあった防具を付けた後、弓と矢を持って、食台の方に戻って来た。
「少し、体を動かしに行きますね」
「夕食は女官の子たちが運んできてくれるわよ。三食の食事は、この部屋で取る決まりだから、日の入り前には戻って来てね」
「分かりました! では、行ってきますっ」
休憩部屋を出たコノハは、ゆっくりとした足取りで、衛士府の建物に向かった。
敷地内の一番東側にあり、離れの建物であるので、コノハは迷うこと無く、衛士府に行けそうだった。
(先輩のお二人……、優しそうな人で、本当に良かったぁ~)
少しずつ夕方に近付くにつれて、秋の風は冷たくなっていくようだ。
時々、肌に当たるひんやりとした風を感じ、コノハは歩いている途中で、徐々に早足になっていた。
衛士府に続く渡り廊下を抜けると、ようやく彼女は衛士府の本部に辿り着いた。
訓練所に近くなると、コノハは心を踊らせて、足取りが軽くなった。
コノハがちょうど本部の中の厠を通り過ぎた時、厠から一人の武官らしき男性が出てきた。
それは、朝服を着た上級武官は建比古だったが、彼はコノハの横顔だけ見て、すぐに本人であると分かった。建比古にとっては、良い意味で衝撃的な出逢いだった故、格好は全く違えど、コノハを見間違えることは絶対に無い。
かけるべき言葉がとっさに出ず、コノハに声をかける機会を逃した建比古は、「あぁぁ~……」と低い小声で呟いた。
(ったく、こーゆーのは慣れてねーからなぁ~。……仕方ねーわっ!)
建比古は頭を掻きながら、大きな溜め息をついた後、こっそり……とコノハのあとをついて行くことに決めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~
秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。
五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。
都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。
見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――!
久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――?
謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。
※カクヨムにも先行で投稿しています
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~
碧野葉菜
キャラ文芸
人を癒す力で国を存続させてきた小さな民族、ユニ。成長しても力が発動しないピケは、ある日、冷徹と名高い壮国の皇帝、蒼豪龍(ツアンハウロン)の元に派遣されることになる。
本当のことがバレたら、絶対に殺される――。
そう思い、力がないことを隠して生活を始めるピケだが、なぜか豪龍に気に入られしまい――?
噂と違う優しさを見せる豪龍に、次第に惹かれていくピケは、やがて病か傷かもわからない、不可解な痣の謎に迫っていく。
ちょっぴり謎や策謀を織り込んだ、中華風恋愛ファンタジー。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
後宮薬師は名を持たない
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
竜華族の愛に囚われて
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。
五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。
これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。
赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。
新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。
そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。
※某サイトの短編コン用に書いたやつ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる