異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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八.メノドク GOGO!

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 とにもかくにも私とコータローは八面六臂の大活躍である。ゴールまで五キロをきったところで先頭集団と思しき十数人の姿を捉えた。
 彼らは睨み合いながら互いを牽制しているのだがそれでも速く、むろん余力もある。こちらはオーバーペース気味でなんとか追いつきはしたが、最早いっぱいいっぱいだ。なにしろもともとの馬力が違う。先頭集団は河童や狼や熊などの着ぐるみを着た――ふりをしている経立たちだった。もしやつらに全力で走られたなら、とてもじゃないが敵わない。
「おう、瑞海か」
「我らと張り合おうとはいい度胸だ」
「まったくまったく」
 経立どもが気安く声をかけてきた。
「元気そうでなによりだ」
 笑いかけると、経立たちもからから笑う。まったくご陽気な連中だ。おそらく、スタート四十分前にまだ集まっていなかった参加者とはこいつらだ。関係者の誰もがスタートに向けて集中する頃合いを見計らってこっそり紛れ込み、見破られることなく着ぐるみのふりで押し通したのだろう。
 ぶっちゃけ異形ばっかりである。そのなかに紛れる天狗の、ただのおっさんにしか見えない姿がすごく目立つほど異形三昧だ。ちなみに異形界ファッションリーダーの出で立ちは、ニューヨーク・ヤンキースのキャップ(絶対ファンではないであろう)に、顔からはみ出すほど大きく白いフレームのサングラス、Jリーグチームのユニフォームシャツに蛍光色のスニーカーだ。今日もイカす、だから声をかけず近寄りもしないことに決めた。
「瑞海。悪いがおめぇにかまっちゃあいらんねえ。誰にも負けちゃあいられねえからな」
 前を走る河童のジロウが振り向き、鋭い目で他の経立たちを一瞥した。
「そういうことか」
 私としたことが迂闊だった。ジロウが宮内さんランキングのポイントを稼ぐつもりでマラソンに参加していると知った時点で、他の経立もこぞって参加すると予想すべきだった。異形たちにとってこのマラソンはサバイバルレースなのだ。いまは互いに様子を窺っているが、そのうち一斉にスパートするだろう。まずい。
 いまこの世の中で唯一動かしがたい事実、それは――まともに走ってもこいつらには勝てない――ということだ。
 屹と顔をあげる、冗談ではない。このまま白旗をあげることなど我が心の野性が許さない。プロレスの悪役は負けるにしてもピンフォール負けやギブアップを徹底して嫌う。言い訳できないまっとうな負け方をするぐらいなら反則負けを選ぶのだ。パイプイスや隠し持った凶器を使って相手を打ち据え、そのまま反則負けを宣言されることこそ悪役の美学だ。
 ちょうどいい感じでコータローが酔っ払っている。最後尾から駆けあがったオーバーペースが効いてきたのだろう。高校教師の濁りきった双眸はどこを見ているのかよくわからない。
「おい」
 生足の〝木〟に体を寄せ、「周りのヤツラを見ろ」と小声で囁いた。ジロウたちと渡り合うには少しでも手駒が欲しい。コータローを味方に引き込めるかどうかがカギだ。おだてたり宥めすかしたり、全能をつくして言葉巧みに説得せねばならない。
「周り?」
「そうだ。実はな、こいつらは悪の組織の怪人だ。ぶっちゃけ、なんやかんやで、このままでは世界が危ないのだ」
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