【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第二章

リオル・フォークナー

 けれど全く違うのは、満面の笑みを浮かべているということ。

「リオル様、どうしてこちらに」

 少年は笑顔のまま駆け出し、俺の横を通り過ぎてエルダーに抱き着いた。その躊躇のなさに驚きつつ、リオルという名前にどこか聞き覚えがあってしばらく二人を見つめた。
 リュシアンに似た顔立ちに、エルダーに懐く様子。それに着ているものも上等だし、立ち居振る舞いから品の良さも伺える。
 そして思い出したのだ。リュシアンにはロザリアの他にもう一人弟がいるということを。
 リオル・フォークナー。そうだ、確かフォークナー家の末子の名前がリオルだ。

「朝ここに着いたんだ。今ラナが兄様のところに父様のお手紙を持っていってる」
「……なるほど。それではリオル様、一度私と共に本邸へ行きましょう。リュシアン様もお待ちでしょうから」
「兄様忙しくないかな?」
「お忙しいでしょうが、リオル様のためとあらばリュシアン様は意地でも時間をお作りになられますよ」
「そうかなぁ?」
「そうですとも」

 エルダーの声が普段よりもずっと優しい。こうして見ると祖父と孫にも見える。それくらい微笑ましい光景に知らずと口角が上がっていたが、大きな黒い瞳が俺を見ているのに気が付いて背筋が伸びる。

「エルダー、あの人は? 新しい使用人?」
「リオル様っ」
「いいんだ、エルダー」

 以前の自分であればきっと容赦無くこの小さな子供を怒鳴りつけていただろう。けれど今は不思議な程何も感じない。むしろ純朴な様子が微笑ましくもあった。
 リオルに少しだけ近付いて地面に膝を突く。
 少し見上げるような形になると、きらきらとした目がじっと俺を見ていた。

「初めまして、リオル。俺はフィリアスだ。使用人ではないけど、ここでゴードンと一緒に菜園の管理をしている」

 返事はない。
 俺を見つめたまま、やがて口を小さく開いた。

「……姉様にひどいことした人?」

 途端に表情が厳しくなり、無垢な目が俺を睨む。
 当然の反応だが、やはり心が痛かった。

「ああ、そうだ。君の姉君にとてもひどいことをした。申し訳ない」
「……」

 エルダーが気遣わしげに俺を見ている。
 沈黙が続き、少し張り詰めた空気が和らいだのはリオルが首を傾げたからだった。

「どうしてひどいことしたの?」

 その問いに驚いたのは俺だった。問答無用で詰られると思っていたからだ。
 驚きに目を見開いて固まる俺に、リオルは不思議そうに瞬きをした。さてどう説明したものかと頭を回転させていると、いつの間にか側にいたゴードンが吹き出すように笑った。

「ダハハ! さすがリオル様だ。そうだなぁ、ちゃんと話聞かねえとわかんねえよなぁ」
「ゴードン!」
「あああ待ってくださいリオル様今はダメだ。俺ぁ汗まみれの泥まみれだ。これで抱きつかれたらラナに怒られる」

 瞬時に俺からゴードンへと興味を移したリオルがゴードンの方へと向かう。無邪気な歓迎にあたふたするゴードンを見て、俺はゆっくりと立ち上がった。

「フィル様はな、ロザリア様に嫉妬したんだと」
「嫉妬? なんで?」
「だってよぉリオル様。ロザリア様はなんでもできるだろ? リュシアン様もだ。そんな人たち見たらなんで僕はできないんだーってならないか?」
「んー……、なるかも、しれない」
「そうだろ? フィル様はなんで僕はできないんだーってなって、癇癪を起こしちまったんだなぁ」
「ゴードン」

 エルダーの重たい声に俺が首を振る。

「いい、事実だ」
「ぼくより子供なんだね。ぼくよりずっと大きいのに!」

 無邪気な言葉というのは攻撃性も高いのだと俺は初めて知った。

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