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プロローグ
しおりを挟む私、シャノン・フラウンスは4度、死を経験している。
理由はわからない。
気づいたらいつも、過去に戻っているの。
1度目の死は、激怒した家族にベランダから突き落とされた。
2度目の死は、好きだった男性に裏切られて薬漬けになった。
3度目の死は、濡れ衣を着せられて城下町広場で公開処刑。
4度目の死は……。
まあ、それはおいおい語りましょう。
とりあえず今は、この状況をなんとかしないと。
この、5度目のベランダから転落する状況をね。
***
それにしても、理不尽だわ。
過去に戻るとしても、もう少しマシなタイミングってあったと思う。あと3秒早く戻っていれば、まだ救いはあったというのに。
まさか突き落とされる直前に巻き戻るなんて、人生何があるのかわからないな。
「……んだ、死ね!」
「っ……!」
そうそう、これこれ。激怒したお兄様に、ベランダの外へ追いやられてしまってね。昔の私は嘘をつくのが下手で、聞かれたことをそのまま正直に答えてしまったのよ。
で、絶賛空中散歩中ってわけ。……単に、重力に逆らえず落下してるだけなんだけど。
その時のセリフは、こう。
『お前がフラウンスの家紋に泥を塗ったんだ、死ね!』
あー、聞き飽きたセリフ。
もう少し何か見所のある登場人物は居ないのかしら。まるで、退屈なミュージカルの中にでも居るみたいだわ。
泥を塗った? この私が?
馬鹿おっしゃい。泥を塗ったのであれば、それはお兄様の方でしょう。
なんて反論をする暇もなく……というか、過去の私は言い返すということすら知らない子だったから。今は本当にそういう暇がないだけなんだけど。
5度目の私は、冷静だった。
落下する速度に多少恐怖を感じるものの、地面への衝撃を緩和させる方法を知っているし恐れることはない。落下中の息の吸い方も、我ながら上手くなったもんだわ。こういう時は、下手に吸い込むと肺を痛めるのよ。
「……成功」
ぱあっと光に包まれた瞬間、私の周囲には花が咲き乱れた。フワッとどこか暖かさを感じるそれは、地面と私の間にクッションの役目を果たしてくれる。
生き返って初めて使ったけど、腕は衰えてないみたい。
この魔法は、フラウンスに代々伝わる秘伝のもの。
次はもっぱらお兄様が開花するかと思ったら、私が開花しちゃったのよね。で、冒頭の「泥を塗った」発言に繋がるってわけ。
まあ、先代開花者のお父様に泥をうんぬん言われたら黙ったわ。
だって、この秘伝魔法を受け継ぐ者が現れたら、先代は徐々に弱り果てて命を落とすんですもの。今までのお父様も、1ヶ月も経たずにお亡くなりになっていた。
でも、私は悪くない。
別に、違法なことをしてこの力を手に入れたわけじゃないし、誰かを傷つけるようなこともしていない。なんなら、16歳という年齢で爵位関連のお仕事をこなして、独学で薬草学や護身術、医療術だって習得してるし。
4回も死を経験しているせいか、性格が昔のようにYESマンじゃなくなったってだけ。
「なっ、なっ……!」
「……――」
前回は、ここで「お兄様が開花しなくて残念でしたね」と言った。
そしたら、顔を真っ赤にしたお兄様が走ってここまでやってきて、私の顔を殴っていったのよ。そこに、ちょうどお茶会から帰ってきたお母様やお姉様が加わって大変だったな。そのせいで、逃げるのが遅くなって私物を運び出せなかったし。
今回は、黙っていましょう。まだ部屋に必要なものがあるのよ。
私は、開いた口をそのまま閉じた。
そして、平然とした顔を保ちながら玄関へと向かっていく。
お兄様のご様子?
さあ、知らないわ。「父様の秘術を受け継ぐのはこの僕だ!」と社交界で言い広めていたようだけど、これからその火消しにでも向かうんじゃないの? それか、外出中のお父様が帰ってくるのを待って泣きつくか、お茶会に出かけたお母様やお姉様に泣きつくか。
秘術に甘えてアカデミーにも通わず剣術も習わず、しまいには「僕が次期伯爵候補だ」なんて言って女遊びばかりしていたようだけど。
全っっっっ然、私は知らないわ。
だって、これからこの家を出ていくんですもの。関係ないでしょう。
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