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第一章
才能がなかったのは本当
「元々は何でもお召し上がりでした。あの方は幼い頃から、食事の先に誰がいるのかを理解されておりましたから」
誇りと、そして悲しみが滲んだ声に瞬きをする。
謎が深まったところで、ゴードンが「まあ、あれだ」と膝を叩く。
「込み入った話ってやつだ。さすがに詳細は言えねえがな」
「ああ、それはわかってる」
「助かる。それじゃあ続けるぜ」
それから俺たちはリュシアンが食べられる材料で何ができるかを話し合った。いつもサラダと魚のソテー、それとパン。それだけでしか食べないと聞いてまず驚いた。
さすがに季節で取れる食材は異なるため、一つの食材に限定するというわけではなかったが、それでも少なすぎると思った。
「それなのにどうしてあんなに体格がいいんだ……?」
「ありゃ遺伝だ。公爵様にそっくりだしな」
「元々フォークナー家の男性は体格に恵まれやすいのです」
真剣な話を聞いているはずなのに、俺は羨ましくなった。
父に似れば俺も少しは男らしい体格のはずだったのに、俺はとことん母の遺伝子が強いらしく、男にしては線が細いからだ。
羨ましい、もう一度そう胸中で呟いてからまたリュシアンの食事について考える。
「……確かにこれだと心配になるな」
俺がそう思ったのも、畑中陽一の記憶が関係している。
彼は健啖家だった。記憶の大部分が食事で埋められているくらいには、彼は食べることが好きだったらしい。
その記憶の中で、彼はたまに本を読んでいた。
それはレシピ本であったり、絵が連続する本だったりしたが、その中で栄養の本があった。
そこには成人男性の一日の食事量、とか何とか書かれた文字が書かれてあったのだ。それを鵜呑みにするなら、リュシアンの食事量はかなり少ないことになる。
だが俺には料理の知識なんてない。前世の記憶があったところで、提言できることなんてと悩んでいたら、ふとある場所で記憶のページを捲る手が止まった。
「揚げればいいんじゃないか?」
「揚げる? 何を」
「魚だ」
ゴードンが首を傾げた。エルダーも不思議そうな顔をしている。
「揚げるったって、そのままか?」
「いや、パンを粉にするんだ。そのままだと魚に付けるのは難しいから、卵に先にくぐらせて、それから衣みたいにパンを粉状にしたものを纏わせる」
「……」
「それから揚げれば、少なくとも食感は変わるはずだ」
畑中陽一の記憶ではオレンジの色味が強い魚だったが、まあどんな魚でも問題ないだろう。
「フィル様、あんたすげえな……」
ゴードンの言葉に俺は驚き、そして若干居心地が悪くなった。
「いや、ただ思いついただけで」
「それでもすげえぞ! あんた王子様の才能はからきしでもこっちの才能はあったんだな!」
「ゴードン」
「よぉし早速作るぜぇ」
腕捲りをして厨房の中へと向かう背中を見てエルダーは溜息を吐き、俺は苦笑した。
「お許しを。悪気はないのです」
「わかってる。それに王子の才能がなかったのは本当だしな」
軽くそう言うと、エルダーは言葉に詰まったようだった。この詰まりが優しさだと理解できるようになった程度には、俺も成長できているのだろうか。
「フィル様! こりゃなんか下味とか付けるのか⁉︎ それともソースか!」
「すまない。その辺りは全くわからない」
「わかった!」
張り切っているゴードンの背中を見て、俺とエルダーは同じタイミングで笑うのだった。
誇りと、そして悲しみが滲んだ声に瞬きをする。
謎が深まったところで、ゴードンが「まあ、あれだ」と膝を叩く。
「込み入った話ってやつだ。さすがに詳細は言えねえがな」
「ああ、それはわかってる」
「助かる。それじゃあ続けるぜ」
それから俺たちはリュシアンが食べられる材料で何ができるかを話し合った。いつもサラダと魚のソテー、それとパン。それだけでしか食べないと聞いてまず驚いた。
さすがに季節で取れる食材は異なるため、一つの食材に限定するというわけではなかったが、それでも少なすぎると思った。
「それなのにどうしてあんなに体格がいいんだ……?」
「ありゃ遺伝だ。公爵様にそっくりだしな」
「元々フォークナー家の男性は体格に恵まれやすいのです」
真剣な話を聞いているはずなのに、俺は羨ましくなった。
父に似れば俺も少しは男らしい体格のはずだったのに、俺はとことん母の遺伝子が強いらしく、男にしては線が細いからだ。
羨ましい、もう一度そう胸中で呟いてからまたリュシアンの食事について考える。
「……確かにこれだと心配になるな」
俺がそう思ったのも、畑中陽一の記憶が関係している。
彼は健啖家だった。記憶の大部分が食事で埋められているくらいには、彼は食べることが好きだったらしい。
その記憶の中で、彼はたまに本を読んでいた。
それはレシピ本であったり、絵が連続する本だったりしたが、その中で栄養の本があった。
そこには成人男性の一日の食事量、とか何とか書かれた文字が書かれてあったのだ。それを鵜呑みにするなら、リュシアンの食事量はかなり少ないことになる。
だが俺には料理の知識なんてない。前世の記憶があったところで、提言できることなんてと悩んでいたら、ふとある場所で記憶のページを捲る手が止まった。
「揚げればいいんじゃないか?」
「揚げる? 何を」
「魚だ」
ゴードンが首を傾げた。エルダーも不思議そうな顔をしている。
「揚げるったって、そのままか?」
「いや、パンを粉にするんだ。そのままだと魚に付けるのは難しいから、卵に先にくぐらせて、それから衣みたいにパンを粉状にしたものを纏わせる」
「……」
「それから揚げれば、少なくとも食感は変わるはずだ」
畑中陽一の記憶ではオレンジの色味が強い魚だったが、まあどんな魚でも問題ないだろう。
「フィル様、あんたすげえな……」
ゴードンの言葉に俺は驚き、そして若干居心地が悪くなった。
「いや、ただ思いついただけで」
「それでもすげえぞ! あんた王子様の才能はからきしでもこっちの才能はあったんだな!」
「ゴードン」
「よぉし早速作るぜぇ」
腕捲りをして厨房の中へと向かう背中を見てエルダーは溜息を吐き、俺は苦笑した。
「お許しを。悪気はないのです」
「わかってる。それに王子の才能がなかったのは本当だしな」
軽くそう言うと、エルダーは言葉に詰まったようだった。この詰まりが優しさだと理解できるようになった程度には、俺も成長できているのだろうか。
「フィル様! こりゃなんか下味とか付けるのか⁉︎ それともソースか!」
「すまない。その辺りは全くわからない」
「わかった!」
張り切っているゴードンの背中を見て、俺とエルダーは同じタイミングで笑うのだった。
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