【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

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橋下くんとはしないのに、私にはするんだって

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「香水……つけてない、です」
「………………」
「……ごめん」

 そう言って、青葉くんは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

 ……さっき、私なんて言った?

 『すごく好きな匂いで』?
 『落ち着くから』??
 『気持ち良くて』???

 振り返れば振り返るほど、私の体温は上昇していく。
 今、熱を測ったら38度は確実にあると思うの。

「青葉くん」
「はい」
「……青葉くん」
「……はい」
「………………今言ったの、全部忘れてください」

 穴があったら入りたいとは、まさにこのこと。
 なくたって、今ならシャベル貰えれば自分で掘るわ。誰か、貸してくれないかしら。
 今の時代アレね、マイシャベルが必須だわ。

「……ふっ。はは、あはは! やっぱり鈴木さんはかわいいね」
「……笑わないで」
「うん。うん、ごめん。ふふっ……かわいくて」
「もう、好きにしてちょうだい」

 いつのまにか赤面顔から抜け出した青葉くんは、ものすごく楽しそうに腹を抱えて笑っている。
 ……そんな笑わないでほしいです。

「うん。好きにする」
「え?」

 すると、青葉くんは立ち上がって私が座っているところまでやってきた。

「!?」

 え、なに!?
 どうしたの!?

 そのまま腰を下ろすと、後ろから抱きついてくるじゃないの! びっくりした私は、抱いていたぬいぐるみをカーペットの上に落としてしまった。

「俺も、鈴木さんの匂い好きだよ」
「……う」
「でも、自分の匂いはわからないなあ。汗臭くない?」
「……臭くない。良い匂い」

 待って、今、私……!
 匂い嗅がれてるってこと?

 今日体育あったよね!?
 シャワー浴びてないよね!?
 何なら、今夏ですけど!?

 というか、体育あったのに青葉くん全然汗臭くないんだけど。……え、痩せてる人って汗かかないの?

「……もう良い?」
「まだ。……嫌?」
「……嫌じゃない、けど。その、は、恥ずかしいと言うか何と言うか」
「うん」

 うん?
 うんって、何? 

 うんって何!?

「あ、青葉くん……?」
「だって、鈴木さんだけ俺の匂い堪能するのズルくない?」
「た、堪能って……」
「寝落ちするくらい堪能したんでしょう?」
「……はい」
「じゃあ、俺も寝落ちするまで堪能しないとフェアじゃないよね?」
「……ごめんなさい」

 やっぱり、穴掘ってこようか!

 耳元でしゃべるから、声がね。その、ね? わかってくれるでしょう??
 
 ……でも、こういうことするってことは、嫌われてないって思ってていいのかな。
 もしかして、その……す、好きとか?
 いやいや。友達同士だって、やるでしょう。私もよく、マリとしてるし。

 青葉くんも、橋下くんとこんなことしてるのかな。……ちょっと見てみたいわ。

「ニヤついてどうしたの?」
「へ!? あ、青葉くんと橋下くんが抱きついてる姿想像してた」
「……え、なんで」
「だって、友達同士でギューッてするでしょう?」
「……う、うん。……?」
「私もマリとするし、青葉くんともするから、橋下くんともギューッてするのかなって」
「……しない」
「え?」
「しない……」
「そ、そう……」

 芸能人だから、そういうことやったらニュースになっちゃうのかな? 青葉くんも格好良いから、すごく絵になるような気がする。……ちょっと見てみたいな。

 なんて、私が想像していると、

「……奏とは、これからもしないからね」
「へ?」
「やってほしいって顔してたから」

 と、青葉くんが横から顔を覗いてきた。
 この顔は、本気で嫌がってる時の表情だわ。……見たかったな。

「鈴木さんになら、いつでもするよ?」
「え……?」
「テスト終わってからも、していいならするよ」
「……それって、どういう「梓ちゃーーーーん!!」」

 その続きを聞こうと思い、少しだけ緩んだ腕の中で方向転換させた時。

「!?」
「!?」

 バーンと大きめの音と共に、部屋へパパが入ってきた。
 なぜか、アヒルさんがこんもり入れられた風呂桶を持ちながら。

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