76 / 84
八.メノドク GOGO!
14
しおりを挟む
とにもかくにも私とコータローは八面六臂の大活躍である。ゴールまで五キロをきったところで先頭集団と思しき十数人の姿を捉えた。
彼らは睨み合いながら互いを牽制しているのだがそれでも速く、むろん余力もある。こちらはオーバーペース気味でなんとか追いつきはしたが、最早いっぱいいっぱいだ。なにしろもともとの馬力が違う。先頭集団は河童や狼や熊などの着ぐるみを着た――ふりをしている経立たちだった。もしやつらに全力で走られたなら、とてもじゃないが敵わない。
「おう、瑞海か」
「我らと張り合おうとはいい度胸だ」
「まったくまったく」
経立どもが気安く声をかけてきた。
「元気そうでなによりだ」
笑いかけると、経立たちもからから笑う。まったくご陽気な連中だ。おそらく、スタート四十分前にまだ集まっていなかった参加者とはこいつらだ。関係者の誰もがスタートに向けて集中する頃合いを見計らってこっそり紛れ込み、見破られることなく着ぐるみのふりで押し通したのだろう。
ぶっちゃけ異形ばっかりである。そのなかに紛れる天狗の、ただのおっさんにしか見えない姿がすごく目立つほど異形三昧だ。ちなみに異形界ファッションリーダーの出で立ちは、ニューヨーク・ヤンキースのキャップ(絶対ファンではないであろう)に、顔からはみ出すほど大きく白いフレームのサングラス、Jリーグチームのユニフォームシャツに蛍光色のスニーカーだ。今日もイカす、だから声をかけず近寄りもしないことに決めた。
「瑞海。悪いがおめぇにかまっちゃあいらんねえ。誰にも負けちゃあいられねえからな」
前を走る河童のジロウが振り向き、鋭い目で他の経立たちを一瞥した。
「そういうことか」
私としたことが迂闊だった。ジロウが宮内さんランキングのポイントを稼ぐつもりでマラソンに参加していると知った時点で、他の経立もこぞって参加すると予想すべきだった。異形たちにとってこのマラソンはサバイバルレースなのだ。いまは互いに様子を窺っているが、そのうち一斉にスパートするだろう。まずい。
いまこの世の中で唯一動かしがたい事実、それは――まともに走ってもこいつらには勝てない――ということだ。
屹と顔をあげる、冗談ではない。このまま白旗をあげることなど我が心の野性が許さない。プロレスの悪役は負けるにしてもピンフォール負けやギブアップを徹底して嫌う。言い訳できないまっとうな負け方をするぐらいなら反則負けを選ぶのだ。パイプイスや隠し持った凶器を使って相手を打ち据え、そのまま反則負けを宣言されることこそ悪役の美学だ。
ちょうどいい感じでコータローが酔っ払っている。最後尾から駆けあがったオーバーペースが効いてきたのだろう。高校教師の濁りきった双眸はどこを見ているのかよくわからない。
「おい」
生足の〝木〟に体を寄せ、「周りのヤツラを見ろ」と小声で囁いた。ジロウたちと渡り合うには少しでも手駒が欲しい。コータローを味方に引き込めるかどうかがカギだ。おだてたり宥めすかしたり、全能をつくして言葉巧みに説得せねばならない。
「周り?」
「そうだ。実はな、こいつらは悪の組織の怪人だ。ぶっちゃけ、なんやかんやで、このままでは世界が危ないのだ」
彼らは睨み合いながら互いを牽制しているのだがそれでも速く、むろん余力もある。こちらはオーバーペース気味でなんとか追いつきはしたが、最早いっぱいいっぱいだ。なにしろもともとの馬力が違う。先頭集団は河童や狼や熊などの着ぐるみを着た――ふりをしている経立たちだった。もしやつらに全力で走られたなら、とてもじゃないが敵わない。
「おう、瑞海か」
「我らと張り合おうとはいい度胸だ」
「まったくまったく」
経立どもが気安く声をかけてきた。
「元気そうでなによりだ」
笑いかけると、経立たちもからから笑う。まったくご陽気な連中だ。おそらく、スタート四十分前にまだ集まっていなかった参加者とはこいつらだ。関係者の誰もがスタートに向けて集中する頃合いを見計らってこっそり紛れ込み、見破られることなく着ぐるみのふりで押し通したのだろう。
ぶっちゃけ異形ばっかりである。そのなかに紛れる天狗の、ただのおっさんにしか見えない姿がすごく目立つほど異形三昧だ。ちなみに異形界ファッションリーダーの出で立ちは、ニューヨーク・ヤンキースのキャップ(絶対ファンではないであろう)に、顔からはみ出すほど大きく白いフレームのサングラス、Jリーグチームのユニフォームシャツに蛍光色のスニーカーだ。今日もイカす、だから声をかけず近寄りもしないことに決めた。
「瑞海。悪いがおめぇにかまっちゃあいらんねえ。誰にも負けちゃあいられねえからな」
前を走る河童のジロウが振り向き、鋭い目で他の経立たちを一瞥した。
「そういうことか」
私としたことが迂闊だった。ジロウが宮内さんランキングのポイントを稼ぐつもりでマラソンに参加していると知った時点で、他の経立もこぞって参加すると予想すべきだった。異形たちにとってこのマラソンはサバイバルレースなのだ。いまは互いに様子を窺っているが、そのうち一斉にスパートするだろう。まずい。
いまこの世の中で唯一動かしがたい事実、それは――まともに走ってもこいつらには勝てない――ということだ。
屹と顔をあげる、冗談ではない。このまま白旗をあげることなど我が心の野性が許さない。プロレスの悪役は負けるにしてもピンフォール負けやギブアップを徹底して嫌う。言い訳できないまっとうな負け方をするぐらいなら反則負けを選ぶのだ。パイプイスや隠し持った凶器を使って相手を打ち据え、そのまま反則負けを宣言されることこそ悪役の美学だ。
ちょうどいい感じでコータローが酔っ払っている。最後尾から駆けあがったオーバーペースが効いてきたのだろう。高校教師の濁りきった双眸はどこを見ているのかよくわからない。
「おい」
生足の〝木〟に体を寄せ、「周りのヤツラを見ろ」と小声で囁いた。ジロウたちと渡り合うには少しでも手駒が欲しい。コータローを味方に引き込めるかどうかがカギだ。おだてたり宥めすかしたり、全能をつくして言葉巧みに説得せねばならない。
「周り?」
「そうだ。実はな、こいつらは悪の組織の怪人だ。ぶっちゃけ、なんやかんやで、このままでは世界が危ないのだ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラックベリーの霊能学
猫宮乾
キャラ文芸
新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~
ほか
キャラ文芸
中央ヨーロッパのとある小国にある、世界一美しい図書館には風変わりなサービスがある。その名は”宅配司書”。一人の女性司書が、世界各国どこへでもかけつける。地球上のどこかで待つ、たった一人のための本のプレゼン――ブックトークを届けるために。
「英語圏の本ならなんでも」
「舞台化に適した原作本」
「寂しいとき、寄り添ってくれる一冊」
彼女はどんな依頼にも、選りすぐりの数冊を選び、物語のように一冊一冊を結び繋いで、あなたに紹介してくれる。
アウトサイダーと言われる人々が示す生き方。天才が持つ傷。孤独がくれるギフト。
社会の王道からあぶれてしまった人々へ紡ぐ、本の紹介。
書物たちの世界は奥深く、時に人生のひみつにたどり着いてしまうかもしれない――。
人生が息苦しく感じたことのあるあなたへ贈る、ビブリオ・トラベル・ロマン。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる