異世界転生した医学博士、悪辣貴族令息だったので引き籠って研究していたら第一皇子に溺愛され帝国医療改革することになりました

はんね

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異世界に転生したら悪辣貴族令息でした

地道な作業と根気強さ

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それから一ヶ月、俺は治癒魔法の研究に没頭した。

手元にある魔法関連の書籍の山から見つけた、たった一つの『創傷治癒』の呪文。

 この世界の魔法は古代エルフ語での詠唱が基本とされている。
(エルフが存在するなんて!! 指輪物語の大ファンである俺は思わず震えたが、どうやらもうすでに存在しないそうだ。……がっかりだ。)

ちなみにこれがその『創傷治癒』の呪文だ。

『フェルノ アグ ヴァステリ ジェクト
パルネド アプル ティリア ブロブ
アウクタ ヴォキュトス エクテト マジュム
モルム ミグチム モゲリア マルナ』

見たこともない言語だったが、貴族の教養なのかジゼルも多少は勉強していたらしく、基本的な読み方と発音くらいは理解できた。

英語で言えば、アルファベットは読めるが単語の意味はわからない、という状態だ。

だが、他のエルフ語で書かれた初級呪文を見ていくうちに、だいたいの法則が見えてきた。

動詞、対象、範囲、修飾語。

おそらく呪文はこの順番で構成されている。

例えば『庭師のための園芸の魔法大全』にあった季節の花を咲かせる呪文なら、

『ヴェルナ セメン テラ アウクタ』

意味はおそらく

成長・種・土壌・ただちに

という構造だ。

「ヴェルナ(成長)」という単語は他の魔法にも使われていたので、そこから推測できた。

複雑な魔法になればなるほど詠唱は長くなる。
創傷治癒の呪文は単語数が多く、今のところ一つも意味が分からない。

古代エルフ語の辞典でもないかと書斎を隅から隅まで探したが見つからない。

 通りがかりの執事に聞いてみると、辞典自体は存在するが、王立魔法図書館――皇室管理の禁書庫にしか置かれていないらしい。

 特に医学用語の古代エルフ語辞書などは、存在するかどうかすら怪しいとのことだった。

 金に物を言わせれば何でも手に入る現代とは違い、この世界はずいぶんと情報統制が厳しい。

いくらセレブな実家でも、限界はあるらしい。

仕方ない。

こうなったら人海戦術だ。

単語ごとに区切り、意味が分かる呪文から音や構造が似ている単語を探し出し、推測していく。

 試しに冒頭の『フェルノ』という単語を探してみると、古びた料理本の片隅に載っていたパン生地発酵の呪文に

『フェルナー(活性化)』

という単語が見つかった。

似ている。

 料理は化学だとはよく言ったものだが、おそらくこれは酵母菌の活動を活性化させ、発酵速度を上げる魔法なのだろう。

つまりはこう、

『フェルノ(活性化) アグ ヴァステリ ジェクト
パルネド アプル ティリア ブロブ
アウクタ ヴォキュトス エクテト マジュム
モルム ミグチム モゲリア マルナ』

出来る。

残り15単語。

ここからは仮説になるが――

フェルノ(活性化)以降に続く単語は、
おそらく組織再生の工程を示している。

フェルノ(活性化)
→ 人体の治癒反応の促進
→ 組織再生の開始

この順で並んでいるはずだ。

つまりこの呪文は、
人間が本来持っている自然治癒能力を極端に加速させ、
身体の修復工程を順番通りに強制実行していると推測される。

残りの単語もおそらく

止血
血管再生
組織修復

このどれかに関係しているはずだ。

 構成要素を分解し、構造を理解する。そんな地道な作業は、俺の得意分野だ。

対象が病気から魔法に変わっただけ。

言葉の意味をすべて解き明かせば――この魔法は解析できる。
解析できれば、逆算して応用もできる。

「面白くなってきた……!!」

金脈を掘り当てた気分だ。

方法が決まれば、あとは単純作業。

必要なのは根気と時間。

幸い――

俺にはその両方がたっぷりある。
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