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第五章
公爵家の問題
「誰だ」
中からリュシアンの声がして、返事をしないまま取手に手を掛ける。
扉が開いた先にいたのは、眼光を鋭くしたリュシアンだった。
「……どうしてあなたがここに」
「勝手に来たんだ」
そう言って中に入り、後ろ手に扉を閉めた。
数日前はここでリュシアンに夜食を食べさせていた。けれど今は、まるでこの領地に来たばかりの時のような目でリュシアンが俺を見ている気がした。
「用件はなんでしょうか。見ていただけている通り、私は暇ではありません」
「わかってる。リオルのことだ」
室内の空気がぴんと張り詰めた。
リュシアンの視線が厳しくなって少し怖気付くけれど、引くわけにはいかなかった。
「リュシアンに嫌われたと泣いていた」
「、」
「そんなことはないと伝えたが、それはリュシアンの口から伝えるべきだと思う」
持っていた羽ペンを置いたリュシアンが額に手を当てて深く息を吐いた。
「……まさかそれを言うためだけに?」
低い声に首を振って返す。
「リオルは、俺が毒を飲んだのが自分のせいだと思っている」
「そう言っていたのですか」
「断片的にな。僕がここに来なければ、と言っていた」
俺は今、踏み込んではいけないところに足を踏み入れている。そんな気がした。
誰も言葉にはしていない。状況的な証拠と、そしてリオルの言葉しか俺は知らない。けれど、きっと間違っていないと思った。
「あの毒はリオルに盛られたものだったんだな」
「これは公爵家の問題です。あなたが口を挟むようなことではない」
「ああ、わかってる。だからこれ以上は何も言わない」
リュシアンの言葉で推測が間違っていなかったことを悟って、余計に遣る瀬なくなる。
リュシアンの視線は変わらずに厳しい。
ここで俺に触れてくれた優しさも、あの日俺を見ていた熱さももう感じられない。それが自分の感情を自覚した今とても辛いけれど、俺の場合は仕方がないのだ。
だって俺は彼にとって最も大事な家族を傷付けた。ここで起きた全てもリュシアンの気まぐれだと思い込んだ方がいい。
だがリオルは違う。「でも」と言葉を続けると、リュシアンの眉間に皺が刻まれる。
「俺のことはどう扱ってもいいが、リオルにだけは優しくしてほしい。一番不安なのは絶対にリオルなんだから」
そこまで言い終えると室内に怖いほどの静寂が戻ってきた。
リュシアンは何も言わない。けれど優しい彼のことだ、明日にはきっとリオルの元に顔を出してくれるはずだと思い、小さく息を吐く。
「……伝えたかったのはそれだけだ。邪魔をして悪かった」
リュシアンに背を向けて取手に手を掛けた。
「ここにはエルダーの指示で?」
「勝手に来たって言っただろう。俺のわがままだよ」
そう言って執務室から出ようとして、動きを止めた。
途端に不安が湧き上がってきて喉が急激に乾いていく。けれどここで伝えないといけないと思った。
なんでか今を逃すと、もう一生リュシアンと話せないと思ったからだ。
「リュシアン」
リオルのことを話していた時は震えなかったのに、自分のことになった途端声が情けない程小さく震えた。やはり自分ごとになると怯えてしまう。
リュシアンからは返事がない。聞こえないふりをしているのかもしれない。それならそれでもいいと口を開いた。
「助けてくれて、ありがとう。不本意なことをさせてごめん」
中からリュシアンの声がして、返事をしないまま取手に手を掛ける。
扉が開いた先にいたのは、眼光を鋭くしたリュシアンだった。
「……どうしてあなたがここに」
「勝手に来たんだ」
そう言って中に入り、後ろ手に扉を閉めた。
数日前はここでリュシアンに夜食を食べさせていた。けれど今は、まるでこの領地に来たばかりの時のような目でリュシアンが俺を見ている気がした。
「用件はなんでしょうか。見ていただけている通り、私は暇ではありません」
「わかってる。リオルのことだ」
室内の空気がぴんと張り詰めた。
リュシアンの視線が厳しくなって少し怖気付くけれど、引くわけにはいかなかった。
「リュシアンに嫌われたと泣いていた」
「、」
「そんなことはないと伝えたが、それはリュシアンの口から伝えるべきだと思う」
持っていた羽ペンを置いたリュシアンが額に手を当てて深く息を吐いた。
「……まさかそれを言うためだけに?」
低い声に首を振って返す。
「リオルは、俺が毒を飲んだのが自分のせいだと思っている」
「そう言っていたのですか」
「断片的にな。僕がここに来なければ、と言っていた」
俺は今、踏み込んではいけないところに足を踏み入れている。そんな気がした。
誰も言葉にはしていない。状況的な証拠と、そしてリオルの言葉しか俺は知らない。けれど、きっと間違っていないと思った。
「あの毒はリオルに盛られたものだったんだな」
「これは公爵家の問題です。あなたが口を挟むようなことではない」
「ああ、わかってる。だからこれ以上は何も言わない」
リュシアンの言葉で推測が間違っていなかったことを悟って、余計に遣る瀬なくなる。
リュシアンの視線は変わらずに厳しい。
ここで俺に触れてくれた優しさも、あの日俺を見ていた熱さももう感じられない。それが自分の感情を自覚した今とても辛いけれど、俺の場合は仕方がないのだ。
だって俺は彼にとって最も大事な家族を傷付けた。ここで起きた全てもリュシアンの気まぐれだと思い込んだ方がいい。
だがリオルは違う。「でも」と言葉を続けると、リュシアンの眉間に皺が刻まれる。
「俺のことはどう扱ってもいいが、リオルにだけは優しくしてほしい。一番不安なのは絶対にリオルなんだから」
そこまで言い終えると室内に怖いほどの静寂が戻ってきた。
リュシアンは何も言わない。けれど優しい彼のことだ、明日にはきっとリオルの元に顔を出してくれるはずだと思い、小さく息を吐く。
「……伝えたかったのはそれだけだ。邪魔をして悪かった」
リュシアンに背を向けて取手に手を掛けた。
「ここにはエルダーの指示で?」
「勝手に来たって言っただろう。俺のわがままだよ」
そう言って執務室から出ようとして、動きを止めた。
途端に不安が湧き上がってきて喉が急激に乾いていく。けれどここで伝えないといけないと思った。
なんでか今を逃すと、もう一生リュシアンと話せないと思ったからだ。
「リュシアン」
リオルのことを話していた時は震えなかったのに、自分のことになった途端声が情けない程小さく震えた。やはり自分ごとになると怯えてしまう。
リュシアンからは返事がない。聞こえないふりをしているのかもしれない。それならそれでもいいと口を開いた。
「助けてくれて、ありがとう。不本意なことをさせてごめん」
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