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03:愉快なご友人
それでも、貴方が好き
しおりを挟むどうしてこうなったのか、考えてもよくわからない。
頭の中が真っ白になる勢いで、戸惑ってしまうわ。さっきまで落ち着いていたのに。
「僕と婚約しよっか?」
「ふぇぶ!? え」
「ね、将来安泰だよ♡」
なんでそういう話になったの!?
話の流れがわからず……なんなら、どうして私は2人の間に座ってるの!? それすら、わからない。
しかも、なぜかレオンハルト様が不機嫌だし……。
いやいや、王族と婚姻結ぶとかありえない。というか、想像できない。……それに、私が好きなのはレオンハルト様よ。最初はわからなかったけど、何度かお会いして好きだなって思ったの。それは、変えられない。
「ごめんなさい、条件に当てはまらないので難しいと思います」
「えー、まさか処女じゃないの?」
「しょじょ?」
「王族との婚姻で1番重視される条件は、処女かどうかだよ。まさか、もう経験してたなんて驚きだなあ。ねえ、レーヴェ?」
「………………」
「うわ、めっちゃ落ち込んでる」
もちろん、失礼承知で断ったわ。
でも、なぜかレオンハルト様が落ち込んでいる。もしかして、アレクサンドラ第3王子と婚約した方が良かった?
私は、貴方の方が好きなのに。
まだ数ヶ月のお付き合いで数回しかお会いしていないけど、貴方に夢中になってしまったのよ。寝ても覚めても、レオンハルト様は今頃なにしてるのかなって考えてお仕事を頑張るのが日課になりつつあるのにな。
それに、しょじょって何? 王族との婚姻に重視されるってことは、爵位関係?
「あのっ! すみません、えっと。しょじょってなんですか?」
「へ?」
「あ、言葉違いました? そう聞こえたのですが……」
「良かったね、レーヴェ」
「はあー……。いや、別に落ち込んでないし、彼女の意思を尊重するし」
「処女を知らないなら、未経験確定だよ。興奮した?」
「そんな目で彼女を見るな」
「あ、あの……。教養不足ですみません。今日帰ったら自分で勉強して経験してきますから、その、嫌いにならないでください」
「経験しないでください!」
「ひゃ!?」
あれ、違ったかも。
とりあえず、「経験」してた方が良いよね。「未経験」って、世間知らずってことでしょう? って思って発言したのだけど……。レオンハルト様に大きな声で怒られてしまったわ。
本当、こういう時に教養がないと相手を不快にさせてしまうわよね。申し訳ないわ。
でも、何故かアレクサンドラ第3王子はお腹を抱えて笑っていらっしゃる。この差は何?
「レーヴェ」
「なんだよ」
「本気で狙って良「ダメ」」
「僕、そろそろ婚約者探しを「ダメ」」
「能力的にも、王族に彼女が欲し「ダメ」」
「あ「ダメ」」
「まだ何も言ってないし!」
「ダメなもんはダメだ!」
「あ、あの……喧嘩は良くないです」
「「喧嘩してないっ!!」」
私を挟んで言い争いをする2人は、止まらない。居心地が悪くなって間に入ったけど……2人して同じ言葉を言うなんて、仲が良いのね。
喧嘩するほど仲が良いって、さっき読んでいた隣国の情報雑誌に書いてあったわ。これって、そういうことなのかな?
お2人には悪いけど、こんな息ぴったりなことをされてしまったら、笑っちゃうわ。
「ふふ、仲良しさんなんですね」
「……腐れ縁なだけです」
「5歳から一緒だもんねー。アカデミーも同じだし」
「ということは、同い年ですか?」
「そうそう。21ー」
「私と5歳差ですね。良いなあ」
「なぜ?」
「成人したら、王宮で働ける試験を受けられるじゃないですか。私、早くそれを受けたいんです」
「なんの職?」
「司書をやりたいなって思ってますけど、他でも私がお役に立てるならなんでも」
「確かに、君くらいの能力なら司書が合ってるかも。さっきチラッと見えたけど、法律の勉強もしてるみたいだし……っとー! 僕、そろそろ戻らないとなー」
アレクサンドラ第3王子と話していると、サーッとお顔の色が悪くなられた。視線は何故か私と合わない。こっち向いているのに。
どうしたのかしら? とても目が浮いていらっしゃる。
あ、もしかして、レオンハルト様を見てるの?
私もそっちを向くと……笑顔の彼と目が合った。やっぱり、好きだな。お姿を見るだけで、それを実感できる。
「また遊ぼうね、ステラ嬢! 次会う時は、お目目のクマをファンデで隠さないこと! レーヴェは気づいてなかったけど、僕にはお見通しなんだからね!」
「……え、クマ?」
「あ、はい。気をつけます……」
「ばいばーい!」
第3王子は、大きめの声でそう言って手を振りながら王宮へと戻って行かれた。そのあとは、まるで嵐が去った後のような静けさになってしまったわ。
……き、気まずい。
チラッと横目で見ると、落ち込んでいるようなレオンハルト様のお姿があった。
「……レオンハルト様、お仕事の方は?」
「はい、終わりました。もう大丈夫です」
「良かった。……あの、私はアレクサンドラ第3王子よりも誰よりも、貴方が好きです。あの、好きになってしまったので、第3王子とは婚約しませんがよろしかったでしょうか? なんだか、そのお返事をした辺りから落ち込まれていたので、受けた方が良かったのかなと思って……」
「そっ、そんなこと! 受けないでください! あの、えっと……お待たせしてしまいすみませんでした。それに、クマがあるほど眠れてないことにも気づかず申し訳ないです」
「私も、眠ってしまってごめんなさい。頭をよしよしされて、寝ちゃったみたいで……」
「は? あいつ、なにしてんの? ……あ、いや、ごめんなさい、違うんです。ラファエルのことです」
「ふふ……。レオンハルト様は、第3王子と仲がよろしくて微笑ましいですわ」
私にも、幼馴染っていうのかしら? そういう人が居たらよかったのにな。……できれば、レオンハルト様のような……は、高望みすぎるわね。なんといっても、彼は侯爵のご子息ですもの。
「……ステラ嬢、私で良いのですか?」
「はい、レオンハルト様が良いです。貴方の優しさが好きです。あと、声と体温が心地良いことと、たまに一人称が俺になるところも好きです。甘いものがお好きなところとか、青い色が好みなことも。それに」
「ストップ」
「え?」
「嬉しすぎて、場所も選ばずに抱きしめてしまうところでした。あまり喜ぶことを言わないでください……」
「ご、ごめんなさい?」
それからしばらく、私たちは王宮の庭園のベンチでおしゃべりをしていた。途中、「膝枕させてください」と言われたけど……貴方にされたら、ドキドキして眠れなくなりそう。やっぱり、私はレオンハルト様が好きだな。
でも、アレクサンドラ第3王子もマメな方ね。一度だけしか会ってない私なんかとお話をしてくださるんだもの。
ところで、結局「しょじょ」ってなんだったのかしら?
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