異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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八.メノドク GOGO!

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「ひとつ聞きたい。私が帰郷した日に晴れさせたのはおまえの力か」
「ああ、お前の父の願いだ。果たすまで十数年かかったがな」
「……父は強かったか」
「なにせ山の神だからな。あんなにエグい攻撃ははじめてだった」
「そうか」
「こい」
「おう」
 踏みこんで左右の蹴りを連続して繰りだした。竜神は苦も無く腕や足で受けとめる。さらに柔道技や空手も駆使して攻めるが竜神はことごとく受け止めた――かと思いきや、すっと姿勢を低くしてこちらの懐に飛び込み、我が脇腹に肘を叩きこんだ。
「ぐっ」
 呻き声が鍾乳洞に響き、私はたまらず膝を折った。胃のなかが逆流しそうだが、耐えた。
「まだまだ」
 すぐに立って攻めかかる。竜神にすべて受け止められたが、それは逆に手ごたえを感じさえた。高校までの対戦を思い起こせば、攻撃はすべて躱されていたのた。それがどうだ。いまは躱すのではなく、ガードして受けとめている。
 ――やはり。
 予想したとおりだ。竜神は私の表情を含めた予備動作で動きを読んでいたのだ。そう考えたからこそ、私は学生プロレスでマスクマンの道を選んだ。マスクを被り呼吸しづらい状態でも動けるように鍛えぬいた。これで表情を読まれることはない。汗臭さに耐えて被りつづけた甲斐があった。
 足音もなく竜神が迫り、拳と蹴りが乱舞する。
「どうした。守るだけでは勝てぬぞ」
「ぬかせ」
 たしかに私は防御を優先しているが、それだけで終わるつもりはない。ここには勝ちにきたのだ。隙をみて反撃をくりだすと、いくつかヒットした。当たり所によっては竜神が顔をしかめた。
 いける。攻撃をくりだすたびに脇腹が疼くが、ここが踏ん張りどころだ。私は渾身の力をふりしぼって最大奥義をくりだした。
 ――パン。
 猫だまし炸裂だ。眼前で手を叩かれた竜神が一瞬だけ目を閉じた。
 私は大きく横へ跳んだ。身につけた数多の技の粋を集め、過去の戦いで知り得た竜神の動きを研究し編みだした必殺技だ。
 素早く跳んで竜神の視界から消え、空中で壁を蹴って向きを変える。いわゆる三角飛びだ。無防備な頭を空中でつかんで膝を打ちつけてやる。さらに体重をかけて押し倒し、関節を決める、それで私の勝ちだ。
 次の瞬間、衝撃が走り目の前が真っ白になった。なにが起こったかわからない。頭が割れそうだ。やられたのか、どうやらこのまま倒れてしまうらしいと朧に思った。
――冗談じゃない。
多雨野のために私は負けられない。DBマスクとして戦い、修練を積んだ日々が走馬灯のように回る――回る? そうだ回れ、回れ。
 意識を強くもって踏みとどまる。歯を食いしばり無理やり体を捩じる。右手に力を、渾身の力を注ぐ。なんでもいいから叫べ、力をふりしぼれ。
「走馬灯って、なんだあー」
 雄たけびが、闘争本能が体を突き動かす。私は右拳でフックの軌道を描く。力の限り、拳を振りぬいた――。
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