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やる気と行動は比例しない
しおりを挟む「では、今日はここまでー」
チャイムの音と共に、小林先生が気怠そうな声で授業の終わりを告げる。
本当、この先生からやる気を感じたことがないのよね。
「宿題はー……なしでいいや。見るのめんどくせえ」
「わーい!」
「先生大好き~」
「そのセリフ、他の先生の前で言うなよー。俺がロリコンだって疑われんだから」
「えー、先生そうなの?」
「ちげぇよ! 俺は、ナイスバディな姉ちゃんが好きだ」
……本当、やる気がない先生なの!!
でも、そのおかげでこうやってみんなから慕われるんだろうな。
中学では、社会系の科目を担当する先生はほとんど嫌われてたもん。それなのに、世界史なんてタルそうな教科を担当しつつも小林先生の人気は急上昇。
他のクラスでも出席率が高いそうで、先生的には主任とかに褒められて嬉しいらしい。何で知ってるかって?
授業中にそう自慢してたから!
「じゃあ、日直は黒板消しとけよー」
「……わかりました」
日直の返事を聞いた小林先生は、いつも通りあくびをすると教室を出て行ってしまった。
人気の大きな理由は、こうやって授業を時間通りに終わらせてくれること。あと、教え方がわかりやすいからだと思う。ノートが取りやすいよう話すことは少なめだし、黒板に重要なところは書いてくれるからまとめやすくて助かっているし。
「梓! 席取りよろしく!!!」
そんなことをボーッと考えていると、すぐ隣を猛スピードに駆けていくマリの残像が。
そっか、スペシャルパンの争奪戦に行くって言ってたっけ。
「行ってらっしゃい~」
「取れたら、お弁当は私のだか」
そこまでして、私のお弁当が食べたいらしい。悪い気はしないけど、残り物とかつめてるから何だか申し訳ないなあ。
マリは、言い終わる前に教室を走って出て行ってしまった。結構な声量だったから、きっと廊下に最後の方の言葉が響いただろうな。やっぱり、彼女は面白い。
「梓ちゃん、一緒に学食行こうか」
「あれ、由利ちゃん髪切ったの?」
「うん! 昨日切ってきちゃった」
マリを見送り世界史の教科書を閉じると、今度は由利ちゃんが近づいてきた。
彼女は、1年生から同じクラス。
とにかく、「グラマー」って言葉が似合うほどメリハリのある身体をしているから、目立つこと目立つこと。女性としてあまり隣に立ちたくはないけど、性格はとっても良い子なの。
おっとりとしていて、怒っているのを見たことがない。いつもマリ達といるけど、本当は1人で読書をする方が性に合っていることも知っていた。
「似合う! どこで切ったの?」
「最寄り駅! すぐそばに、新しいところ出来たんだ」
「へえ、あの辺パチンコ店ばかりだったじゃないの」
「なんか、商店街が力入れ出したらしくね。飲食店とかファッションセンターを建てるらしいよ」
「いいなあ、商店街」
「レトロチックだと、何だか落ち着くよね。カフェ、出来ないかなあ。私、学校サボって1日中居座っちゃう」
「それはやりすぎ!」
……ん?
私、何か忘れているような?
学食に行って席を取るのは、今から由利ちゃんと行けば間に合うし。
ノートも、もう取ったし……。
「あああああああ!!!」
「え!? 何々!?」
私は黒板に視線を向け、やりたかったことを思い出す。
そこには、日直だった青葉くんの姿が。
そうだった! 青葉くんに口止めしないといけなかった!
「な、何でもない。学食行こう」
「うん! 今日は、私もお弁当持ってきた」
「マリは後で来るって」
「ふみかちゃんと詩織ちゃんも後でって言ってた」
……今、声をかけたら変な噂が流れそうだ。
私は、自分の忘れやすさを呪いつつ、由利ちゃんと一緒に学食へと向かった。
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