97 / 247
08
いつか、飾らない自分を
しおりを挟む五月に声をかけようと顔を上げた時、オレはありえねぇ光景に身体を硬直させた。
「手ェあげて動かんといてくれへん、坊や?」
そこには、こちらへ向かって微笑んでいる男性が。しかも、その手には黒光りする銃が握られている。
「……五月」
「……従おう」
梓、帰ってくんなよ!
オレは、この後どうすれば良いのかより、梓が帰ってくるんじゃねえかってことの方がずっとずっと心配だった。
***
「あれ、梓?」
東小裏手のコンビニへ入ると、目の前には見知った顔が。
「マリ! この辺だっけ?」
あっぶな! メイク落とさないでよかった……。
そこには、マヨネーズ片手に嬉しそうな顔をしているマリがいた。私に向かって、手を振っている。
「ううん。南中の近く。いつも買ってるメーカーがなくてここまで来たの。……瑞季ちゃんと要くん、久しぶり~」
「こんにちは!」
「こんにちは!」
マリのこういうところ、見習いたいよね。
前、うちへ勉強しに来た時チラッと紹介しただけで名前を覚えててくれるんだもの。
なのに、私ときたら。
クラスメイトの名前もロクに覚えられないんだから。
……私の悪い癖ね。毎日が忙しいことを理由に、興味ないって言ってさ。
「元気だねえ。梓はどうしたの?」
「お塩が家になくてね。ついでに、子どもたちのお菓子も買うの」
「そうなんだ~。ねぇ、これから遊ばない?」
調味料コーナーへ行くと、すぐに食卓塩を見つけた。
この赤いキャップのやつが一番安いわね。ガラス製だからゴミ捨て面倒だけど、今は値段! 後で大袋買い直そっと。
「ごめん、今から用事があって……」
「なんだ、残念~。じゃあ、また遊ぼう」
「うん。いつもありがとう」
「こちらこそ! 梓が居ないと、楽しさ半減なんだからね!」
マリ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
毎回断ってるから、心苦しいけど仕方ない。……今から一緒にご飯どう? なんて言ったら、私が家事してるのバレちゃう。
ああ。それに、青葉くんたちが来てるんだった。そっちもバレたら良くないよね?
「私も、マリと遊べないとなんだかつまんない気持ちになるよ」
「えへへ。こういうの、相思相愛っていうんでしょ?」
「それって、男女関係で使うものよ……」
「え、そうなの~?」
ふふ、マリってばやっぱり面白い。
そのままお菓子コーナーに移動した私たちは、グミを手に取りレジへと向かった。
要が探してたグミ、あって良かった。瑞季が欲しかったやつはなかったみたいだけど。代わりに、いつも食べてるチョコで我慢するって。今度見つけたら、買ってきてあげよう。
「じゃあ、また学校でね」
「うん! 気をつけて帰ってね~」
「おねえちゃん、バイバイ!」
「バイバイ、ねぇちゃん」
「礼儀正しい~! またね、鈴木チルドレン~!」
やっぱりマリって面白い!
マヨネーズが入っている袋を下げたマリは、私たちとは正反対の方角へ行ってしまった。
「……」
いつか、マリに本当のこと言えるかな。
親が仕事で家にいる時間が少ないこと。
双子の迎えをやってること。
家事全般やってること。
……童顔隠したくてバリバリのメイクしてること。
いつか。
いつか、言えるといいな。
「じゃあ、おうち帰ろっか!」
「うん!」
「にいちゃんとグミ食べる」
「ダメ! 夕ご飯食べられなくなるでしょ!」
「ねえちゃんのケチー」
「なんとでも言いなさい」
全く! いつも同じやりとりするんだから!!
私は、わがままを言う双子を引き連れて、帰路につく。
……青葉くんに帰るよって連絡しなくていいかな。まあ、くつろいでてほしいから連絡しなくていっか。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる