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第一章
考え直してくれ
思っても見なかった言葉に目を見開く。エルダーなら血相を変えて止めてくれると思っていたからだ。
だがまさかその逆をいかれるなんて夢にも思っておらず、俺は口を開けたまま固まった。
「リュシアン様は、少々偏食気味でして」
豊かな口髭を撫でながらぽつりと呟かれた内容があまり理解できず、俺はそのままエルダーを見た。
「あの方は毎日同じ者が作った同じ料理しか口にされません。それ以外は一切お召し上がりにならないのです。それが例え水であったとしても」
「……」
これは、俺が聞いてもいいのだろうか。素直にそう思った。
きっとこれはリュシアンにとって、とても個人的な内容だ。例え俺にその情報を言い触らす先がもう存在しないとしても、聞くべきではない気がした。
だがそれはこの中で一番エルダーが理解しているはずだ。それなのに、当人が率先して話すものだから、俺は少し混乱していた。
「ですがこのままではいつかお体に障ってしまう。それは避けなければなりません」
「で、でもそこで俺に頼るのは」
俺はリュシアンから心底嫌われている。嫌いなやつの考案したレシピなんてリュシアンだって食べたくないはずだ。俺が彼の立場ならそう思う。
この感覚は至って一般的だと思うのに、エルダーとゴードンは顔を見合わせ、そして同時に頷いた。
「問題ありません」
「だな」
「絶対に大問題だ。どうしてしまったんだエルダー、考え直してくれ」
「それでは明日の午後から厨房ということで。失礼、厨房の一歩手前でございますね」
「変わらないからな、それ」
二人が何を考えているのかさっぱりわからない。
頭を抱えていると、一つの可能性が浮かんだ。これはもしかして俺への嫌がらせではないのか。
禁止されている厨房に向かうことで、俺はきっと昨夜よりもっとひどい怒りをリュシアンから買うことになる。そうしたら俺はどうなってしまうのだろうか。
昨日のリュシアンの冷たい笑みを思い出して俯いていると「フィリアス様」と凛とした声が聞こえ、思わず背筋を伸ばす。
「嫌がらせなどではありません」
「え」
声に出していただろうかと少し焦ると、エルダーが小さく笑った。
「あなた方の考えていることなど、この老人には手に取るようにわかるのですよ」
妙に説得力のある言葉に感心していると、今度はゴードンに名前を呼ばれた。
「そろそろ違う木にも袋がけすんぞー。ほらこれは見たことあるだろ」
「オレンジだ」
「熟す前はこんなに緑なのになぁ、これがあんなオレンジになるのが俺はいまだにわからねえよ」
流れるように道具を渡され、そして流れるように作業に戻された。
俺が一連の流れを思い出し「やっぱりおかしいよな」と思い至ったのは、もう夜も更けた頃だった。
こうなるともう腹を括るしかないと、ベッドの中で決意する。
けれどまたあの目で、あの笑顔で怒られるのかもしれないと思うと、腹の奥に鉛が溜まっていくような、そんな重たい不安が俺をつけ回すのだった。
だがまさかその逆をいかれるなんて夢にも思っておらず、俺は口を開けたまま固まった。
「リュシアン様は、少々偏食気味でして」
豊かな口髭を撫でながらぽつりと呟かれた内容があまり理解できず、俺はそのままエルダーを見た。
「あの方は毎日同じ者が作った同じ料理しか口にされません。それ以外は一切お召し上がりにならないのです。それが例え水であったとしても」
「……」
これは、俺が聞いてもいいのだろうか。素直にそう思った。
きっとこれはリュシアンにとって、とても個人的な内容だ。例え俺にその情報を言い触らす先がもう存在しないとしても、聞くべきではない気がした。
だがそれはこの中で一番エルダーが理解しているはずだ。それなのに、当人が率先して話すものだから、俺は少し混乱していた。
「ですがこのままではいつかお体に障ってしまう。それは避けなければなりません」
「で、でもそこで俺に頼るのは」
俺はリュシアンから心底嫌われている。嫌いなやつの考案したレシピなんてリュシアンだって食べたくないはずだ。俺が彼の立場ならそう思う。
この感覚は至って一般的だと思うのに、エルダーとゴードンは顔を見合わせ、そして同時に頷いた。
「問題ありません」
「だな」
「絶対に大問題だ。どうしてしまったんだエルダー、考え直してくれ」
「それでは明日の午後から厨房ということで。失礼、厨房の一歩手前でございますね」
「変わらないからな、それ」
二人が何を考えているのかさっぱりわからない。
頭を抱えていると、一つの可能性が浮かんだ。これはもしかして俺への嫌がらせではないのか。
禁止されている厨房に向かうことで、俺はきっと昨夜よりもっとひどい怒りをリュシアンから買うことになる。そうしたら俺はどうなってしまうのだろうか。
昨日のリュシアンの冷たい笑みを思い出して俯いていると「フィリアス様」と凛とした声が聞こえ、思わず背筋を伸ばす。
「嫌がらせなどではありません」
「え」
声に出していただろうかと少し焦ると、エルダーが小さく笑った。
「あなた方の考えていることなど、この老人には手に取るようにわかるのですよ」
妙に説得力のある言葉に感心していると、今度はゴードンに名前を呼ばれた。
「そろそろ違う木にも袋がけすんぞー。ほらこれは見たことあるだろ」
「オレンジだ」
「熟す前はこんなに緑なのになぁ、これがあんなオレンジになるのが俺はいまだにわからねえよ」
流れるように道具を渡され、そして流れるように作業に戻された。
俺が一連の流れを思い出し「やっぱりおかしいよな」と思い至ったのは、もう夜も更けた頃だった。
こうなるともう腹を括るしかないと、ベッドの中で決意する。
けれどまたあの目で、あの笑顔で怒られるのかもしれないと思うと、腹の奥に鉛が溜まっていくような、そんな重たい不安が俺をつけ回すのだった。
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