167 / 247
14
あと何回見れば
しおりを挟む「五月~、帰ろうぜ!」
変装したオレが五月の教室へ行くと、本人がボーッと突っ立ってスマホを見てるじゃんか。他のクラスメイトに動きがあるからか、その周りだけ時間が止まったような感じだ。オレの声、聞こえなかったか?
和哉は反応してくれてるわ。ほら、手を振ったら振り返してくれた。五月、どうしたんだ?
「五月! 早く行かないと」
「……あ、奏」
「なんだよ、難しい顔して! 梓と一緒じゃねぇのが寂しいってか? オレで我慢しろ」
「寂しいけど……。それどころじゃない」
「は?」
先生が居ないことを確認して教室へ入ると、やっと反応を返してくれた。けど、自席から動こうとはしない。
よく見ると、手が震えてる。顔色も、みるみるうちに土へ変わっていく。マジで、どうした? 過呼吸くるか?
倒れる前に、オレは五月の背中を腕で支える。すると、和哉も寄ってきた。
「どうした? ……って、青葉!? お前、顔色」
「……んが来た」
「は? わりぃ、聞こえなかった」
「青葉?」
てか、こいつスマホ見てないわ。焦点が合ってない目で、どこも見ていない。
しかも、誰にも聞かせる気がないような小さな声で話してくるし。
とりあえず、緊急事態なことだけは理解した。
オレは、震える手に持たれているスマホ画面を覗き込んだ。すると、そこには……。
「はあ!? 嘘だろ……」
「どうした、奏? 俺も見ていい?」
「あ、いや。うん。……え、五月どうすんの? 帰れねぇじゃん」
「……? ミカって誰だ?」
「……えっと」
スマホは、ラインのメッセージ画面が映っていた。しかも、梓との画面だ。
そして、そこには「正門にミカさん居るよ。青葉くんのこと待ってるんだって。教室にいると思うって伝えておいたよ」のメッセージが。さらに、続けて「青葉くんって、ミカさんと知り合いだったんだね。私、好きなモデルさんなの」と送られてきていた。
まさか、本当にここまで来ると思ってなかったオレは、そのメッセージを見て急いでベランダに出た。
和哉の質問に答えている暇はねぇ。
「……居る」
「……? あ、モデルのミカだ」
「和哉、知ってんの?」
「ああ。弟の彼女が好きとかで、雑誌買ってこさせられたから」
「へえ、そっか」
「なんだ、知り合いだったのか。今度サインでも「いや、その、なんと言ったらいいか」」
ここのベランダから顔を出せば、正門が見えるはず。そう思って身体を出すと、居たんだ。あいつが。
表情までは見えないが、なにやらサインでも書いてるらしい。ちょっとした行列ができている。
梓が居ないのが救いだ。もう帰ったのか?
オレが覗いていると、隣から和哉もやってきた。……いや、五月も。
「……あの人、俺の遊び相手」
「は!? ちょ、マ?」
「うん……。少なくとも、俺はセフレだと思ってる」
「……ってことは、相手は本気?」
「みたい。こう言う関係やめたいって言ったけど聞いてくれなかったんだ」
「あー……。裏口から帰るか?」
和哉には、少し話してたってことだよな。五月の話聞いて驚いてねぇし。それに、腕を広げてこいつが倒れた時用にスタンバッてるし。
てか、和哉が緊張で倒れそうだ。こいつ、なんだかんだで五月のこと大事にしてるよな。
「いや、正門から帰るよ。確かめたいことがあるから」
「……大丈夫か? お前、倒れそうだぞ」
あの時のトラウマで美香さんに会いたくなくて、震えてたのかと思ったけどそうじゃないらしい。
五月は、美香さんの居る方に視線を向けながら未だに難しそうな顔をしている。
「大丈夫。それより、鈴木さんが俺と良く一緒に居るのがバレたらヤバいなって。どこまで話した……のかわかん、ない、から」
「あー……。そっちか」
「どういうことだ?」
「五月、あのこと言って良い?」
「……っ、ご、ごめ」
「あーもう! 無理すんなって!」
うん。やっぱ、トラウマになってるわ。
五月は、その時のことを思い出したのかその場に倒れ込んで手で口を押さえ出す。ベランダだからか、その声はよく響いた。でも、教室にいる奴らには聞こえてないっぽいな。
「深呼吸しろ。ほら、ゆっくり」
「っ、っ……ふっ、はっ」
「青葉、落ち着け。俺ら居るから」
「はっ……はっ、っ」
「そうそう、上手いぞ。……和哉、そこじゃなくてこっち支えてやってくれ」
「おう」
オレが指示を出すと、和哉も真剣な顔になった聞いてくれる。
五月が声を押し殺す度、涙がベランダのコンクリートに落ちていった。
これ、早く治してやりてぇなあ。こんなんじゃ、こいつは何もできないじゃんか。
「梓は近くに居なかったから。安心しろよ」
「っ……っ、…………」
「鈴木が危ないってこと?」
オレの言葉に少し落ち着いたらしい。五月は、涙で濡れた顔を上げた。
オレは、こんな親友の顔を後何度見なきゃいけないんだろうか。正直、この瞬間が1番辛い。
「……あ、っ、す、ずきさ」
「まだ喋んな。舌噛むぞ」
「……」
怒ると、それに従ってスマホ画面に何かを打ち始めた。
オレと和哉は、それを見るため五月を見守る。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる