【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第二章

観察のすゝめ

 その日の夜、エルダーからリオルのことを聞いた。

「……公爵家から?」
「はい。しばらくこちらに住まわれるそうです」
「そうか。確かにここは王都と違って自然も豊かだし、羽を伸ばすにはちょうどいいかもしれないな」

 リオルはしばらくこの領で暮らすようだ。
 理由はわからないが、次期公爵となる兄の仕事の様子を見に来たのかもしれない。代々優秀な公爵家なら、リオルくらいの年齢からでもそういったことをさせそうだと思った。

「それでフィリアス様、本日ですが、リュシアン様とどのようなお話を?」

 一瞬どう話そうか迷った。その一拍の間で、エルダーの視線が少し厳しくなったのがわかり苦笑する。
 公爵家は執事まで優秀だ。

「俺を罪人扱いしたわけじゃないと言われた」
「ほお」
「エルダーたちが進言してくれたんだろう?」
「んん?」
「俺が情けないところばかり見せているから、同情してくれたんだろう? でも大丈夫だ。ここの暮らしにも慣れてきたし、もう少し上手くやれると思う」

 元々は王子だったというのに、腹芸の一つもできない自分に苦笑する。

「失礼ながらフィリアス様」
「ん?」

 首を傾げると、エルダーがやや疲れた表情で俺を見た。

「そのような進言、しておりません」
「……?」
「しておりません」
「え、じゃあなんでフォークナーはあんなこと」

 驚きで目を白黒させていると、エルダーが深い溜息を吐いた。

「それはリュシアン様の本心だと思われます」

 ますます意味がわからない。

「あの方が昔から人をよく見ておられる、というお話をさせていただいたのを、覚えておいでですかな?」
「ああ、なんとなく」
「失礼を承知で申し上げますと、ここ数日。特に昨日今日のフィリアス様は見ていられない程憔悴しておられます」

 エルダーがいたわしそうに眉尻を下げた。

「昨夜も、そして今日も、お食事を残されたのを覚えておいでですか?」

 そう言われて記憶を掘り起こす。
 けれど食事については一切思い出せない。その間、俺の頭の中は考え事で埋まっていたからだ。味の記憶も定かではない。
 唯一覚えているのは昨夜の魚料理だけで、それ以外はメニューが何かさえ曖昧になっている。

「今にも倒れそうなフィリアス様を見て、リュシアン様もお考えを改められたのかと。先に申し上げますが、あの方は同情でお考えを改めるような性格ではございません。頑固ですからな」

 優しい声で伝えられても、頭がそれを拒否するように内容が浸透していかない。それがエルダーにもわかったのか、目を細めて言葉を続けた。

「リュシアン様はお優しい方です。そしてフィリアス様も、また優しい方なのでしょう。ですがあなた様の場合は、もう少し余裕を持たれてもいいかと」
「余裕……?」
「はい。今一度、あなた様の周りにいる人間をよく観察されてみてください。見ているうちに、きっと気付くこともございましょう」

 今の俺の目には、何が見えているだろう。
 エルダーが見える。いつもと同じ服を着て、背筋を伸ばしている。
 それだけだ。いつものエルダーにしか見えない。

「一朝一夕でわかるものではございません。ゆっくりでいいのですよ」

 エルダーの言葉に頷いて、俺はその日も菜園に向かった。

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