異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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八.メノドク GOGO!

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 翌朝はすこぶる快晴であった。
 降水確率なんぞ知ったことではない。竜神の力をみよ、そして竜神を倒した葦原瑞海の偉業を褒め称えよ――と叫びたいのを堪えて普段どおりを装う。なんたる謙虚さ、なんたる好青年。
 とにかく今日が一世一代の勝負だ。出がけにオクイナサマに手を合わせイベントの成功を祈った。
 スタート地点である小学校のグランドに十号で颯爽と乗りつけ、ボランティアで集まってくれた人たちと準備に専念する。みないつもよりも楽しそうだ。
 準備が進むうちに次々と参加者が集まり、グランドは賑やかになっていく。
 申し込みは三百人ほどだったが、スタート四十分前ですでに二百八十人以上集まっていた。参加者は各自アップをはじめている。時間を追うごとに活気が増し、会場から溢れだすようだった。
 それにしても仮装した集団は壮観だ。パンダだとか有名なキャラクターの被りものという者もいるが、アニメなどのコスプレイヤーと思しき参加者は軒並みレベルが高く、人目を引く。色とりどりのコスチュームが花畑のように咲き誇っており、女性キャラは一様に露出度高めである。
 最近のコスプレイヤーに対する世間の注目度は高い。ニュースサイトでも写真付きでとりあげられているし、海外でもコスプレは盛んだ。この第一回をきっかけとしてアニメコスプレイヤーが多数参加しするイベントに成長してくれれば、この『メノドクマラソン』もおおいにメディアを賑わせる存在になるだろう。なかにはエノキ茸の株に仮装した者や金槌に化けた者もいる。このへんのセンスは理解不能だ。
 私と久慈さんもランナーとともに走ることになっているが、久慈さんの仮装とは一升瓶であった。透明なビニールで作った一升瓶を頭からすっぽり被る。自身は全身水色のタイツ姿で液体、すなわち瓶の中に入った酒になっているつもりらしい。言ってはなんだが、変態のホルマリン漬けにしか見えない。
 ちなみに、メノドクマラソンというネーミングはメドックマラソンと上手く引っかけてある。しかも、コスプレイヤーたちの衣装は奇抜かつ色鮮やかで、存外露出度が高く際どい。そんなコスプレイヤーが集団で走る姿は、「こりゃあ考えようによっては『目の毒』だよね」ということになる。まさにダブル・ミーニング――むろん、命名は若葉である。さすが我が妹と言う他ない。
  町長は忙しく動き回りながらも運営を手伝ってくれる住民たちに細かく指示を与えていた。期待と緊張感とが綯い交ぜになった空気が、人の心から落ち着きを奪い、胸の高揚をいっそうあおる。
「我那覇さん、お久しぶりです」
「おお、葦原くん」
「ザッシーキの着ぐるみの件ではほんとうにお世話になりました」
 黒縁眼鏡で痩せたおじさん、我那覇さんとかたくハグをかわす。間違い電話から仲良くなった沖縄の役場で働く我那覇さんだ。実はコスプレ会では有名な人物であり、ザッシーキを作った業者さんも我那覇さんの紹介だった。
「今日は……なんのコスプレですか」
「廃案になった国立競技場だよ」
 だと思った。イラストどまりだったあのデザインが実体化し、おまけに手足まで生えている。どう考えても走りづらいだろうが、我那覇さんの美学は揺るがない。口癖は「くぬひゃー」だ。
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