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俺の親友は超能力者
しおりを挟む「あっずっさっちゃああああああああんんん!!」
「わぶ!?」
「わ、梓!?」
オフィスの撮影が終わり休憩に入ると同時に、スーツ姿の千影さんが飛んできた。
比喩でもなんでもないわ。本当に、文字通り飛んできたの。びっくりしすぎて倒れそうになるものの、ちょうど後ろに居た奏くんが支えてくれてことなきを得た。
「ご、ごめん、奏くん」
「大丈夫だけど……。千影さん!」
「ごめんね、梓ちゃん~。嬉しくて。ね、私の演技どうだった!?」
「……オレに謝罪はなし、と」
「すごかったです! 千影さんじゃない誰かにしか見えなくて、何度も千影さんのこと探しちゃいましたもん」
「いや~んっ、最高の褒め言葉だわ~~」
……奏くん、ちょっといじけてるわ。可愛い。
いえ、今はこっちね。
千影さんは、私の身体をこれでもかと抱きしめてくる。嬉しい。嬉しいのだけれど、視線が怖いわ。
奏くんに千影さんに囲まれた一般人って立場だもの、そりゃあ「あの人何様?」って言われて当然だわ。「またあの子だ」って声も聞こえてくる。
「……千影さん、止めてよ。自分の立場考えて」
「なによう、自分の娘を抱きしめちゃダメなの?」
「お前の子どもは息子しか居ない!」
「あら、そうだったかしら? じゃあ、17年前に産んだのは男の子だったのね。昨日、女の子産んだ夢見たから曖昧になってたわ」
「それ本気で言ってるなら今すぐ病院に行け」
「なあに、妬いてるの? 男がみっともない」
「~~~~~」
周囲の声に縮こまっていると、そこに呆れた顔をした青葉くんがやってきた。
千影さんの肩を持って私から引き剥がそうとしてくれてるけど、びくともしないみたい。眉間にシワをこれでもかというほど寄せて、千影さんに対抗してる。
それを見ながら、私と奏くんが笑う。
こんな日常が、ずっとずっと続けば良いのにな。続けば、良いのに。
***
「梓、カラ元気だったな」
「……うん」
「ありゃあ、五月がアメリカ行き確定したら「別れよう」って言ってくるぞ」
「は!? な、なんで!?」
日程を全て終え、奏と俺の控室で片付けをしていると、そんなことを言ってくる。
驚きすぎた俺は、アイメイクをケースごと落としてしまった。床にシャドウが散る中、そんなことを気にしていられない。
「そりゃあ、梓の性格からしてお前の邪魔したくないって思うだろうからな。あの顔見て、すぐわかったぞ」
「……わかんなかった。え、マジで? それなら、俺行かない」
「いや、俺の想像だって。それに、そんな理由で行くのやめると、マジで梓に嫌われるぞ」
「嘘だろ……。俺に選択権ないじゃん」
「やっぱ、オレがもらってやるよ」
「は? 死ね」
「……辛辣」
確かに、鈴木さんなら言いかねない。むしろ、それ以外の行動が想像できないな。
夢も鈴木さんも諦めたくない。それって、贅沢なのかな。
それでもどっちかを諦めるなら、迷うことなく夢を捨てるけど。俺は、鈴木さんが側に居ないと何もできない人間だから。
上着を脱いだ奏は、大きく背伸びをしながら俺の顔を覗いている。
本当、出来た親友だよ。
「やっぱ、今日打ち上げ欠席する」
「おう。千影さんに言っとくよ」
「ありがと。メイク取るから、座って」
「うい、よろしくー。オレ、お前らがずっと一緒に居る姿を見ていたい」
「ずっと一緒に居るよ。鈴木さんが嫌だって言わない限りは」
「がんばれ」
俺は、メイク落としを染み込ませたコットンで奏の顔を拭いていく。
終わったら、鈴木さんにラインしよう。どこか喫茶店でも寄ろうか。鈴木さんの好きなケーキを奢って、もう一度俺の気持ちを……って、物で釣るのは良くないか。いや、釣るんじゃない。俺が奢りたいだけ。
……ダメだ、不安すぎて泣きそう。
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