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第三章
立食会から数日後
立食パーティーから数日が経過した。
あの日から、俺の環境は変わった。正確に言えば環境ではなく、俺の意識が変わったと言った方が近いかもしれない。
リュシアンに嫌われていないとわかってから、心の奥にあった鉛のような重たさが消えた。
自分の罪を忘れたわけではないけれど、それでも随分と軽くなったのは確かだ。
そのおかげで毎日が輝いて見えるし、料理もずっと美味しく感じる。
けれど環境も変わったかもしれない。例えばこんな時だ。
「フィリアス様」
菜園に行くために歩いていると、屋敷の方から声がした。声を辿るとそこにはリュシアンがいて、思わず頬が緩む。
「おはようリュシアン」
「おはようございます。今少し時間をいただいても?」
「俺にいちいち伺いなんて立てなくていいのに。ここで一番偉いのはリュシアンだろう?」
「関係ありません」
今日も完璧に整っているリュシアンの姿を見て、同じ男ではあるけれど見惚れてしまう。食事だって多分俺の方が取っているのに、体格は歴然の差があるし、なんというか纏っている雰囲気が違う。
リュシアンからは頼もしさや圧を感じるけれど、俺はどう見たって貧相だ。否、体が薄いと言い直そう。
「フィリアス様、どうかされましたか?」
体型について考えていると声を掛けられてはっとする。
「すまない。どうしたんだ?」
「夜の食事をご一緒できないかと」
「ああ、大丈夫だ。ゴードンにも伝えておこうか?」
「もう伝えてあります。それでは」
必要なことだけを言って踵を返す姿はとても無愛想だ。けれどこれがリュシアンなりの俺に対する接し方なんだとわかると、それを怖いだなんて思わなくなった。
「いってらっしゃい。あまり無茶をするなよ」
視線だけで振り返ったリュシアンが頷いて、従者の待つ方へと歩き出す。その背中が見えなくなるまで見送ると、側にいたエルダーが「ふむ」と呟いた。
「見違えるようですな」
「何がだ?」
「お二人の関係がです。一時期はどうなることかと思いましたが、安心しました」
豊かな髭を撫でながら告げられた言葉に俺は頷いた。
「俺もまだ信じられない。たまに夢を見ているんじゃないかって思う時がある」
「現実ですのでご安心ください」
「わかってるよ」
顔を見合わせて笑い、二人で菜園に向かう。
あの日の言葉通り、タイミングが合えば俺たちは一緒に食事をするようになっていた。まだ完全に緊張が抜け切ったわけではないけれど、もうリュシアンにも随分自然体で接せられるようになったと思う。
そのおかげかよく眠れるようになったし、目の下に浮いていた隈もすっかり消えた。今の俺はどこから見ても健康だろう。
「けど羽目を外さないように気を付けないとな。リュシアンにまで優しくされると、俺は自分の立場を忘れそうになる」
どれだけ楽しく穏やかな時間が続いたとしても、俺は声に出すことによって踏み止まる。
そうして自分に一本釘を刺していた方が、距離感を間違えなくて済むような気がしたからだ。
あの日から、俺の環境は変わった。正確に言えば環境ではなく、俺の意識が変わったと言った方が近いかもしれない。
リュシアンに嫌われていないとわかってから、心の奥にあった鉛のような重たさが消えた。
自分の罪を忘れたわけではないけれど、それでも随分と軽くなったのは確かだ。
そのおかげで毎日が輝いて見えるし、料理もずっと美味しく感じる。
けれど環境も変わったかもしれない。例えばこんな時だ。
「フィリアス様」
菜園に行くために歩いていると、屋敷の方から声がした。声を辿るとそこにはリュシアンがいて、思わず頬が緩む。
「おはようリュシアン」
「おはようございます。今少し時間をいただいても?」
「俺にいちいち伺いなんて立てなくていいのに。ここで一番偉いのはリュシアンだろう?」
「関係ありません」
今日も完璧に整っているリュシアンの姿を見て、同じ男ではあるけれど見惚れてしまう。食事だって多分俺の方が取っているのに、体格は歴然の差があるし、なんというか纏っている雰囲気が違う。
リュシアンからは頼もしさや圧を感じるけれど、俺はどう見たって貧相だ。否、体が薄いと言い直そう。
「フィリアス様、どうかされましたか?」
体型について考えていると声を掛けられてはっとする。
「すまない。どうしたんだ?」
「夜の食事をご一緒できないかと」
「ああ、大丈夫だ。ゴードンにも伝えておこうか?」
「もう伝えてあります。それでは」
必要なことだけを言って踵を返す姿はとても無愛想だ。けれどこれがリュシアンなりの俺に対する接し方なんだとわかると、それを怖いだなんて思わなくなった。
「いってらっしゃい。あまり無茶をするなよ」
視線だけで振り返ったリュシアンが頷いて、従者の待つ方へと歩き出す。その背中が見えなくなるまで見送ると、側にいたエルダーが「ふむ」と呟いた。
「見違えるようですな」
「何がだ?」
「お二人の関係がです。一時期はどうなることかと思いましたが、安心しました」
豊かな髭を撫でながら告げられた言葉に俺は頷いた。
「俺もまだ信じられない。たまに夢を見ているんじゃないかって思う時がある」
「現実ですのでご安心ください」
「わかってるよ」
顔を見合わせて笑い、二人で菜園に向かう。
あの日の言葉通り、タイミングが合えば俺たちは一緒に食事をするようになっていた。まだ完全に緊張が抜け切ったわけではないけれど、もうリュシアンにも随分自然体で接せられるようになったと思う。
そのおかげかよく眠れるようになったし、目の下に浮いていた隈もすっかり消えた。今の俺はどこから見ても健康だろう。
「けど羽目を外さないように気を付けないとな。リュシアンにまで優しくされると、俺は自分の立場を忘れそうになる」
どれだけ楽しく穏やかな時間が続いたとしても、俺は声に出すことによって踏み止まる。
そうして自分に一本釘を刺していた方が、距離感を間違えなくて済むような気がしたからだ。
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