【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

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私が選ぶのは、友達か、秘密の時間か

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 先輩は、芸術棟の方へと歩いて行った。もちろん、私もそれについていく。

「こっち、人少ないんだ。今お昼だから」
「……私、普通科ですけど入って大丈夫ですか?」
「あ、そうか。バッジ貸して」

 私がそう言うと、先輩が胸元のバッジを取ってくれた。

 ここ、普通科の生徒は立ち入り禁止なんだよね。バレたら反省文書かされちゃう。
 実際、橋下くん目当てで侵入した普通科の女子が書かされていたわ。

「じゃあ、行こうか」
「……あ、バッジ」

 バッジ、先輩に取られちゃった。
 返して欲しくて声を出すも、聞こえなかったみたい。……後で返してもらおう。

 私たちは、芸術棟へと入っていく。


 ***


 数時間前。

 私は、朝から高校近くの公園まで来ていた。

 家は普通の時間に出たよ。だから、今まで制服に鞄をさげてブランコに揺れてた。補導されなかったのは、ラッキーだったかも。

 朝、みんなから連絡来てたんだけど、返す気になれなくて。それを見る度、足が重くなった。そうこうしてる間に、結局3限目が終わる時間になってたんだよね。
 もう、ラインは開いてない。それより、やることがあったから。

「……」

 お願い、出て。
 お願い、お願い。


 私は、祈るように目を閉じながらケータイを握りしめる。

『ふみかちゃん?』
 
 すると、私の声に応えてくれるように、相手の声がケータイ越しに聞こえてきた。

「あ、あの!あの、ソラ先輩、私」
『待って、落ち着いて。どうしたの?』

 時間がない。
 急がないと、あの先輩が声をかけてしまう。

「あの、今日の放課後のことで」
『ああ、雅人が言ってたやつ?』
「友達が……。関係ない友達が呼ばれてて。あの、梓はそういう子じゃないんです。でも、私先輩に言えなくて」
『……』
「お願いします……。梓に手は出さないで。私ならいつでもいいから、梓には」

 沈黙が長く感じる。
 声の奥からは、ざわめきが聞こえてくる。ということは、教室なのかな。

 私は、今日の放課後の話を誰にも言えなかった。

 今までこんなことしてたなんてみんなに知れたら、軽蔑されちゃう。もう、話しかけてくれなくなるかもしれない。
 それだけならいい。最悪、退学になったらどうするの?

 でも、それと梓を巻き込むのは話が違うと思う。
 私、合ってるよね……?

「ソラ先輩……あの」
『……ああ、ごめん。聞こえてるよ。今、教室でね。ちょっとまってて』
「……ごめんなさい」

 ソラ先輩は、スポーツ科の3年生。
 本名はなんだっけ……。多分、牧原ソラだった気がする。カタカナの名前だから、すぐ覚えたんだ。
 それに、すごく話しやすい。もう1人のよく相手する先輩と友達らしいんだけど、正反対の性格って感じ。

 だから、ソラ先輩ならわかってくれると思うんだ。優しいから。
 私は、こんなことしかできない。

『お待たせ。その、アズサちゃんって子を呼ばないでほしいって感じで合ってる?』
「はい……。先輩が声かけるって言ってたんですが、それもやめてほしくて」
『……んー、わかったよ。ふみかちゃんはそれでいいの?』
「……」
『ああ、もちろん僕は言わないよ。ふみかちゃんが困ることはしない』

 きっと、こんなことがバレたら先輩怒るかな。
 幻滅されちゃうかも。

 ……ここまで来ても、友達と楽しみを天秤にかけてる自分がいる。
 本当、嫌になる。

 私は何がしたいんだろう。

「お願いします」

 それでも、梓はダメ。
 梓は、私が1人で行動してた時に話しかけてくれたの。元々、話すのが苦手だったから。友達ができなくて。でも、梓は話しかけてきてくれた。

 そんな友達は巻き込めない。

『わかった。ふみかちゃんはどこにいるの?』
「……正門近くの公園に」
『あはは、サボりだ。授業出なよ、大丈夫だから』
「午後から行きます」
『そうしなね。あまり悩まないで。僕で良ければ、話聞くから』

 ソラ先輩は、いつも通りの声で私を慰める。
 やっぱり優しいな。ソラ先輩と付き合ったら、楽しそうだな。

 5限は出よう。
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