愛されたくて、飲んだ毒

細木あすか(休止中)

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毒を喰んで、血を啜って

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 落ち着いて腰を下ろしたのは、すでに陽が沈んだ後だった。

「……サヴィ様」
「……」

 薄暗くなった医療室に居る私は、目の前のベッドで目を閉じているサヴィ様のお顔を見ていることしかできない。
 その隣で横になっているシエラの視線を感じるけど、今は話しかける気になれないの。

 先ほど帰ってきたアインスに寄ると、もう少ししたら起きるのですって。それまで私は、こうして彼の顔を見ていたい。サヴィ様のボロボロになったお姿を見た時、覚めなかったらどうしようってずっと不安だった。けど、アインスが「目覚めます、大丈夫です」って言ったから少しだけ安心して見ていられる。

 そうね。サヴィ様が目を覚ますまで、何があったのか整理してみましょう。
 その方が、気が紛れるわ。


***


 サヴィ様が心配だった。
 何かをしていないと、彼を思って泣きそうなほどに。

「イリヤ、これ使って。裾は汚れちゃったけど、上の方はさっき着替えたばかりだから」
「え!? お、お嬢「いいから、早く。私もやるわ、どうすれば良い?」」

 馬の手綱を門扉にくくりつけた私は、着ていた服を脱いだ。寒いとか恥ずかしいとか言っていられないでしょう。
 幸い、この服は先ほどガーデニングをするために着替えたばかりなの。ちょっとスカートの裾が土で汚れちゃったけど、それ以外なら汚れはないし使えると良いのだけど……。

 私が差し出すと、驚いた表情のイリヤが一瞬だけ固まった。けど、すぐに「ごめんなさい」と言って受け取ってくれたの。
 良かった、私も役に立ててる。

 そして、足りなかったようでイリヤもメイド服を脱いだ。
 私みたいに肌着じゃない。外に出られるような格好でもないけど、動きやすい格好をしている。薄い布地の奥にある厚い筋肉が視界に入って、イリヤが男性であることを思い出させてくれたけど、今はそれに見惚れている場合じゃない。

「冷や汗、呼吸、震え……。お嬢様は、クラリスさんの足を少し……お嬢様の膝下あたりまで上げてください」
「わかったわ」

 この時すでに、クラリスの意識はなかった。
 浅い呼吸を繰り返し、顔面蒼白で横たわっている。イリヤが言っていたことをすると、少し落ち着くのかしら?
 その希望を抱きつつ、彼女の足首を持つためかがむと……。

「あっ……」
「どうされましたか、お嬢さ……っ」
「……」
「……」

 そうだった、シュミーズだけしか着ていなかったわ。いやでも、今はそんなこと言ってられない! 言ってられ……。
 なんて一杯一杯になっていると、イリヤと目が合ってしまった。一瞬だけ胸元に目が行った気がしたけど、イリヤはそのまま下を向いてクラリスの傷を全体重をかけて圧迫し続けている。
 気まずい。……落ち着いて。これは、私の身体じゃない。ベルの身体、そう、ベルの身体。サルバトーレ様に捧げる身体……。

「……お嬢様、すみません」
「わ、私こそごめんなさい……」
「あの、ジョウロがそこにあるのでお嬢様が正座した状態でジョウロを上に乗せ、クラリスさんの足を乗せるのはどうでしょうか。少し低くなりますが、効果はあります」
「すぐやるわ」

 ……救命活動って結構大変なのね。目の前のことに飛びつかないで、もっと周囲を見渡して行動すべきだわ。
 そう反省しながらジョウロを膝に置き、クラリスの足を上げていると、アランとザンギフ、それにお父様とお母様までが走ってやってくる。

「ベル、その格好!」
「ベル! 大変だったわね。あとはアランたちがやるから、貴女はお屋敷に」
「嫌よ! 私は、クラリスにたくさんいただいているの。こういう時にしか返せないんだから」
「でも、それじゃあ風邪を引いてしまう……。よし、わかった。私の上着を羽織りなさい」
「……ありがとう、ございます」

 私の姿を見たお父様とお母様は、声を張り上げた。
 こんな格好で怒られると思ったけど、そんなことなかったわ。むしろ、私の行動に賛同して手を貸してくれている。
 なんだか、怒られると恐れていた自分が恥ずかしい。

 やっぱり、こういう時に人柄が出るわね。きっと、私のお父様お母様なら……いえ、今それを考えても仕方ない。
 私は、お父様から受け取った……というか、肩にかけてくださった服の重みと温かさを感じつつ、膝上にあるジョウロとクラリスの足を掴む。

「イリヤ、クラリスちゃんはどう?」
「大丈夫。止血できれば……命は大丈夫ですっ!」
「そう。力仕事なら、私が変わるわ。いつも鍋を振ってるんだから、朝飯前よ」
「ありがとうございます、ザンギフ。では、もうすぐバーバリーが戻ってくるので、そちらの手当をお願いします」
「わかったわ! じゃあ、まずお馬さんを休憩させてくるから!」
「頼みますっ」

 私、こういうのってアインスしかできないのかと思ってた。でも、イリヤもちゃんと仕切ってる。そうよね、彼女は騎士団の総団長だったのだから。でも、知らない人を見ているようで、少しだけ彼女が怖い。
 それに、さっき視線を避けられてしまったのも気まずい。後で、不快なものを見せてしまってごめんなさいって謝りましょう。

 そう思いつつクラリスの靴を脱がせて楽にした時、門の外で見張っていたアランが叫び出す。

「バーバリー帰ってきました! サルバトーレ様もいらっしゃいます!」
「……本当? サヴィ様は無事!?」
「いえ……。バーバリーに抱えられてぐったりしております」
「サヴィ様!!」

 聞いちゃったら、我慢できない。
 私は、クラリスの足が乗っているジョウロを地面に置き、一目散に走っていく。サヴィ様が死んじゃったらどうしよう。それしか、頭になかった。

 門を飛び出した私は、アランの指差す方へと視線を向けた。
 すると、彼の言った通り、ぐったりとしたサヴィ様がバーバリーの腕の中に収まっている。バーバリーはすごいわ。サヴィ様とふたまわりくらい大きさが違うのに、そんな彼をしっかり抱き抱えているのだから。ますます、彼女の正体が気になるわ。

 それだけじゃない。
 彼女の口周りは、真っ赤に染まっていた。夜間に見たら、結構ホラーかも。貴女は、何をしてきたの……?
 
 なんて疑問をよそに、私の前まで来たバーバリーは口を開く。

「バーバリー! サヴィ様は!?」
「毒、飲んでる。致死量いく。アインス出番」
「そんな……!」
「だいじょぶ。毒、吸った」

 初めての会話がこれって、なんか嫌。でも、今は仕方ないわね。
 彼女は、多少カタコトになりつつも状況を説明してくれた。イリヤもそうだけど、バーバリーにも「大丈夫」と言われたらそれだけで安心できる何かがある。

 こんなことになるなら、アインスから解毒方法を教えてもらうんだった。
 自分が毒で死んでいる癖に、こんなこともできないなんて……。私は、涙目になりながらサヴィ様の頬を撫でた。すると、

「……ベルよ。また泣いているのか?」
「サヴィ様!?」
「俺様は、大丈夫だぞ……。だから、泣くな」
「……はい! 泣きません。泣きませんから、どうかご無事でいてください」

 と言って微笑んでくれた。けど、すぐに気絶してしまわれたわ。
 見ると、あちこちに刃物傷がある。クラリスの比じゃないところを見ると、どうやら彼女を庇っていたみたい。こんなお優しい方を、誰が攻撃したの?

 私はサヴィ様を抱きかかえるバーバリーについて、屋敷の中へと足を運ぶ。
 その後ろでは、出血の量が少なくなったクラリスをザンギフが持ち上げていた。



 その後、クラリスは無事危ないところを脱した。それに、彼女は毒を飲まされていなかったから怪我の治療だけで済んだわ。
 それよりも、サヴィ様が重症なの。たくさんの刃物傷を拵えて、毒も体内に入れてしまっているから。帰ってきたアインスが疲れ顔だったのを見ていたのだけど、ゆっくり休んでとは言えなかった。
 
 私は、帰ってきたアインスに「サヴィ様を助けて!」と力の限り叫び、状況を伝えるので精一杯だった。





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