愛されたくて、飲んだ毒

細木あすか(休止中)

文字の大きさ
212 / 217
22

疑問は、確信へ

しおりを挟む

いつもお読みくださりありがとうございます。遅くなってすみません。


***


《アリス視点》


 あれからイリヤたちに意見を話した私は、シャラが用意してくれた部屋へと戻った。
 イリヤたちが、もう一度現場に行くのですって。部外者の私は入れないけど、イリヤは入れるとのこと。……他国で信頼を得るって、やっぱり彼女はすごいわ。

 本当は、シャラと一緒にお茶を飲もうってなったんだけど断ったの。
 だって……。

「やあ、ごきげんよう」
「ごきげんよう。待ってたわ」
「おや、嬉しいねえ。相思相愛かな?」
「……ベルに言いつける」
「ちょ!? や、やめてくれ。冗談さ、冗談。ハハハ……」

 と、急に現れたと思えば、ベッドに腰掛けていた私の手の甲にキザったらしくキスを落とすジョン・ドゥさんが。そうそう、貴方を待っていたのよ。でも安心して、好意とかそういう感情は一切ないから。

 私が低い声で嫌悪を表すと、ものすごい勢いでサッと身を引いてきた。
 ……そんなにベルが怖いのね。まあ、あの子結構怖いところあるもの。気持ちはわからなくもない。この話は、後でベルに「笑い話」として聞かせようか。

「それより、どうだったの?」
「ああ、調べてきたさ。結論から言うと、君が思っているようにドミニク・シャルルという人物はこちらに来ていない」
「……そ、う」
「なんだ、もっと喜んだらどうだ?」
「ごめんなさい、なんか気が抜けちゃって」

 ジョン・ドゥさんの言葉に、思考が止まる。
 ドミニクが死んでいないことを、ずっと願っていたわ。でも、もし死んでいなかった場合、私には言えない何かをしようとしているってこと。それ以外に、目的が考えられないでしょう。
 あのドミニクが……私の正体を知って涙をこぼした彼が、私を裏切るはずはない。けど、私のために何かをしようとしている可能性はゼロじゃない。そうじゃなきゃ良いのだけど……。

 うーん。私のために危ないことをするって、何ができる? あの人なら、平気で人を殺すわね。でも、私を殺したお父様はもう亡くなってるし、使用人も居ない。ジョセフお兄様とお母様くらい? ジョセフお兄様は、まだ牢屋の中だと思うけど、お母様って逃亡中? その辺りの情報は、イリヤに確認したほうが良いかも。

「ちなみに、彼の代わりにこちらへ来た人物は居たよ。私も現場に行ってきたが、あの遺体と一致したね」
「じゃあ、ドミニクは遺体の偽装をしたの?」
「いや、されてなかった。そっちじゃなくて、検死官を偽装した感じだろうね。ドミニク・シャルルは、どんな人間なんだい? 隣国でそういうことができるって、かなりの権力者だと思うんだが」
「……シャルル伯爵家は、代々記者の家系なの。きっと、ドミニクのお父様がいろんな繋がりを持っているのね」
「ちなみに、そのシャルル伯爵はかなり前にこちら側に来てるけどね」
「え、亡くなってるってこと?」
「ああ、私が通したからあれは自殺だな」
「……そう」

 まさか、自殺されてたなんて知りもしなかった。以前、ドミニクにお父様のことを聞いた時、表情が曇ったのはそういうことだったの?
 いつ亡くなったのかしら、まさか私と同じ時期に? だから、ドミニクは私に涙を流したとか……いえ、それは自意識過剰ってもんだわ。別で考えましょう。

 とりあえず私がこれからやることは、彼に協力してもらって……。

「……ァリス、今大丈夫?」
「あ、はーい。シャラ、今開けるわ。……ちょっとごめんなさい。もう少し話を聞きたいから、また後、で……? ジョン・ドゥさん?」

 扉に視線を向けた瞬間、ジョン・ドゥさんの姿は見えなくなっていた。部屋を一周したけど、ベッドの下にも居ない。どこへ行ったのやら……。

「アリスー、大丈夫?」
「あ、うん!」

 ちょっと心配だけど、そもそもあの人って神出鬼没だものね。落ち着いて会話ができるような人だなんて、思ってない。そういうところ、ドミニクにそっくり。……本当、ドミニクに。

 もう一度だけ部屋全体に視線を巡らせた私は、急ぎ足で扉へと向かう。
 扉を開けると、すぐに心配そうな表情をしたシャラと目が合った。

「やっぱり、いろんなことがあったから疲れたわよね……。ごめんね」
「シャラが謝ることじゃないわ。悪いのは、犯人だもの。疲れてないって言ったら嘘だけど……」
「でも、その顔は、何かやりたいことがある顔ね。さっき迷っていた時と全然違う」
「……シャラには敵わないなあ」
「ふふ、私はアリスのファンだもの。ちょっと見れば、わかるわ。で? 何を思いついたの?」

 部屋に入るなり、シャラは私の顔をマジマジと見つめてきてそう言った。
 私がわかりやすすぎるのか、彼女が鋭すぎるのか。考えても、よくわからない。もし、シャラが鋭すぎるのであれば、ジョン・ドゥさんのことを知られないようにしないとね。多分、私にしか見えないと思うし、どういう関係性かなんて聞かれても答えられる自信ないし。
 だから、視線がどんどんシャラの顔から逸れていく。

「思いついたというか、知りたいことが見つかってね」
「それは、うちの国でできること?」
「できることとできないこと、半々って感じ。あの、もし良かったら……」
「良いよ、手伝うわ」
「えっ。もう少しちゃんと考えた方が良いと思うけど。まだ、私具体的なこと言ってないし」
「良いの。私は、もうあんな後悔をしたくないから。今やれることをやりたいと思う人にやることが……ん、ん、ちょっと言葉が難しいわね。とにかく、私はアリスの役に立ちたいのよ! だって……」

 シャラは、どうしてそんなに私を慕ってくれているの?
 今の農作物の管理に大きな影響を与えたから、ってだけじゃない気がする。うまく言えないけど、それだけでこんな高待遇が受けられるのはおかしいもの。
 私が死んだ後の彼女の事情も聞いた。でも、それだけじゃ何かが足りない。

 その何かは、次のシャラの言葉に詰まっていたわ。

「だって、アリスがずっとその身体に居るわけじゃないのでしょう? また突然、ありがとうも言えずに消えちゃうことだってあるんでしょう?」

 と、なぜか泣きそうな声で言葉を紡いでくる。
 本当に泣いていると思って顔を上げたけど、泣いているわけじゃなかった。でも、今にでも泣きそうな顔をしてる。

 それは、大切な人を亡くした人にしかできないもの。
 大切な人を亡くしたことなんてないのに、なぜかそう思ってしまった。この感覚は何かしら。私も最近、こんな感情になった気がする。確か、あの時は……。

「……ベル」
「アリス?」
「あっ、ごめん。あの、別にすぐに消えるとかはないと思うわ。最後は元の身体の持ち主に返すけど、まだ消えたりなんかしない。自分が死んだ背景を知りたいのよ。だから、それまでは絶対に消えないって約束する」
「わかった、あまり深くは聞かないわ。でも、あなたがこれからも生きていける選択肢を提示されたら、絶対に縋り付いて。私は、あなたが消えるなんて考えたくない……」
「……ごめんね、シャラ」

 そうよ、この感情は、ベルに「私はもう、死んでいるのよ」と言われた時のものだわ。
 意味を理解する前に、同じ胸の痛みを感じたの。私は、ベルを「大切な人」と思ってたってことで良い? その気づきが、嬉しいやら悲しいやら。なんだか複雑ね。

 目の前に居るシャラも、同じ立場になったら悲しいと思う。パトリシア様もそうだな。サヴィ様も、フォンテーヌのお屋敷の人たちも、アレンたちも。
 私は、たくさんの大切なものができた。アリス時代の時よりも、ずっとたくさんの……。でも、これもベルの犠牲の上に成り立っている関係だものね。そう考えると、早く身体を渡さないとと思う自分と、もう少しここに居たいと思う自分が居る。本当、複雑。

「そうだ、シャラ。何か用事があったの?」
「あ、忘れてた。あのね、イリヤが出掛けに「お嬢様を元気付けるためにクッキー焼きたい」って言ってくれてね。戻ってくる前に買い出しに行こうと思うんだけど、アリスの好みをよく知らなくって。一緒に選んでくれる」
「……え?」

 ……なんて、感傷に浸りながら扉近くで会話を続けていると、何やら不穏な単語が聞こえてきたような。
 イリヤが? クッキーを? 焼きたい……?

「体調的に食べられない?」
「あ、いえ。体調はもう大丈夫。でも、その……えっと」

 こういう時、なんて言えば良いのかな。
 ストレートに「イリヤは料理の腕前が前衛的なの」と言う? でも、私のために作ってくれるって言うんだから否定するのも……。
 私はしばらくの間、シャラを立たせたまま途方に暮れた。
 
 もちろん、クッキーは完成して、なおかつ……いえ、その後は想像にお任せするわ。
 でも、ずっと頭の中に残っている。ドミニクのこと、彼のお父様のこと……。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

処理中です...