【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

文字の大きさ
82 / 141
第五章

エルダーの独り言

 目が覚めた時、俺はベッドの中にいた。

「……?」

 ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見渡す。

「どうしてベッドにいるんだ……?」

 俺は昨日床でそのまま眠ってしまったはずだ。きっと夜中に起きるだろうと踏んでいたが、そんな記憶はない。覚えているのは幸せな夢だけだ。

「!」

 風が吹き抜けるように一気に覚醒して、俺は慌ただしくベッドから落ちるように降りた。そのまま駆け足で鏡台の前にいき、首元を見る。

「……ぁ、」

 嬉しさで胸が打ち震えた。
 リュシアンが触れた場所に赤い痕が残っている。ここに、昨日の夢が夢じゃなかったと証明するものが残されている。
 昨日のことは全て覚えている。リュシアンの言葉も、行動も、全部だ。
 首の痕に触れて喜びを噛み締めていると、ドアをノックする音が聞こえて慌ててシャツのボタンをとめ、それから声を出す。

「どうぞ」
「おはようございますフィリアス様。おや、お召し物が昨日から変わっておりませんな」
「……すまない、すぐに眠ってしまって」
「なるほど。ならば朝食は入浴後にいたしましょう」
「ああ、ありがとう」

 入浴をしている時、俺は昨日のことを思い出し、整理していた。
 毒のこと、リオルのこと、そしてリュシアンのこと。起こったことを時系列順に整理しながら、昨日までの行動を思い返していく。
 リュシアンの態度が明らかに変わったのは毒を飲んでからだ。

 不本意な行為をさせてしまったが故の嫌悪感で俺を避けているのかもと思っていたが、昨日の様子を見る限りそうではない。
 ならそれ以外の理由があるはずだと考えながら、朝の準備を済ませていく。
 けれど考えても答えが出るはずがない。
 新しい服を着て、きちんとシャツのボタンを首元までとめてから部屋を出る。
 エルダーが朝食を用意してくれている部屋に行くまでの間、俺がひとまず出した結論は「余計なことは言わない」だった。

「さっぱりされましたかな」
「ああ、待たせてすまない」
「お気になさらず。さあ朝食にいたしましょう」

 食事を進めている間も、エルダーはいつも通りだった。
 まるで昨日のことなんてなかったような姿にそれもそうかと納得はしつつも、やはり少し寂しいものがある。
 リュシアンのこともそうだ。彼は俺に触れはしたが、夢だと言っていた。
 つまり表面上のことはここ数日のような状態がずっと続くし、俺が部外者であることには変わりない。
 気になることがあったとしても迂闊に口にしてはならないなと目を伏せた。

「……独り言ですが」

 思わずカトラリーを皿にぶつけてしまって硬い音が室内に響く。それにエルダーが軽く咳払いをして、明後日の方向を見た。

「リュシアン様とリオル様が仲直りされました」

 ぼそぼそと告げられた内容に目を丸くし、胸の内に広がる温かい気持ちのまま笑みを浮かべた。

「そうか、よかった」

 エルダーはそれには返さない。だって今のは独り言だからだ。

「今日の食事も美味しいな」
「それはようございました。それでフィリアス様、本日の夜ですが」

 その切り出し方にまた金属音を立ててしまった。
 今度こそエルダーの鋭い視線を受け取りつつ、続きを促す。

「リュシアン様とのお食事になります。……よろしいですか?」

 予想通りの言葉にやや緊張しながら頷いた。ここでボロを出すわけにはいかないと、ここ数日の感情を思い出して表情を作る。

「拒否権はないんだろう?」
「はい」

感想 146

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。