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それはまるで魔法のようで
しおりを挟む初めて入ったけど、デッサン室って結構物々しい雰囲気。
たくさん人の銅像みたいなのあるし、レプリカだと思うんだけど食べ物とか動物とかの置物もあって。特に、目があるものは苦手かも。
1人では、ちょっと怖くて入れないな。
橋下くん、ここで良く課題やってるって言ってた。
芸術科だもんね、絵心あるって羨ましいわ。私なんか、チューリップと人の区別がつかないって瑞季に言われるくらい絵が描けないもの。
「すごい!」
「こんな感じでどうかな」
青葉くんは、私を手近な椅子に座らせるとリュックの中から小さなポーチを取り出してサッとメイク直ししてくれた。ブラシ専用ケースもあって、格好良いなあ。
橋下くんが貸してくれたデッサン用の鏡で顔を写すと、いつも自分でやっているメイクと全く同じ仕上がりだったわ。ううん。むしろ、いつもよりメイクのりが良い!ワントーン明るくなった気がする。
本当、プロなんだなってびっくりしちゃった。
……なんだか、すごすぎてちょっとだけ青葉くんが遠くに感じちゃうけどね。
「梓、よかったね」
「うん!青葉くん、ありがとう!すごいわ、魔法みたい!」
「よかった。鈴木さん、肌綺麗だからルースパウダーだけで変わるね」
ああ、そっか。
青葉くん、「かわいい」とか「綺麗」とかよく口にするのはメイクのお仕事してたからなんだ。
相手をのせるためにそういうこと言うって、マリに見せてもらったファッション雑誌のメイク担当特集に載ってた気がする。
「……そうかな」
「ベビーパウダーとかで軽く仕上げても良いかも。それに、チークはピンクよりもオレンジの方が合うよ。オータムカラーだと映える肌色だね」
「私って、オータムなの?」
「そうだと思う。パーソナルカラー診断、今度やろうか」
「うん!」
「へー、そういうのも考えないといけねぇんだな」
こういう会話、ずっとしてたいな。私、友達とこういうのがしたかったんだ。
なんか青葉くんの楽しそうな顔見てると私まで楽しくなっちゃう。本当、メイク好きなんだ。
独学かな、それとも、どこかで勉強したとか?
……にしても、2人して私の顔ジロジロ見てくるから、そろそろ恥ずかしいんですけど。
「じゃあ、最後に仕上げするね」
「……?十分よ、この仕上がりで大満足」
「顔じゃなくて、こっち」
そう言って、青葉くんは私の首筋を指してきた。……どういうこと?
顔と首で色変わってる?でも、そんな明るくなるようなルースパウダーじゃなかった気がするけど。
「これ、消していい?」
「……あ」
牧原先輩にされたやつ?
青葉くんはそれを指差してたんだ。……なぜか、ちょっと怒りながら。
私は、された時の感覚が襲ってきて少しだけ気まずい顔をしてしまった。それに気づいたのか、青葉くんは頭を撫でてくれる。それだけで落ち着いちゃう私って、結構単純かも。
「もう大丈夫だから」
青葉くんは、そう言いながら小さなメイクポーチの中から下地とリキッドファンデ、コンシーラー、ルースパウダーを取り出した。……ファンデ、見たことないブランドだな。どこのだろう?
っていうか、メイク道具で消えるものなのこれって?
「待って。あの茶髪ヤロー、誰かに取られないように印つけたって言ってたぞ。そいつに梓のこと近づけないようにって忠告もしてたし、消さない方がいい気がする」
「問題ない。鈴木さんが1人になる時間作らなきゃいい話でしょ」
「まあ、確かに」
「俺が一緒に登下校する。学校で1人になりそうな時間あれば、その時も一緒に居るようにすれば大丈夫」
「それなら安心。な、梓」
「…………」
「……梓?」
「え?」
え、何?途中からしか聞いてないから話が読めない。
でも、今、なんか幻聴が聞こえてきた気がするんだけど!?
「だから、五月がしばらく一緒に行動してくれるって」
「……へ?」
幻聴じゃなかったみたい。
……幻聴じゃなかったみたい!!!
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