41 / 41
顔も知らない男に溺愛執着されて逃げられません
厄介な男【第二部完結】
「ジゼル!? 誰だその男は!!?」
聞き慣れた声が、階段の上から響いた。
「ルシアンお兄様!?」
「おい! そこの男!! 今すぐジゼルを離せ!!」
「あらら、君の過保護なお兄様の登場だ」
エイデンが呆れたように眉を上げる。次の瞬間、ルシアンお兄様の背後で魔法士が短く詠唱し、炎の塊がこちらに向かって一直線に飛んできた。エイデンが体をわずかに傾け、それを紙一重でかわす。
「やめろ!! 弟に当たるだろう!!」
「ひっ、すみません!」
ルシアンが噛み付くように怒鳴り、魔法士が怯えたように後ずさる。俺はエイデンに抱えられたまま、肩越しに必死に叫んだ。
「おっ、お兄様! これには理由がありまして!! 詳細は帰ったらきちんと説明します!!」
「何を言ってるんだ!? 早くその男から離れろ! ジゼル!!」
額に青筋を浮かべ、今にも飛びかかりそうな勢いでこちらを睨みつけるルシアンお兄様。あんなに怒った顔を見るのは初めてだ。無理もない。引きこもりの弟が職場に不法侵入して、大騒ぎになっているのだから。どう弁解すべきか思考をめぐらせる俺に、ヘレナが小声で聞いてきた。
「……ジゼル、彼はあなたのお兄様なの?」
「そうだけど、今はなにを言ってもダメそうだ。逃げよう、エイデン」
「それがいいね」
エイデンが踵を返すとその先にあった出口からなだれ込むように兵士たちが現れた。重い足音とともに広間を埋め、あっという間に周囲を取り囲まれてしまう。
「捕まえろ! 弟には傷一つ付けるな!」
ルシアンお兄様の鋭い命令が飛び、兵士たちが一斉に武器を構えた。そのまま、じりじりと距離を詰めてくる。
「ははっ、袋の鼠だね」
「笑ってる場合じゃないわ。ジゼルはともかく、私達は捕まったら牢獄行きよ」
「それは困るなぁ、退屈しそうだ。ジゼル、本の差し入れを頼めるかい?」
「冗談言ってる場合じゃないだろ……」
この状況で軽口を叩くエイデンに、思わず顔が引きつる。正面の兵士が、俺たちを捕まえようと腕を伸ばしてくる。まずい、このままじゃ……!
思わず目を閉じた、その瞬間。
「全員、武器を下せ」
低く、静かな声が広間に落ち、空気が一変した。兵士たちの動きがぴたりと止まり、次の瞬間、示し合わせたように一斉に武器が下ろされる。
広間を満たしていた緊張が、すっと引いていくのを感じ、思わず顔を上げると、目の前にひとりの男が立っていた。
ヘレナと同じ、光を受けて淡く輝く銀色の髪。澄んだ緑の瞳。美しく整った顔立ちは、夢の中で見たものと寸分違わない。
「カイル・ペンドラゴン……!?」
俺が名を呼ぶと、男はゆっくりとこちらへ歩み寄り、とろけるような甘い笑みを浮かべた。
「ジゼル……!」
「……っ」
その視線が、あまりにも真っ直ぐに俺を射抜き、思わずたじろぐ。
「ようやく会えた。俺の守護天使」
「しゅご、なに……!?」
場違いな言葉に、耳を疑う。カイルはそんな俺の反応など気にも留めず、うっとりとした目でこちらを見つめたまま、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「ようやく会えたね、ジゼル」
低く、甘く囁く声。逃げ場を塞ぐように手を伸ばされ、背筋がぞくりと粟立つ。
「ルシアンから君の年齢を聞いて驚いたよ。まだ十五歳なんだな。困ったよ」
「な、なにが……」
わずかに眉を下げ、心底残念そうに息をつくカイルに、意味がまったくわからず聞き返す。するとカイルは小さく笑い、やわらかな声で続けた。
「俺たちの結婚式さ。明日にでもあげたいと思っていたんだが……」
「は、はぁ!?」
結婚? 俺たち?
――この男は何を言ってるんだ……!?
混乱する俺を見つめ、カイルはゆっくりと微笑む。その瞳は逃がすつもりなど最初からないと言わんばかりに、まっすぐに俺を捕らえていた。
「愛しているよ、運命の人。どうか俺の愛を受け入れてくれ」
言葉は甘く、けれど有無を言わせぬ響きを帯びている。
いや、この男、絶対にやばい……!!
初対面の男からの熱烈な愛の告白にドン引きする俺だったが、今思えばこんなのはカイルの異常性のほんの一端でしかなかった。
俺はまだ知らなかったのだ。
この男がどれほど執念深く、狡猾で、常識が通じず――そしてどれほど俺の人生をかき乱してくる存在なのかを。
だってありえないだろう。初対面でいきなり「愛してる」だの「結婚式」だの。初っ端から飛ばし過ぎだ。
それでもこれが、俺とカイル・ペンドラゴン……もとい、この国の第一皇子カイラス・アルヴェインとの初めての出会いだった。
そして俺とカイルが結婚するまでの長きにわたる騒動と、帝国の医療を塗り替える改革の始まりの日でもある。
そう、これは――
ひとりの医学研究者が異世界で治癒魔法を研究していたら、最悪で最高な男に執着され、人生ごと捕まっていく物語である。
聞き慣れた声が、階段の上から響いた。
「ルシアンお兄様!?」
「おい! そこの男!! 今すぐジゼルを離せ!!」
「あらら、君の過保護なお兄様の登場だ」
エイデンが呆れたように眉を上げる。次の瞬間、ルシアンお兄様の背後で魔法士が短く詠唱し、炎の塊がこちらに向かって一直線に飛んできた。エイデンが体をわずかに傾け、それを紙一重でかわす。
「やめろ!! 弟に当たるだろう!!」
「ひっ、すみません!」
ルシアンが噛み付くように怒鳴り、魔法士が怯えたように後ずさる。俺はエイデンに抱えられたまま、肩越しに必死に叫んだ。
「おっ、お兄様! これには理由がありまして!! 詳細は帰ったらきちんと説明します!!」
「何を言ってるんだ!? 早くその男から離れろ! ジゼル!!」
額に青筋を浮かべ、今にも飛びかかりそうな勢いでこちらを睨みつけるルシアンお兄様。あんなに怒った顔を見るのは初めてだ。無理もない。引きこもりの弟が職場に不法侵入して、大騒ぎになっているのだから。どう弁解すべきか思考をめぐらせる俺に、ヘレナが小声で聞いてきた。
「……ジゼル、彼はあなたのお兄様なの?」
「そうだけど、今はなにを言ってもダメそうだ。逃げよう、エイデン」
「それがいいね」
エイデンが踵を返すとその先にあった出口からなだれ込むように兵士たちが現れた。重い足音とともに広間を埋め、あっという間に周囲を取り囲まれてしまう。
「捕まえろ! 弟には傷一つ付けるな!」
ルシアンお兄様の鋭い命令が飛び、兵士たちが一斉に武器を構えた。そのまま、じりじりと距離を詰めてくる。
「ははっ、袋の鼠だね」
「笑ってる場合じゃないわ。ジゼルはともかく、私達は捕まったら牢獄行きよ」
「それは困るなぁ、退屈しそうだ。ジゼル、本の差し入れを頼めるかい?」
「冗談言ってる場合じゃないだろ……」
この状況で軽口を叩くエイデンに、思わず顔が引きつる。正面の兵士が、俺たちを捕まえようと腕を伸ばしてくる。まずい、このままじゃ……!
思わず目を閉じた、その瞬間。
「全員、武器を下せ」
低く、静かな声が広間に落ち、空気が一変した。兵士たちの動きがぴたりと止まり、次の瞬間、示し合わせたように一斉に武器が下ろされる。
広間を満たしていた緊張が、すっと引いていくのを感じ、思わず顔を上げると、目の前にひとりの男が立っていた。
ヘレナと同じ、光を受けて淡く輝く銀色の髪。澄んだ緑の瞳。美しく整った顔立ちは、夢の中で見たものと寸分違わない。
「カイル・ペンドラゴン……!?」
俺が名を呼ぶと、男はゆっくりとこちらへ歩み寄り、とろけるような甘い笑みを浮かべた。
「ジゼル……!」
「……っ」
その視線が、あまりにも真っ直ぐに俺を射抜き、思わずたじろぐ。
「ようやく会えた。俺の守護天使」
「しゅご、なに……!?」
場違いな言葉に、耳を疑う。カイルはそんな俺の反応など気にも留めず、うっとりとした目でこちらを見つめたまま、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「ようやく会えたね、ジゼル」
低く、甘く囁く声。逃げ場を塞ぐように手を伸ばされ、背筋がぞくりと粟立つ。
「ルシアンから君の年齢を聞いて驚いたよ。まだ十五歳なんだな。困ったよ」
「な、なにが……」
わずかに眉を下げ、心底残念そうに息をつくカイルに、意味がまったくわからず聞き返す。するとカイルは小さく笑い、やわらかな声で続けた。
「俺たちの結婚式さ。明日にでもあげたいと思っていたんだが……」
「は、はぁ!?」
結婚? 俺たち?
――この男は何を言ってるんだ……!?
混乱する俺を見つめ、カイルはゆっくりと微笑む。その瞳は逃がすつもりなど最初からないと言わんばかりに、まっすぐに俺を捕らえていた。
「愛しているよ、運命の人。どうか俺の愛を受け入れてくれ」
言葉は甘く、けれど有無を言わせぬ響きを帯びている。
いや、この男、絶対にやばい……!!
初対面の男からの熱烈な愛の告白にドン引きする俺だったが、今思えばこんなのはカイルの異常性のほんの一端でしかなかった。
俺はまだ知らなかったのだ。
この男がどれほど執念深く、狡猾で、常識が通じず――そしてどれほど俺の人生をかき乱してくる存在なのかを。
だってありえないだろう。初対面でいきなり「愛してる」だの「結婚式」だの。初っ端から飛ばし過ぎだ。
それでもこれが、俺とカイル・ペンドラゴン……もとい、この国の第一皇子カイラス・アルヴェインとの初めての出会いだった。
そして俺とカイルが結婚するまでの長きにわたる騒動と、帝国の医療を塗り替える改革の始まりの日でもある。
そう、これは――
ひとりの医学研究者が異世界で治癒魔法を研究していたら、最悪で最高な男に執着され、人生ごと捕まっていく物語である。
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(17件)
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
楽しくて一気読みでした!
続きを楽しみにしています!(*^^*)
きゃ〜!出会ってしまった!!待ってました!これからどんなドタバタ?があるのか、どのように絆されていくのか?
そしてこの国の医療の発展は?
楽しみすぎる〜〜ワクワクしながら続きをまっています!!
ありがとうございます!引き続き、ジゼルたちの物語を楽しんでいただければ嬉しいです😊🫶
お読みいただきありがとうございます!
3部開始前に番外編を2話更新いたしますので、お楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いいたします😊🫶