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第一章
緊張の食事会
エルダーに促され、俺は何も言えないまま立ち上がって扉の方へと向かう。
足が鉛のように重たいと感じるけれど、不思議なことに歩く速度はいつも通りだ。そうして進むと、エントランスにリュシアンの姿が見えた。
いつもと変わらない金の刺繍が入ったジャケットを羽織り、黒髪を後ろに撫でつけた、いつ見ても一切の隙がない姿だ。
その姿に急激に喉が渇き始める。なんとか側にまでいくと、俺は決死の思いで口を開いた。
「お、おかえり」
「……」
鋭い目に睨まれて肩が跳ねた。
やはりリュシアンは俺のことが嫌いなのだ。早くも挫けそうになるけれど、ゴードンが作ってくれた料理を無駄にするわけにはいかないと自分を奮い立たせた。
「今日は、来てくれてありがとう。食事の用意はできているから、案内する」
ヘマをしたくないという気持ちが先走りすぎて言葉が細切れになる。これでは緊張しているのが丸わかりだと怯えるが、今更どうしようもない。
俺が部屋へと案内している後ろで、エルダーとリュシアンが何か話している。距離はそう離れていないのに、小声すぎて何を話しているかわからなかった。
閉じられた部屋の扉を開けようと手を伸ばすと、いつの間にか隣に来ていたエルダーがそっと取っ手を握る。品よく開かれた扉の先から料理の匂いが漂うと、それだけで心なしか緊張が和らぐようだった。
「おお来たな。おかえりなさいませリュシアン様」
「……ゴードンまでいるのか」
「そりゃそうでしょうよ。俺はリュシアン様のシェフだからな」
「ゴードン」
「いい、エルダー。ゴードンに礼儀作法は求めていない」
「……それはそれで複雑だな」
張り詰めた糸のようだった緊張が途端に緩んだ。
ふう、と息を吐くとゴードンと目が合う。俺の緊張が手に取るようにわかったのか、明らかに楽しそうな顔をしている。
「フィル様ガチガチじゃねえか石かと思ったぜ!」
「ゴードン」
こればかりはエルダーに同調して責めたくなった。わざわざ本人の前で言うな。俺が緊張でどうにかなりそうなことなんて、きっとリュシアンだってわかっているのだ。
その証拠にまた視線が突き刺さっている。
その視線の強さに俺はゴードンから目を逸らせなかった。
「……フィル?」
「ぁ、その」
「俺が勝手に呼んでるんですよ。フィリアスってのはちょっと長えもんで。ほら座った座った。せっかくの料理が冷めちまう」
促されるままに椅子に座る。
館のテーブルはそう大きくない。向かい合わせで座ってもそう距離はなく、だからリュシアンの顔がよく見えた。
相変わらず整った顔だと思う。けれど少しだけ疲れて見えるのは俺の気のせいだろうか。
「これはなんだ」
「フィル様と考えた魚料理です」
「殿下と?」
汚れ一つない磨き抜かれた白磁の皿に盛り付けられたのは、俺が考案した魚料理だった。ゴードンの盛り付けのおかげか、試食した時よりも数段華やかで。見た目からして食欲をそそるものになっていた。
けれどリュシアンにはそう映っていないようで、警戒の眼差しが俺を見る。
「なかなか面白い発想をお持ちで。食材は全部いつも使っているもんの応用です。だからリュシアン様でも食えるんじゃねえかと思って」
足が鉛のように重たいと感じるけれど、不思議なことに歩く速度はいつも通りだ。そうして進むと、エントランスにリュシアンの姿が見えた。
いつもと変わらない金の刺繍が入ったジャケットを羽織り、黒髪を後ろに撫でつけた、いつ見ても一切の隙がない姿だ。
その姿に急激に喉が渇き始める。なんとか側にまでいくと、俺は決死の思いで口を開いた。
「お、おかえり」
「……」
鋭い目に睨まれて肩が跳ねた。
やはりリュシアンは俺のことが嫌いなのだ。早くも挫けそうになるけれど、ゴードンが作ってくれた料理を無駄にするわけにはいかないと自分を奮い立たせた。
「今日は、来てくれてありがとう。食事の用意はできているから、案内する」
ヘマをしたくないという気持ちが先走りすぎて言葉が細切れになる。これでは緊張しているのが丸わかりだと怯えるが、今更どうしようもない。
俺が部屋へと案内している後ろで、エルダーとリュシアンが何か話している。距離はそう離れていないのに、小声すぎて何を話しているかわからなかった。
閉じられた部屋の扉を開けようと手を伸ばすと、いつの間にか隣に来ていたエルダーがそっと取っ手を握る。品よく開かれた扉の先から料理の匂いが漂うと、それだけで心なしか緊張が和らぐようだった。
「おお来たな。おかえりなさいませリュシアン様」
「……ゴードンまでいるのか」
「そりゃそうでしょうよ。俺はリュシアン様のシェフだからな」
「ゴードン」
「いい、エルダー。ゴードンに礼儀作法は求めていない」
「……それはそれで複雑だな」
張り詰めた糸のようだった緊張が途端に緩んだ。
ふう、と息を吐くとゴードンと目が合う。俺の緊張が手に取るようにわかったのか、明らかに楽しそうな顔をしている。
「フィル様ガチガチじゃねえか石かと思ったぜ!」
「ゴードン」
こればかりはエルダーに同調して責めたくなった。わざわざ本人の前で言うな。俺が緊張でどうにかなりそうなことなんて、きっとリュシアンだってわかっているのだ。
その証拠にまた視線が突き刺さっている。
その視線の強さに俺はゴードンから目を逸らせなかった。
「……フィル?」
「ぁ、その」
「俺が勝手に呼んでるんですよ。フィリアスってのはちょっと長えもんで。ほら座った座った。せっかくの料理が冷めちまう」
促されるままに椅子に座る。
館のテーブルはそう大きくない。向かい合わせで座ってもそう距離はなく、だからリュシアンの顔がよく見えた。
相変わらず整った顔だと思う。けれど少しだけ疲れて見えるのは俺の気のせいだろうか。
「これはなんだ」
「フィル様と考えた魚料理です」
「殿下と?」
汚れ一つない磨き抜かれた白磁の皿に盛り付けられたのは、俺が考案した魚料理だった。ゴードンの盛り付けのおかげか、試食した時よりも数段華やかで。見た目からして食欲をそそるものになっていた。
けれどリュシアンにはそう映っていないようで、警戒の眼差しが俺を見る。
「なかなか面白い発想をお持ちで。食材は全部いつも使っているもんの応用です。だからリュシアン様でも食えるんじゃねえかと思って」
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