【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第二章

褒めたら撫でるは世界の常識

 けれど今日は温室に入る手前の場所で、明るい声に呼び止められた。

「フィルー!」
「リオル」

 とすん、と柔らかな衝撃を受け止めた。

「おはようフィル」
「ああ、おはようリオル。朝から元気だな」
「うんっ! フィルは元気ない?」

 真っ直ぐな目に言葉が詰まる。俺はその場を取り繕うセリフすら出てこない。

「……リオルにはお見通しだな」

 誤魔化すのも変だなと素直に認めれば、リオルは得意げに胸を張って見せた。

「でしょ? ぼくこういうの得意なんだ」
「こういうの?」
「うん。その人が何考えてるのかなーって想像するの得意っ」

 まだ頬はもっちりとしているし、全体的に見て当然ながら幼い。それなのに瞳には理知的な光が宿っていて、そこにリュシアンの面影を見た。

「じゃあ、今俺が考えていることもわかるのか?」

 俺の問い掛けにリオルは「うーん」と難しそうな顔をして腕を組んだ。
 どこか大人の真似をしているような仕草に頬が緩むが、大きな目に見られて瞬きを返した。

「困ってそう!」

 とても大雑把な答えだった。
 けれどそれがなんとなく的中しているのだから、やはりフォークナー家はすごいのだなと感心した。

「正解だ。すごいなリオルは」
「えへへ」

 またリオルが抱き着いてきて、腹の辺りで頭をぐりぐりと擦り付けられる。それのくすぐったさに笑っていると、ふと視線を感じた。リオルからだ。
 先程まで理知的な光を湛えていた瞳はなりを顰め、今は不満そうな顔をしている。今まで笑っていたのに、急に機嫌が悪くなっているのに驚いていれば、もちっとした頬が膨れた。

「どうして撫でないの?」
「……?」
「褒めたら撫でるものだよ」
「……」

 初めて聞く概念に瞬きを繰り返し、思わずエルダーを見た。すると彼は深く頷いていた。まるでそれが当然だと言わんばかりに。
 公爵家では、それが当たり前なのだろうか。
 拭いきれない疑問を抱きつつ、ぎこちなく腕を上げた。そのまま機能したように柔らかな黒髪と丸い頭を撫でれば、不機嫌だった顔が瞬く間にご機嫌なそれに変わった。
 その可愛らしさに胸が温かくなるのと同時に、リュシアンの顔が浮かぶ。

「リオルは、兄君から何か言われていないのか?」
「何を?」
「……俺に近付くなとか、そういう」
「? 言われてないよ」

 胸の中に言葉にならない感覚が生まれた。

「兄様はね、フィルに失礼がないようにって言ってたよ?」

 俺の中のリュシアンと、リオルの中のリュシアンがまるで一致しない。その違和感に耐えきれずまたエルダーを見ると、何も言わずにただ優しい目で俺とリオルを見ていた。
 エルダーは優しい。それは元々そうだ。
 けれどその目に、俺を腫れ物として扱う感情は滲んでいるだろうか。
 その些細な疑問を持つだけで、自分の中で何かの枷が外れたような音がした。

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