【完結】純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか(休止中)

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1:レンジュ大国管理部所属、天野ユキ

5:2人の少年と2人の少女

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 教室に、試験の終了を知らせるベルが鳴り響く。

「はい、終わりです」

 アカデミー卒業試験の筆記が終わった。
 綾乃の言葉で、全員の解答用紙が宙に浮く。数名、書き途中の生徒もいたようで慌てて用紙から手を離した。そのまま手を置きっぱなしにしていると、用紙が破れて試験失格になるためだ。

「次の試験は、筆記の結果を待ってからのスタートになります。結果は1時間後なので、それまで各自昼食を取って実技に備えましょう」

 そう言うと、綾乃は解答用紙を魔法でサッと回収した。
 一息つく生徒もいれば、すぐ教室を出ていく生徒もいる。まことは、手元に残された問題用紙とにらめっこをしていた。

「疲れた~。問題難しすぎでしょう!」

 まことの隣に座っていた、桜田さくらだゆりが話しかけてくる。
 活発そうに動く表情が魅力的な彼女は、クラスでも人気が高かった。しかし、ガサツな性格のためか残念な可愛い子という立ち位置になっている。高めに縛ってあるツインテールが、彼女の動きに合わせて揺れ動く。

「確かに。邪術と妖術の応用まで出た時は焦ったよ」

 まことは、そう言って問題用紙の応用部分を指さしながら答えた。魔力に則った邪術と妖術に関する内容は授業で習ったのだが、まさか呪力内に関してが出るとは。そう焦った生徒は多かったはず。

「今回問題作ったの誰だろう」
「綾乃先生は、彩華姫が作ったって言ってたよ」
「あー、どうりで難しいわけだ」

 今回の問題は、他にも習った部分が直接出ずに複数の知識を応用しなければ解けないものばかりだった。授業で聞いたことをそのまま暗記していたら、解けなかっただろう。

「きっと、姫様はこんな問題を作るのも朝飯前なんだろうなぁ」

 たまに、魔法の使えない人がいる。それは、両親が魔法使いかどうかで決まるわけではなく、突然変異によって身体の細胞が通常と異なることで起きる現象と言われていた。
 彩華もその1人といわれている。
 しかし、彩華はその分知識が豊富で、十分魔法が使えないことを補っているのを国民の誰もが知っていた。故に、それを欠点と言う人はいない。

「姫様と私、6歳差よ。私も、6年後姫様みたいな素敵な人になれるかしら」
「ゆり恵ちゃんは頭脳より実践派だよね。姫様と真逆の人になりそう」

 まことは、問題用紙を足下に置いていたカバンにしまいながら笑いながらそう言った。クラスが同じで席も近いので、彼女の性格は熟知済みなのだ。

「なによ!」

 と、怒るような口調だがこちらも本気ではない。
 プーッと頰を膨らませたゆり恵は、童顔で可愛らしい顔つきをしている。クラスの中で、彼女のことが好きな男子は少なくない。が、やはりガサツな性格からか特定の彼氏というものはいないのが残念ポイント。

「ほら、真田、桜田。早くご飯を食べてきなさい。実技が始まりますよ」

 気づくと、教室に生徒は2人しかいなかった。綾乃は2人を見ずにそう言うと、前の方で解答用紙の枚数をブツブツと呟く。

「「はーい」」

 まことは、カバンの蓋を閉めると手に取った。それにならい、ゆり恵もパステルピンクのリュックを背負う。2人は、そのまま同時に立ち上がった。

「綾乃先生、ちょっと良いですか」

 教室から出ようとしたところ、副担任の八坂やさかが入口から顔を出した。危うくぶつかりそうになったまことは、ゆり恵の機転の良さで1歩とどまる。

「……何か」

 解答用紙を数え終えてから顔を上げたため、その返事にはラグがあった。彼女は、真っ直ぐとした視線を八坂の居る入り口に向ける。

「先日試験に合格した他アカデミーの卒業生が見学に来ています。手続きが完了していますので実技から加わりますとのことでした」

 ユキのことだ。
 八坂は、そう言って教室に入ると1枚の紙を綾乃に渡す。まことたちの方から、その内容は見えない。

「あぁ、わかりました。昨年は5、6人来ましたが、今年は1人ですか。実践室の待機場所に案内しておいてください」
「承知しました。そのようにします」

 そう言うと、八坂は素早く廊下へ消えた。
 彼は、呪術の先生。2週間に1度の授業なので、副担任でなければ会う頻度はかなり少ない。あまり教え方がうまいとは言えず、彼の授業後は質問の嵐になる。

「合格した人が見に来るんだって、いいなぁ」

 2人の会話を聞いていたまことは、出ていった彼の後ろ姿を見ながら羨ましそうに言った。

「私も他アカデミー行ってみたいけど、このアカデミーが最後の試験実行日だから無理だよね」
「見たかったなぁ」
「ね、その人に実践の試験内容聞いちゃおうかしら!」
「こら!違反ですよ」

 ゆり恵の提案に、綾乃のお叱りが飛んでくる。

「はぁい、わかってますよー」

 まことは、そんな彼女の言葉に笑うと一緒に食堂へと向かった。後ろでは、綾乃が再度用紙を懸命に数えている。


***


 もうすぐ、筆記試験の結果が張り出される……。
 そう思うだけで、そこに1人で居た彼女の膝ががくがく震えてくる。
 ここは、第一関門なのだ。ここがゴールではない。わかってはいるものの、震えるは仕方ないだろう。 

「……」

 後藤ごとう早苗さなえは、中庭にいながら1人で震えていた。
 本来ならば食堂で昼食を取りたいところだが、プレッシャーに弱い彼女に、昼食を食べろという方が無理だ。きっと、今は飲み物ですら喉を通さないだろう。

「……大丈夫、大丈夫」

 と、声を出して落ち着こうと思っているようだが、震えた声が逆の意味で耳を刺激してしまう。
 早苗は、小さい頃からここぞという時に失敗してきた。そんな自分に嫌気がさし、また、親がそれを責めるので更に拍車がかかり重いプレッシャーとして彼女にのしかかってくる。

「大丈夫、私はできるの……」

 もはや、自分の言葉すらプレッシャーとなっていた。

「どうしたの?」
「!?」

 すると突然、後ろから知らない声が。全く気配がなかったので、早苗は飛びのいた。

「だ、誰?」

 早苗が振り向いた先には、1人の少年が立っていた。見た限り、自分と同年代。黒髪を風になびかせて、にっこりとした表情でそこに居る。

「どうしたの?」

 少年は、早苗の顔を覗き込んでくる。
 整った顔立ち、心地よいアルト声に、早苗は頬を赤らめた。

「い、いえ。だい、じょぶ、デス」

 自然と顔が地面を向き、消え入りそうな声に。下を向くと、そこには芝生の間から生えた黄色い花が見える。それに視線を集中させていると、

「あ、もしかして試験生?緊張してるの?」

 と、少年が明るく話しかけてきた。その不思議な存在に、警戒心が薄れていく。

「え、えぇ。……私あがり症で。ここぞというときに、いつも失敗するの……。それで……」

 そう自分で言って、落ち込む早苗。
 私は、何てダメな人なんだろう。こんなんで、立派な魔法使いになれるのかな。と口に出しそうなほど自信がない彼女は、言葉の魔法に縛られている。

「ふーん」

 少年は、早苗の顔を覗きながらそう言った。その声は、世間話をしているかのように軽い。
 そして、少年はこう続ける。

「ねぇ、失敗ってダメなことなの?」
「……え?」
「失敗って、したらダメなの?」

 その言葉に、早苗は顔を上げた。彼女にとって、「失敗したらいけないのか」と言う問いかけは衝撃なもの。

「そ、そりゃあ……。失敗したら、みんなから笑われるし。お父さんお母さんにだって怒られて……」
「君は、笑われたり怒られたりするから失敗が怖いの?」

 彼の言葉が、直球となって早苗を突き刺す。それは、直球な言い方なのに無邪気さを感じさせてくるもの。そのためか、特に不快感はない。

「……」

 違う、そうじゃない。早苗は、その一言が出なかった。
 少年は、そんな様子を見て微笑んでいる。きっと、私の言葉を待っているんだ。そう思ったが、不思議とせかされているようには感じなかった。早苗は、周囲を見渡し一呼吸置き、

「……怖くない。怖いのは、失敗よりも、失敗を恐れて本気が出せないこと……かな」

 と、少年の顔を見て、思ったことを口にする。
 それは、彼女の胸にストンと何かを落とした。

「本気出さないと、後悔するよね」

 早苗は、久しぶりに人の目を見て話した気がした。それほど、いつも下を向いている。
 目の前に広がっている少年、太陽の眩しさ、芝生の青さが自然と早苗の目に飛び込んできた。最後に、この風景を「綺麗」と思ったのはいつだったか。彼女は思い出せない。

「うん、そうだよね」

 少年は、出した答えににっこりと笑ってそう返してきた。 
 そのまぶしいくらいの笑顔に、早苗は再度頬を赤らめる。それを隠すために、後ろを向く。そして、

「……あなた、名前は?」

 と少年に問うが、いつまで経っても返答がない。

「……?」

 不思議に思いゆっくりと振り向いたが、そこには誰もいなかった。
 あの少年は、どこにいったのだろうか。少しだけ周辺を歩いたが、誰もいない。
 早苗は、自分が創りだした空想の人物かもしれない、と思うことにした。だって、あんな格好良い人いるわけないし、と理由をつけて。

「……そうだ!行かないと。」

 早苗は、中庭を出るとその足取りで食堂へと向かう。すると、ざわざわとした空気が出迎えてくれた。
 掲示板に結果が張り出されたのだろう、生徒が集まっていた。早苗も、掲示板が見えるところへ立つ。

「えっと……」

 誰でもいい、「肩の力を抜いて」と一言かけてほしい。私に、「頑張らなくていいんだよ」、と言ってほしい。何度そう考えただろう。
 でも、それは甘えだ。何を言われようが、自分で気づかなければ意味がないんだ。
 早苗は、自分の名前が掲示板にあることに安堵し、

「ありがとう」

 と、小さく呟いた。
 その口から、ネガティブな言葉はもう聞こえない。


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