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第三章
エルダーめ
「こちらがリュシアン様の執務室です」
「……待て、俺一人で行くのか?」
「問題ありません。私はここでお待ちしております」
日が落ちて大抵の人物が眠りについた時間。俺とエルダーは息を殺して本邸の中を歩き、そしてある扉の前に辿り着いた。
俺の手には銀の蓋付きの皿があり、中にはおにぎりが入っている。ゴードンがこのためにこの時間まで起きて待機してくれていたそうだ。
「さて、良いですかな?」
俺の返事を聞く前にエルダーが扉を数回ノックした。
中から「入れ」とリュシアンの声がして、緊張が高まる。
「リュシアン様、お夜食を持って参りました。入りますぞ」
返事を聞く前にエルダーが扉を開け、視線だけで俺に入れと促してくる。直前まで本当にいいのかと半信半疑だったが、もうどうにでもなれと足を踏み入れた。
背後でぱたりと静かに扉が閉まる音がして、部屋の中に二人になる。
燭台の灯りで照らされた室内は、なんというかリュシアンにぴったりだと思う内装だった。
無駄なものは一切なく、シンプルだけど調度品の一つ一つが選び抜かれた高価なものだ。そのおかげか、物が少ないのにこの部屋自体が格式高いものに思えた。
「エルダー、夜食は必要ないと前にも、」
書類を読んでいたリュシアンが顔を上げ、そして動きを止める。
目を丸くして驚く様子は新鮮で、思わずじっと顔を見つめていたがはっとして口角を持ち上げた。
「フィリアス様、どうして」
「その、夜食をどうかなと思って」
驚きが抜けていないままの表情でリュシアンが聞いてくる。それに皿を見せながら答えると、彼は息を吐いて額を押さえた。
「エルダーめ」
苦々しく呟かれた言葉に慌てて首を横に振った。
「エルダーは悪くないんだ。俺がリュシアンに夜食はどうかなって提案して、それでエルダーが協力してくれただけだから」
再度リュシアンが息を吐く、怒らせてしまっただろうかと表情を窺っているとリュシアンが眉を下げた。
「怒っていません。驚きはしましたが。……何を持ってきてくれたんですか?」
リュシアンの視線が俺が持っている皿に移る。
それにほっとしつつ扉から少し離れてテーブルの前に行き、ゆっくりと蓋を開けた。
「これは?」
「おにぎりだ。アサヒの国でよく食べられているものらしい」
「ああ、今日届いた食材か」
昼間はただ米を握っただけだったが、リュシアン用にゴードンが新しく作ってくれたものには海苔が巻いてあった。しかもどれもが小さくて、一口くらいで食べられるサイズに調整してある。
ゴードンの仕事に素直に感心しつつも、先程の発言を思い出して少し申し訳なくなった。
「夜食は取らないだろうと思ったんだけど、全く違う国の料理なら食べられるかもしれないって思ったんだ。余計なことをしてごめん」
「……いただきます」
「え、でも」
「食事を作る労力はわかっているつもりです。無下にはしたくない」
その言葉にまたひとつピースが嵌る音が頭の中でした。
「……待て、俺一人で行くのか?」
「問題ありません。私はここでお待ちしております」
日が落ちて大抵の人物が眠りについた時間。俺とエルダーは息を殺して本邸の中を歩き、そしてある扉の前に辿り着いた。
俺の手には銀の蓋付きの皿があり、中にはおにぎりが入っている。ゴードンがこのためにこの時間まで起きて待機してくれていたそうだ。
「さて、良いですかな?」
俺の返事を聞く前にエルダーが扉を数回ノックした。
中から「入れ」とリュシアンの声がして、緊張が高まる。
「リュシアン様、お夜食を持って参りました。入りますぞ」
返事を聞く前にエルダーが扉を開け、視線だけで俺に入れと促してくる。直前まで本当にいいのかと半信半疑だったが、もうどうにでもなれと足を踏み入れた。
背後でぱたりと静かに扉が閉まる音がして、部屋の中に二人になる。
燭台の灯りで照らされた室内は、なんというかリュシアンにぴったりだと思う内装だった。
無駄なものは一切なく、シンプルだけど調度品の一つ一つが選び抜かれた高価なものだ。そのおかげか、物が少ないのにこの部屋自体が格式高いものに思えた。
「エルダー、夜食は必要ないと前にも、」
書類を読んでいたリュシアンが顔を上げ、そして動きを止める。
目を丸くして驚く様子は新鮮で、思わずじっと顔を見つめていたがはっとして口角を持ち上げた。
「フィリアス様、どうして」
「その、夜食をどうかなと思って」
驚きが抜けていないままの表情でリュシアンが聞いてくる。それに皿を見せながら答えると、彼は息を吐いて額を押さえた。
「エルダーめ」
苦々しく呟かれた言葉に慌てて首を横に振った。
「エルダーは悪くないんだ。俺がリュシアンに夜食はどうかなって提案して、それでエルダーが協力してくれただけだから」
再度リュシアンが息を吐く、怒らせてしまっただろうかと表情を窺っているとリュシアンが眉を下げた。
「怒っていません。驚きはしましたが。……何を持ってきてくれたんですか?」
リュシアンの視線が俺が持っている皿に移る。
それにほっとしつつ扉から少し離れてテーブルの前に行き、ゆっくりと蓋を開けた。
「これは?」
「おにぎりだ。アサヒの国でよく食べられているものらしい」
「ああ、今日届いた食材か」
昼間はただ米を握っただけだったが、リュシアン用にゴードンが新しく作ってくれたものには海苔が巻いてあった。しかもどれもが小さくて、一口くらいで食べられるサイズに調整してある。
ゴードンの仕事に素直に感心しつつも、先程の発言を思い出して少し申し訳なくなった。
「夜食は取らないだろうと思ったんだけど、全く違う国の料理なら食べられるかもしれないって思ったんだ。余計なことをしてごめん」
「……いただきます」
「え、でも」
「食事を作る労力はわかっているつもりです。無下にはしたくない」
その言葉にまたひとつピースが嵌る音が頭の中でした。
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