異形の郷に降る雨は

志ノ原新

文字の大きさ
71 / 84
八.メノドク GOGO!

9

しおりを挟む
 私は今日のために薄手の布で新調したザッシーキもどきの衣装を身につけている。その名もザッシーキ・ランニングフォーム。走りやすさを重視して全身タイツにしており、半纏やらは手書きだ。ぴっちりしたフォルムだが頭部だけは被り物になっているので、頭でっかちでバランスが悪い。だが、みなが思うよりも走りやすいのだ。そして手にはホヤボール。
 英太と権現さんの姿もあった。東京と名乗る千葉に生息する人型のネズミカップルのコスプレだ。しかし、どこか照れがある立ち居ぶるまいはいただけない。胸をはれ、ふたりとも。
 そこへ背後から南部ザッシーキが忍び寄り、英太に膝カックンをくらわした。へなへなと体勢を崩す英太の姿に権現さんが笑う。ザッシーキも権現さんと肩を組んで大笑いのポーズをとった。三人はひと晩で打ち解けたようだ。あんなに気立ての良い女性なのだから、南部さんのお眼鏡にかなうのも当然か。
「おう、瑞海。今日は負けんぞ」
 背後から無粋な声をかけ、気安く肩を叩く男に、「誰?」と素っ気なく返した。
「また、おめぇは」男はがくりと肩を落とし、「皆本高校の亘理光太郎様だ」
「ふぅん。合宿の練習試合で安倍高との対決で引き分け、そのあと私との飲み比べでも勝てず、結局は哀れに横たわる私を置き去りにした、人情の欠片もない男のことなど毛の先ほども覚えておらん」
「めちゃくちゃ覚えているじゃないか。しかもめちゃくちゃ根に持っているじゃないか」
「で、どちら様でしたっけ? さらに公式戦ではきっちり勝たせてもらったけど、誰だか思いだせないなあ」
「やっぱり腹が立つ、おめぇは」
「ところで、おまえはなんのコスプレなのだ」
「木だ」
 そうではないかとは思ったが、案の定であった。
 コータローは本気だった。茶色の幹を模した筒に全身を収め、一部だけくり抜いて顔を出している。さらに本物の木の枝を両手に持っていた。あたかも学芸会の劇に出てくるレベルの着ぐるみだ。いや、いくら学芸会といってもこんなのが実在するものなのであろうか? 実際に学芸会でこんな格好させれば、モンスターペアレンツが怒鳴り込んでくる。「うちの子が〝木〟ってなんだよ、〝木〟って」とか言って。しかし高校教師がここまで頭の悪い格好をしてよいのであろうか。PTAから怒られたりはしないのか。
 そしてその横にはバカヤス店長がいた。
「どうだ瑞海、俺の仮装は。コータローとある意味ペアだぞ」
 でかい向日葵だ。花の真ん中がバカヤスの顔になっている。残りの全身は茎と根のようで、真緑だ。さらに手にはダンボールで作った葉を持っている。
 なに故に〝木〟と〝花〟がペアなのだ――頭が痛い。いや、頭痛が痛いレベルだ。むしろ頭痛で腹が痛いほどだ。涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックベリーの霊能学

猫宮乾
キャラ文芸
 新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか
キャラ文芸
中央ヨーロッパのとある小国にある、世界一美しい図書館には風変わりなサービスがある。その名は”宅配司書”。一人の女性司書が、世界各国どこへでもかけつける。地球上のどこかで待つ、たった一人のための本のプレゼン――ブックトークを届けるために。 「英語圏の本ならなんでも」 「舞台化に適した原作本」 「寂しいとき、寄り添ってくれる一冊」 彼女はどんな依頼にも、選りすぐりの数冊を選び、物語のように一冊一冊を結び繋いで、あなたに紹介してくれる。 アウトサイダーと言われる人々が示す生き方。天才が持つ傷。孤独がくれるギフト。 社会の王道からあぶれてしまった人々へ紡ぐ、本の紹介。 書物たちの世界は奥深く、時に人生のひみつにたどり着いてしまうかもしれない――。 人生が息苦しく感じたことのあるあなたへ贈る、ビブリオ・トラベル・ロマン。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

処理中です...