【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

文字の大きさ
143 / 247
12

好きになる資格はない

しおりを挟む

「……青葉! 大丈夫か?」
「……眞田くん?」

 目を開けると、懐かしい天井が見えた。それに、俺を覗き込んで安堵している眞田くん。
 周囲を見渡す限り、保健室のベッドで寝ていたらしい。

「良かった。あのまま起きないかと思ったわ……」
「……俺、どうしたの?」
「準備室で過呼吸起こして、そのまま倒れたんだよ」
「……あー」

 そうだ。
 みんなの前で過呼吸晒したくなくて、隠れたんだ。鈴木さんと眞田くんが部屋に入ってきたところまでは、うっすら覚えてる。

「鈴木さんは?」
「教室戻ったぞ」
「そう。……眞田くんが運んでくれたの?」
「おうよ。お前、もっと食えよ。女子より軽いんじゃねぇの?」
「……あはは。ありがとう」
「それより、体調は?」
「もう大丈夫。これが初めてじゃないから」
「そっか……」

 やっぱり、眞田くんが運んでくれたんだ。優しいな。

 俺は、ちゃんとお礼が言いたくて上半身を起こした。
 すると、セーターを着ていないことに気づく。

「……あれ」
「セーターは、枕元な。ネクタイとベルトも一緒に置いてあるから」
「これも、眞田くんがしてくれたの?」
「……いや、えっと」
「……?」

 言われた通り、セーターとネクタイ、ベルトが枕元にあった。どちらも、綺麗に畳まれている。
 眞田くんって、結構几帳面なんだな。なんて思っていたら、

「…………鈴木が、その」
「え……?」
「鈴木が脱がせた。畳んだのも鈴木な」
「……マジ?」
「おう……。なんなら、ベルト取ってズボンのファスナーもおろしてたからな」

 急いで布団を取ると、眞田くんが話した通りファスナーが下されている。
 ……きっと、身体を圧迫させちゃうから下ろしたんだろうな。理由はわかる。わかるけど……。

「…………死にたい」
「俺がやろうと思ったんだけど、その、鈴木が必死だったから……」
「はっず……」

 でも、そのおかげか息苦しさはなくなってる。うまく呼吸できるし、暑さで気持ち悪くなることもない。……んだけど。
 俺は、申し訳なさそうな顔をしてる眞田くんを横目に、制服のズボンのファスナーを上げた。……待てよ。と言うことは……。

「……もしかして、ワイシャツの中も」
「いや、ネクタイ外してただけだぞ。なんかあんのか?」
「え、あ……」
「あ、お前もしかして……」

 見られたかな。
 鈴木さんにだけは見られたくなかった。メイクで隠せば良かったな。見たくなかったからそのままにしてた自分を呪いたい。

 なんて後悔をよそに、眞田くんは、

「お前、女だった……とか?」
「は!?」
「え、いや。だって、ワイシャツの中見られたくねえんだろ?」
「そうだけど。……俺は男です」
「はあ……。セイラには、チンコついてねえじゃん」
「俺はセイラじゃないし、ついてます……」
「わーってるわ。夢くらい見させろよ」

 と、言ってくる。どんな夢だ?
 ……頭のてっぺんからつま先まで、正真正銘の男ですって。千影さんに似てるのは自覚してるけど、髪質とか眉は父さん似だし。

 なのに、眞田くんは少し離れて俺の身体部分を手で隠して「やっぱセイラ」と真剣な顔して言ってくる。……面白い人。

「……鈴木さん、普通だった?」
「おう。必死だったからそれどころじゃなかった感じだったけど」
「……どっちにしろ、複雑」
「お前、もしかして鈴木に男として見られてねぇんじゃ……」
「奏にも同じこと言われた」
「……ドンマイ」
「…………」

 鈴木さんの部屋に2人きりで入ったことといい、本当、彼女の中の俺の立ち位置はなんなんだろう。
 要くんいるし、慣れてるだけ? ……ってことは、鈴木さんの中で俺は小学2年生か。まあ、いいさ。

「その様子を見る限り、お前も鈴木のこと好きなんだな」
「……うん」

 質問に頷くと、眞田くんが大きなため息をつきながらベッドの端に座ってきた。
 同じ人を好きだって言われたら、そうなるよね。

「はあ。お前には勝てねえ」
「そんなことないって。俺なんかじゃ鈴木さんと釣り合わないし、告白するつもりないから」
「……何だよそれ」
「今まで散々女の人と遊びまくってたの。流されるままにセフレ増やして生活してるようなやつだから。釣り合わないんだよ」
「それは……」
「多い時は、同時期に6人かな」
「…………」

 ほら、黙った。
 他人が聞いたら、こんなもんでしょ。

 俺の話を聞いた眞田くんは、下を向いてしまった。
 鈴木さんと釣り合うかどうかなんて、俺自身が一番よくわかってる。
 眞田くんがドン引きしそうなエピソード、まだまだあるし。

「1日に2人相手したこともあるし、彼氏のいる人を抱いた時もある。ひどい時は「青葉、もういい」」
「……」
「もう、いいよ。青葉」

 ね?
 こんなもんだよ。

 俺はチャイムの音を聞きながら、眞田くんの暗い顔を見て自身を嘲笑った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...