31 / 247
04
意図的にそらした視線
しおりを挟む教室に入ると、いつも通りザワザワとした空気が漂っていた。
私の体調を心配する人もいて、声をかけられたわ。水道の故障の話をすると笑っていたっけ。こういうとき、話しかけてくれる人がいるって良いよね。
トートバッグから教科書やノートを取り出していると、マリたちもやってきた。ふみかも詩織も心配してくれていたみたいで、「大丈夫?」と聞いてくれる。
「お!メイク、元通りじゃん!」
「ありがとう、なんとかね。まさか、故障するとは思わなかったよ」
「めっちゃウケる。日頃の行い?」
「それなら、真っ先にマリが犠牲になる」
「なにおう!!」
あはは、やっぱり良いな。こういうの。
そうよ、私には同性の友達がいればそれで良い。
「宿題は?」
「終わった。これで、補習受けずに済む!」
「やったね!じゃあ、放課後なんだけど……」
「……」
マリが話をしている最中。
私は、ふと視線を感じて窓際に目線を向ける。すると、驚いた表情をする青葉くんと目があってしまった。私の顔を見た彼は、心配そうな表情に変わっていく。
「って感じなんだけど、どう?」
「……へ?どういうこと?」
「だーかーらー」
すぐさま、その視線をそらした。
だって、もう近づく理由は無くなったし、ただのクラスメイトだし。……私が近付けば彼は傷つく。
2日だけしか会ってないから、瑞季も要もすぐ忘れるわ。
「しおりんが部活だから、今日は全種類買って明日学校で……」
「ああ、学校でみんなで選ぼうってわけね。面白そう!」
こうやって、マリたちとおしゃべりする時間の方が、私にとってはずっとずっと大事なんだから……。
***
「はあ~、セイラさんマジで天使……」
私たちは、学校から10分ほど歩いた場所にあるコスメショップに来ていた。時間帯のせいか、同じ制服の生徒たちがちらほら。みんな、コスメや肌ケア商品を見ている。
「セイラさんって、年齢どのくらいなんだろう」
「20代じゃない?肌綺麗すぎ」
「鼻筋もしっかりしてるよね。なんか、日本人離れしてる」
「わかるー。笑うと幼く見えるのもポイント!」
「声も理想なんだよね」
奥にあるヘアケアコーナーには、新商品である『エンジェル・ケア』のブースが設けられていた。そこには、セイラさんが綺麗な髪をなびかせている大きなポスターが。いいなあ、私もこんなストレート髪にしたかった。でも、ウェーブ髪じゃないと癖があるからダメなのよね。
「ハードとソフトどっちにする?」
「ソフトが良いんじゃない?ハードはパーマしてるからあまりいらなそう」
「でも、由利ちゃんはハードでも良いかも」
「うーん、どうしよう。香りってハードとソフトで違うの?」
「違うみたい」
「私は香りで決めたいなあ。ハードもソフトも使い道あるし」
由利ちゃんはボブだから、どっちでも行けそう。マリとふみか、詩織は私と同じロングだからあまり悩む必要なし!
見ると、ソフトの方が香りが多い。5種類以上あるから、この中から選ばないとね。全種類買っていったら、分けるのが大変そう。
「あ、ふみかの好きなミント系もある!」
「フルーツは柑橘系とベリー系だね」
「フローラルとオリエンタルもあるんだ。フゼアとか、女の子使うの?」
「フゼアは省こう。しおりんもいらないと思う」
「OK~。あ、でも梓が買ったら?」
マリがフゼアのワックスを棚から取ると、なぜか私に渡してきた。……どういうこと?
「えー、フゼアは使わないよー」
「違う違う!梓が使うんじゃなくて……」
そう言って、マリはふみかの顔を見ている。何よ、はっきりしないわねえ。
商品を棚に戻していると、ふみかが今一番考えたくない人の名前を口にしてきた。
「ああ、お昼休みにね。青葉が梓のこと見てたって話をしたの」
「……そう」
「告白されるかもだから、断るときにこれプレゼントしたら?」
「それは悪趣味すぎない?」
「梓って本当モテるよね~。1人くらい私にも分けて」
告白されるわけじゃないと思うけど……。
いつもなら、マリの茶化しに乗るんだけどそんな気分になれなかった。
「欲しいなら、どうぞ」
「うわ、辛辣~」
「学年の男子たちが泣くよ、それ」
「あはは。私には友達がいればそれで十分!」
そうよ、私にはこの時間があれば十分。
……にしても、なんで私のこと見てたんだろう。
いやいや、もう関係ない。関係ないんだから。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる