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第三章
帰り道、庭園で
「──でも、本当に無理はしていないのか?」
食事会が終わると、俺とリュシアンは決まって庭園を歩く。
理由は簡単だ。リュシアンとの食事会は俺の住む館ではなく、本邸で行うことにしたからだ。その方が料理も冷めないし、リュシアンに余計な労力を掛けないで済む。
けれどこうやって送ってもらっていたら、そんな気遣いも無駄な気がしてならないけれど。
「無理? どうして」
「いや、なんとなくだ。俺がリュシアンだったらきっとまだ怖いと思って」
「……恐怖がないと言えば嘘になります」
この場所はいつも静かだが、夜になると一層静けさが際立つ。
風で草木の揺れる音すら鮮明に聞こえる中、リュシアンの声がはっきりと耳に届く。
「ですがあなたを見ていると、不思議と恐怖が薄れる。きっと私の目の前でなんの警戒もなく同じ料理を食べているからでしょう」
「俺に警戒心がないと?」
「おや、そう聞こえましたか。それは失礼」
少し意地悪にリュシアンが笑う。それが眩しく思うのは、きっと彼が俺に自然体を見せてくれているからだ。
こんな軽口が言い合える仲になるなんて思わなかった。自然と口角が上がるのを感じながら、ふと口を開く。
「そういえば、今度アサヒの国から食材が届くそうだな」
「ゴードンから?」
「ああ。一緒にメニューを考えようって言ってくれている」
「……以前から気になっていたのですが、その知識はどこで? 私の知っているフィリアス様は、料理に全くご興味がなかったように思うのですが」
ぎくりと頬が引き攣る。けれどいつかはこの質問が来ると思っていた。
俺にはその場を切り抜ける策なんてないし、そんな頭も持っていない。けれどそのまま言うときっと変人扱いされてしまうだろうと思って、事実を多少捻じ曲げて伝える。
「興味はなかったけど、知識としてはあった。城には無限に本があったからな。それに物語の内容も参考にしているんだ。空想だと思っていても、実践したらうまくいくこともあってな。それで今は料理が好きだ。……ゴードンにセンスがないとは言われたが」
城で本を読んでいたのは事実だし。空想だと思っているのも事実だ。
畑中陽一の生きた世界は、俺からしたら空想上のものだ。記憶だけ辿っても、彼の目の前に広がっていた景色は魔法か何かのように思える。
そんな世界にあった技術が果たしてこちらでも可能かわからなかったが、結果はこうだ。
色々なことがあったが、やはり俺はあのタイミングで畑中陽一の記憶が戻ってよかったと思う。
「調理に参加したのですか?」
「え」
硬くなったリュシアンの声に目を丸くする。
いつの間にか歩く足は止まっていて、リュシアンが俺の方を向いていた。
怒ってはいないけれど、それでも張り詰めるような圧に体を緊張させていれば、徐にリュシアンが俺の手を取る。
「?」
突然のことに目を白黒させていたが、俺の手を目の高さにまで持ち上げて指先をじっと見ているのがわかる。
「怪我は、していませんか」
「け、怪我?」
「指を切ったり火傷をしたり、そういうものです」
「してない、と思う」
「それならよかった。ですが刃物や火を扱うのはやめてください」
深い溜息と共に告げられた言葉に、ふわふわと浮いているようだった気分がすとんと落ちる。
「……俺はまだ信用されていないだろうか」
食事会が終わると、俺とリュシアンは決まって庭園を歩く。
理由は簡単だ。リュシアンとの食事会は俺の住む館ではなく、本邸で行うことにしたからだ。その方が料理も冷めないし、リュシアンに余計な労力を掛けないで済む。
けれどこうやって送ってもらっていたら、そんな気遣いも無駄な気がしてならないけれど。
「無理? どうして」
「いや、なんとなくだ。俺がリュシアンだったらきっとまだ怖いと思って」
「……恐怖がないと言えば嘘になります」
この場所はいつも静かだが、夜になると一層静けさが際立つ。
風で草木の揺れる音すら鮮明に聞こえる中、リュシアンの声がはっきりと耳に届く。
「ですがあなたを見ていると、不思議と恐怖が薄れる。きっと私の目の前でなんの警戒もなく同じ料理を食べているからでしょう」
「俺に警戒心がないと?」
「おや、そう聞こえましたか。それは失礼」
少し意地悪にリュシアンが笑う。それが眩しく思うのは、きっと彼が俺に自然体を見せてくれているからだ。
こんな軽口が言い合える仲になるなんて思わなかった。自然と口角が上がるのを感じながら、ふと口を開く。
「そういえば、今度アサヒの国から食材が届くそうだな」
「ゴードンから?」
「ああ。一緒にメニューを考えようって言ってくれている」
「……以前から気になっていたのですが、その知識はどこで? 私の知っているフィリアス様は、料理に全くご興味がなかったように思うのですが」
ぎくりと頬が引き攣る。けれどいつかはこの質問が来ると思っていた。
俺にはその場を切り抜ける策なんてないし、そんな頭も持っていない。けれどそのまま言うときっと変人扱いされてしまうだろうと思って、事実を多少捻じ曲げて伝える。
「興味はなかったけど、知識としてはあった。城には無限に本があったからな。それに物語の内容も参考にしているんだ。空想だと思っていても、実践したらうまくいくこともあってな。それで今は料理が好きだ。……ゴードンにセンスがないとは言われたが」
城で本を読んでいたのは事実だし。空想だと思っているのも事実だ。
畑中陽一の生きた世界は、俺からしたら空想上のものだ。記憶だけ辿っても、彼の目の前に広がっていた景色は魔法か何かのように思える。
そんな世界にあった技術が果たしてこちらでも可能かわからなかったが、結果はこうだ。
色々なことがあったが、やはり俺はあのタイミングで畑中陽一の記憶が戻ってよかったと思う。
「調理に参加したのですか?」
「え」
硬くなったリュシアンの声に目を丸くする。
いつの間にか歩く足は止まっていて、リュシアンが俺の方を向いていた。
怒ってはいないけれど、それでも張り詰めるような圧に体を緊張させていれば、徐にリュシアンが俺の手を取る。
「?」
突然のことに目を白黒させていたが、俺の手を目の高さにまで持ち上げて指先をじっと見ているのがわかる。
「怪我は、していませんか」
「け、怪我?」
「指を切ったり火傷をしたり、そういうものです」
「してない、と思う」
「それならよかった。ですが刃物や火を扱うのはやめてください」
深い溜息と共に告げられた言葉に、ふわふわと浮いているようだった気分がすとんと落ちる。
「……俺はまだ信用されていないだろうか」
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