29 / 141
第二章
ドナドナ
ゴードンは腹を抱えて笑い、エルダーは目頭を押さえて天を仰いでいる。だがしかし、悲しいかなこれも事実だ。
「そうだな」
俺はややあって頷いた。
「俺は子供だった。リオルよりずっと。……リオルはすごいな、俺はロザリアにひどいことをしたのに、話を聞こうとしてくれるんだから」
「だって話さないと何もわからないよ?」
一点の曇りもない言葉に喉の奥がぎゅっと狭くなるような気がした。
ゴードンの側から離れたリオルが俺に近付き、見上げてくる。
「ぼくもフィルって呼んでいい?」
「え、別に、構わないが」
「えへへ、やった。じゃあ今日からフィルって呼ぶ!」
次の瞬間、柔らかなものが体に触れた。それがリオルだということと、抱き着かれているということを理解した途端、全身が緊張する。
子供に、否、人にこんな風に触られるなんて初めてだからだ。
どうするのが正解なんだ。どうしたら、そんな混乱極まる思考の中、突如頭の中に流れてきた場面があった。畑中陽一の記憶だ。
彼の幼い頃の記憶だ。畑中陽一には兄弟がいた。小さな弟が抱き着いてきた時、頭を撫でていた。
その時のように、体を動かしてみる。
ぎこちなく手を伸ばし、黒髪に触れた。そのまま撫でると、俺を見上げるリオルが嬉しそうに柔らかそうな頬を持ち上げる。
その笑顔に胸の奥に柔らかな温かさが広がっていく。もう一度撫でようとした時、昨日も聞いた低音が鼓膜を震わせて瞬時に手を離した。
「リオル」
「! 兄様!」
太陽のような笑みを浮かべ、リオルがリュシアンの元に走る。
小さな体を慣れたように受け止めて、そのまま膝を突く。
「元気だったか」
「うんっ! 兄様は?」
「見ての通りだ。少し大きくなったんじゃないか?」
「本当に⁉︎」
昨日も見たリュシアンの笑顔だった。
どうやら彼は、自分の内側に入れた人物にはとても優しいらしい。ゴードンの言っていたことは本当だったようだ。
和やかな雰囲気を見ていたが、ゆっくりとリュシアンが立ち上がりエルダーの方を見た。
「エルダー、リオルとラナに屋敷の案内を頼む。ゴードンはそのまま作業を続けてくれ」
「はいよー」
ゴードンが緩く返事をして、そのまま俺に手招きをした。
それに安堵していると、エルダーが俺を呼んだ。
「ご案内が終わりましたらこちらに戻ります」
「わかった。ありがとう」
「その必要はない」
厳しい声に肩が跳ねる。声の方を見ると、リュシアンが声と同じような表情を浮かべて俺を見ていた。
「え、じゃあ俺今日一人⁉︎」
「……元々ここはお前一人だっただろう」
「でもでもぉ、二人でやった方が効率がいいというかぁ」
ゴードンが腰をくねらせながら文句を言っている。その姿にエルダーが低く名前を呼ぶと、面白いくらい素早くゴードンがおとなしくなった。
「ではフィリアス様を館にお連れしてから」
「私が連れていく」
後書き
ここまで読んでくださってありがとうございます!
連日の♡や感想など、とても励みになっております。本当にありがとうございます!
皆様のおかげでランキング全てにおいて過去最高順位をいただけております。
重ねて御礼申し上げます。
また、この作品はただいまBL大賞に参加しております。
気に入ってくださったら、投票で応援していただけますと幸いです!
何卒よろしくお願いいたします!
「そうだな」
俺はややあって頷いた。
「俺は子供だった。リオルよりずっと。……リオルはすごいな、俺はロザリアにひどいことをしたのに、話を聞こうとしてくれるんだから」
「だって話さないと何もわからないよ?」
一点の曇りもない言葉に喉の奥がぎゅっと狭くなるような気がした。
ゴードンの側から離れたリオルが俺に近付き、見上げてくる。
「ぼくもフィルって呼んでいい?」
「え、別に、構わないが」
「えへへ、やった。じゃあ今日からフィルって呼ぶ!」
次の瞬間、柔らかなものが体に触れた。それがリオルだということと、抱き着かれているということを理解した途端、全身が緊張する。
子供に、否、人にこんな風に触られるなんて初めてだからだ。
どうするのが正解なんだ。どうしたら、そんな混乱極まる思考の中、突如頭の中に流れてきた場面があった。畑中陽一の記憶だ。
彼の幼い頃の記憶だ。畑中陽一には兄弟がいた。小さな弟が抱き着いてきた時、頭を撫でていた。
その時のように、体を動かしてみる。
ぎこちなく手を伸ばし、黒髪に触れた。そのまま撫でると、俺を見上げるリオルが嬉しそうに柔らかそうな頬を持ち上げる。
その笑顔に胸の奥に柔らかな温かさが広がっていく。もう一度撫でようとした時、昨日も聞いた低音が鼓膜を震わせて瞬時に手を離した。
「リオル」
「! 兄様!」
太陽のような笑みを浮かべ、リオルがリュシアンの元に走る。
小さな体を慣れたように受け止めて、そのまま膝を突く。
「元気だったか」
「うんっ! 兄様は?」
「見ての通りだ。少し大きくなったんじゃないか?」
「本当に⁉︎」
昨日も見たリュシアンの笑顔だった。
どうやら彼は、自分の内側に入れた人物にはとても優しいらしい。ゴードンの言っていたことは本当だったようだ。
和やかな雰囲気を見ていたが、ゆっくりとリュシアンが立ち上がりエルダーの方を見た。
「エルダー、リオルとラナに屋敷の案内を頼む。ゴードンはそのまま作業を続けてくれ」
「はいよー」
ゴードンが緩く返事をして、そのまま俺に手招きをした。
それに安堵していると、エルダーが俺を呼んだ。
「ご案内が終わりましたらこちらに戻ります」
「わかった。ありがとう」
「その必要はない」
厳しい声に肩が跳ねる。声の方を見ると、リュシアンが声と同じような表情を浮かべて俺を見ていた。
「え、じゃあ俺今日一人⁉︎」
「……元々ここはお前一人だっただろう」
「でもでもぉ、二人でやった方が効率がいいというかぁ」
ゴードンが腰をくねらせながら文句を言っている。その姿にエルダーが低く名前を呼ぶと、面白いくらい素早くゴードンがおとなしくなった。
「ではフィリアス様を館にお連れしてから」
「私が連れていく」
後書き
ここまで読んでくださってありがとうございます!
連日の♡や感想など、とても励みになっております。本当にありがとうございます!
皆様のおかげでランキング全てにおいて過去最高順位をいただけております。
重ねて御礼申し上げます。
また、この作品はただいまBL大賞に参加しております。
気に入ってくださったら、投票で応援していただけますと幸いです!
何卒よろしくお願いいたします!
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!