【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

文字の大きさ
110 / 247
10

嫉妬

しおりを挟む

「…………」

 放課後、私は昇降口に置かれたベンチに座ってボーッと空を見上げていた。

 青葉くん、生徒会に呼ばれたんだって。昨年書類整理してたかそれ関連かなって、ラインが来てたわ。
 20分経っても終わらなかったら、先に行かなきゃ。お迎えの関係で、それ以上待つのは難しいから。

「……あれ、アズサちゃんだ」
「牧原先輩……」

 腕時計を見ていると、聞いたことのある声がした。顔を上げると、案の定、牧原先輩がこちらに向かって手を振っている。
 その隣には、これまた背の高い男子が。

「久しぶりー。って言っても、そんな経ってないか」
「ソラ、知り合いか?」
「うん。ほら、普通科のアズサちゃん」
「ああ、お前が」

 ちょっと! 初対面で「お前」はないでしょう!!

 そう文句を言おうとしたけど、止めた。
 牧原先輩にタメ口ってことは、この人も先輩だろうし。……ちょっと見た目が怖いし。

「ふーん。可愛いね」
「でしょう? 僕の推しの子」
「……茶化したいだけなら、他へどうぞ」
「そんなそんな~。僕、アズサちゃんが来てくれるの待ってたんだけどなあ。一向に来てくれないんだもん」
「特に、用事はないですから」
「上着と校章、僕が持ってるんだけど」
「あ……」

 そうよ! 上着!!

 私は、今の今まで自分の上着と校章が手元にないことを忘れていた。
 頭の隅にもなかったわ。上着の「う」の字も。

「ないと大変じゃない? 登校時は、上着必須でしょ?」
「……借りてるから、大丈夫です」
「えー、誰に?」
「…………」

 青葉くんにって言おうとしたけど、別に答える義務はないよね。
 この先輩、あまり一緒に居たくないタイプだし。早く帰ってほしいなあ。

「んだ、お前? 後輩イジメは良くねぇぞ」
「別に、虐めてないよ。アズサちゃんの上着を僕が拾ったってだけ。ね?」

 ええ、そうね!
 拾っただけね!!

 嘘は付いてないけど、色々抜けてるわ。
 牧原先輩、私にあの時のことを思い出させようとしてるんだ。思惑にはまらないようにしなきゃ。

 そう思ったのに、私の顔はどんどん熱くなっていく。処女かどうか聞かれたことを、思い出して。

 あの後、橋下くんが助けてくれたのよね。それから彼と仲良くなって、青葉くんの過去を聞いて……。

「……アズサちゃん?」

 青葉くん、どれくらい傷ついたんだろう。きっと、私が想像してるよりずっとずっと辛かったよね。

 私、青葉くんに気持ち伝えようって思ってた時期もあったの。
 けど、青葉くんは「告白」されること自体、トラウマだと思う。それをわかっているから、私にはできないって納得したんだ。
 ……納得したのよ。

「アズサちゃん、どうし「お待たせ、鈴木さん」」
「……青葉くん!」

 良かった、間に合ったんだ。

 私はベンチから立ち上がり、帰ってきた青葉くんの方へと駆け寄った。
 ……でも、なんか機嫌悪い? 青葉くん、私の後ろを睨んでる気がする。

「……あ」

 そうだ、牧原先輩たちと喋ってたんだ!
 すっかり忘れてたわ……。

「何か用ですか」
「アズサちゃんにね」
「上着と校章、早く返してあげてください」
「返したいんだけど、今は持ってないんだ」
「……そうですか。鈴木さん、行こうか」
「う、うん」

 そう言って、青葉くんは私の荷物をベンチ下から拾い上げた。

 やっぱり怒ってる?

 私が、早く先輩のところに行って上着返してもらえばよかったかな。でも、橋下くんが行くなって。
 ううん。人のせいにしちゃダメよ。ちゃんと、自分で取りに行かないと。

 そんなことを考えていると、青葉くんが私の手を握ってきた。
 今、言わなきゃ。

「ま、牧原先輩!」
「……なあに?」
「明日、取りに行くので上着返してください」
「じゃあ、一緒にお昼食べよっか。その時返すよ」
「……えっと」

 ……あれ? 青葉くんの手に力が入ってる。ちょっとだけ、痛い。
 どうしたんだろう。

「鈴木さん、時間」
「あ、迎え! 先輩、明日お願いします!」
「あ、ちょっと!」

 そっか、迎えの時間あるから急いでくれてたんだ。

 安堵した私は、2人の先輩に向かって頭を下げてから走り出す。

「青葉くん、ありがとうね。忘れるところだった」
「……」
「……青葉くん?」
「え? あ、うん」
「……?」

 やっぱり、青葉くん機嫌悪い?
 私、何かしたかな。先輩と話してて、上着返してって言って。

 ……もしかして、上着借りすぎ?
 もしかしてもしかして、借りた初日にそれ抱いて寝たのバレた!? 

 青葉くんの匂い、すごく落ち着くから寝落ちしちゃったのよね。
 でも、安心して。ヨダレは垂らしてないわ!

 ……じゃないわよ! 抱いて寝たなんて、バレてたらどうしよう?
 
 いやいや、バレてるわけないじゃない。青葉くんはエスパーじゃないって。落ち着いて、私!
 落ち着いて、原因を考え……。

 あ、馬鹿! 荷物持たせっぱなしじゃないの!

「ご、ごめん! カバン!」
「大丈夫、持つよ。急ごう」
「う、うん……」

 あれ、いつもの青葉くんだ。
 いつの間にか、手の力も抜けてるわ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...