223 / 247
16
千影さんは母親さん
しおりを挟む家がそろそろ見えてくるってところで、私は立ち止まった。
いたずらっ子な顔をするセイラさんとは正反対に、青葉くんは気まずそうな表情で横を向いているの。どうしたんだろう?
意味のわからない私は、その顔を覗きながら質問をする。
「青葉くん、中古なの?」
「……あ、えっと」
それと同時に、セイラさんが私をギュッと抱きしめてきた。やっぱり、良い匂いだな。香水とはちょっと違うような?
その匂いにやられ、持っていたカバンを落としそうになってハッとした。
「梓ちゃんは、本当にさっちゃんで良いの?」
「え?」
セイラさんの発言に、青葉くんはスーパーの袋を持ったまま下を向いてしまった。そっちに行きたいんだけど、セイラさんが離してくれない。力が強くて振り解けないよ。
「ほら、中古男でしょ? 他でかなり経験しちゃってるし」
「えっと、中古って……?」
「下半身のはな「言い方!」」
下半身? 私、脚力はあると思うんだけど。ほら、いつもスーパーまで走ってるし。双子の迎えだって、猛ダッシュだし。
でも、青葉くんって結構かけっこ早いんだよね。前、体育で100M走ってバスケ部に勧誘されてるの見たもん。私は、誰からも勧誘されなかった。
でも、中古ってなんだろ? チューコ? そんな部活、あったかな。
「あ、あの! 私、その」
「なあに、梓ちゃん?」
「あの、その……。わ、私も他で経験積んで、青葉くんと同じくチューコになります! だから、えっと」
「それはやめて!」
「やめろ! シャレんなんねえ!」
「え?」
あれ、違った?
私が宣言すると、青葉くんと奏くんが真っ青な顔して大声を張り上げてきた。特に青葉くんなんて、スーパーの袋を落としてるし。卵入ってなかった?
「す、鈴木さん、意味わかってる?」
「え? 運動のことでしょ?」
「……運動、だけどさ」
「私、青葉くんに近づきたい。これからも一緒に居れるように頑張るから……」
「頑張らなくても一緒だよ。一緒に居るから、その、他の人とはしないでほしいです。……勝手でごめん」
「う、うん。わかった……?」
「ふふふ、梓ちゃん純粋! 絶対一緒にショッピングする! 全身コーデ」
「させるか!」
正直、よくわからない。
とりあえず卵の心配をしていると、それに気づいた奏くんが拾って中身を確認してくれている。そして、こっちを向いてオッケーサイン。
うん、割れてないみたい。
そんなやりとりをしつつも、私はセイラさんに抱擁されて動けない。そこで2人して言い合いしてるし、カオスだわ。
「もう、鈴木さんに嫌われたら、今後一切千影さんのメイクしないからね」
「それは良いけど、梓ちゃんには嫌われたくないわ! 嫌いなの?」
「本人に聞かれて本当のこと言えるか!」
「ふふ。私、セイラさん大好き。だって、青葉くんとそっくりだもん」
「……」
「……梓ちゃん」
私が笑うと、セイラさんが離してくれた。そして、
「千影」
「え?」
「私、貴女の前で演技はしたくないから。千影って呼んでちょうだい」
そう言って、いたずらっ子の顔のまま笑いかけてくる。その顔は、やっぱりどこか青葉くんに似ていて。
「あ、あの、千影さん」
「なあに?」
「わ、私、青葉くんのこと好きで、その。……青葉くんを幸せにしますので、えっと、お付き合い認めて欲しいです」
「……鈴木さん、それ俺のセリフ」
「え、そうなの?」
セイラ……千影さんの顔がまともに見れない中、私は言葉を振り絞った。のに、言い方が間違っていたみたい。奏くんが出てるドラマで、こんなセリフがあったから参考にしたのだけれど。
「……さっちゃん。梓ちゃんを泣かせたら、学費払うのやめるからね」
「は!?」
「家賃も止めるからね」
「……泣かせないよ」
「なら良いわ。……梓ちゃん」
「は、はひっ!?」
「うちの子、女遊びしてたし刺青すごいしメンタル豆腐だけどね……」
急に話しかけられて変な声出しちゃった。千影さん、そんな私を笑いながら話を進めてくる。
やっぱり、一緒に住んでいなくても2人は親子なんだ。ちゃんと、青葉くんのこと見てる。
この後、きっと「うちの子は優しいからよろしくね」とか言われるのかな。
「顔だけは良いから、よろしくね」
って!? まさかの良いところ顔だけ!?
私も奏くんも、思わず吹き出しちゃった。青葉くんは……真顔だわ。
「……青葉くんに見合う人になります」
「逆よ、逆。この子が梓ちゃんに見合う人になるの。ね、さっちゃん」
「うん。俺を選んでよかったって言ってもらえるようになる」
「そ。なら、良いわ。帰る」
「え、ご飯……」
「元々私の分は買ってないから。今度は、ショッピング行こうね、梓ちゃん!」
「だから、行かせるか!」
千影さんは、言うだけ言って逆方向へと歩いて行ってしまった。止める間もない。
やっぱり、芸能人って自由だな。奏くんもそうだけど。のびのびとしていて、憧れる。
でも、その後ろ姿はどことなく「母親」の面影を残していたの。なぜか、私にその視線は向いているけど、それは気のせいね。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる