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第二章
幼く穏やかな時間
……その日から、俺はよくリオルと過ごすようになった。
菜園でも時間もそうだが、稀に館にまでやってくる。それはさすがに、とエルダーに相談をしてみたものの、改善は見られない。
たまにリュシアンについて行って仕事の様子も見ているようだが、それも毎日というわけにもいかない。
もちろん教師などを呼んで勉強もさせていると聞いているが、いかんせんリオルは優秀だ。与えられた課題はすぐに終わらせてしまうから、時間を持て余してしまうらしい。
そこで暇潰しの相手として白羽の矢が立ったのが俺なのだろう。
「……元気だな」
エルダーにマナーについてのレッスンを受けているリオルを見ながら呟いた。
俺が住んでいる館での光景とは思えないなと胸中で呟いていれば、隣から「本当に」と朗らかな女性の声がした。
「リオルは昔からずっとあんなに溌剌としているのか?」
「わたくしはまだ侍女になって短いので、なんとも。けれどリュシアン様からはそのように伺っておりますわ」
俺と同じか、それとももう少し下か。リオル付きの侍女であるラナが柔らかく微笑んだ。
「そうか」
「フィル! ダンスの練習付き合って!」
エルダーのレッスンが終わったのか、輝かんばかりの笑顔でこちらに走り寄ってきたリオルに目を細めた。
「リオル様、走らない」
「はーい。フィル、ダンス!」
「俺とリオルじゃ身長が違いすぎるだろう。それにどっちも男だ」
「女の子の方も踊れるんじゃないの?」
「……それ、誰から聞いたんだ」
「兄様!」
思わず額を押さえ、深く息を吐いた。
どうしてそんなことを話す流れになったのか全くわからないが、あまり知られたくはなかったことだった。
「失礼ですが、なぜ女性のパートも?」
ラナの不思議そうな声に唇をへの字に曲げた。できれば答えたくはないが、もう失って困る面子もないなと思い直して息を吐く。
「……ダンスが下手だったんだ、俺は」
エルダーが紅茶を淹れている音がして、辺りにいい匂いが漂う。
「あまりに自分勝手に踊るものだから、講師に相手の気持ちもわかるようになれと覚えさせられた。だから、できはする」
「ふむ、実にフィリアス様らしい理由ですな」
「エルダー」
思わずじとりと睨むと、エルダーが口元を緩めた。
「けれど今のフィリアス様でしたら、そのようなことにはならないと思いますぞ」
「そう、だろうか」
「はい。きっと」
静かに頷き、エルダーが紅茶を出してくれる。
それに口を付けて、落ち着く香りに目を細めた。
「休憩が終わりましたらダンスレッスンです」
「⁉︎」
「わーい!」
「待て、本当か? 本当に俺がやるのか? ラナからも何か言ってくれ」
「わたくしはリオル様のご意志を尊重しますので」
味方が一人もいない中、その数分後に俺は生き恥を味わうことになった。
リオルの無邪気な笑い声が響く。それにエルダーもラナも微笑ましそうに口角を上げていた。穏やかな時間だった。
その時間の中に自分がいるのだと思うと、胸がじわりと温かくなった。
菜園でも時間もそうだが、稀に館にまでやってくる。それはさすがに、とエルダーに相談をしてみたものの、改善は見られない。
たまにリュシアンについて行って仕事の様子も見ているようだが、それも毎日というわけにもいかない。
もちろん教師などを呼んで勉強もさせていると聞いているが、いかんせんリオルは優秀だ。与えられた課題はすぐに終わらせてしまうから、時間を持て余してしまうらしい。
そこで暇潰しの相手として白羽の矢が立ったのが俺なのだろう。
「……元気だな」
エルダーにマナーについてのレッスンを受けているリオルを見ながら呟いた。
俺が住んでいる館での光景とは思えないなと胸中で呟いていれば、隣から「本当に」と朗らかな女性の声がした。
「リオルは昔からずっとあんなに溌剌としているのか?」
「わたくしはまだ侍女になって短いので、なんとも。けれどリュシアン様からはそのように伺っておりますわ」
俺と同じか、それとももう少し下か。リオル付きの侍女であるラナが柔らかく微笑んだ。
「そうか」
「フィル! ダンスの練習付き合って!」
エルダーのレッスンが終わったのか、輝かんばかりの笑顔でこちらに走り寄ってきたリオルに目を細めた。
「リオル様、走らない」
「はーい。フィル、ダンス!」
「俺とリオルじゃ身長が違いすぎるだろう。それにどっちも男だ」
「女の子の方も踊れるんじゃないの?」
「……それ、誰から聞いたんだ」
「兄様!」
思わず額を押さえ、深く息を吐いた。
どうしてそんなことを話す流れになったのか全くわからないが、あまり知られたくはなかったことだった。
「失礼ですが、なぜ女性のパートも?」
ラナの不思議そうな声に唇をへの字に曲げた。できれば答えたくはないが、もう失って困る面子もないなと思い直して息を吐く。
「……ダンスが下手だったんだ、俺は」
エルダーが紅茶を淹れている音がして、辺りにいい匂いが漂う。
「あまりに自分勝手に踊るものだから、講師に相手の気持ちもわかるようになれと覚えさせられた。だから、できはする」
「ふむ、実にフィリアス様らしい理由ですな」
「エルダー」
思わずじとりと睨むと、エルダーが口元を緩めた。
「けれど今のフィリアス様でしたら、そのようなことにはならないと思いますぞ」
「そう、だろうか」
「はい。きっと」
静かに頷き、エルダーが紅茶を出してくれる。
それに口を付けて、落ち着く香りに目を細めた。
「休憩が終わりましたらダンスレッスンです」
「⁉︎」
「わーい!」
「待て、本当か? 本当に俺がやるのか? ラナからも何か言ってくれ」
「わたくしはリオル様のご意志を尊重しますので」
味方が一人もいない中、その数分後に俺は生き恥を味わうことになった。
リオルの無邪気な笑い声が響く。それにエルダーもラナも微笑ましそうに口角を上げていた。穏やかな時間だった。
その時間の中に自分がいるのだと思うと、胸がじわりと温かくなった。
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