【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第六章

しなくてもいいこと

「フィリアス様」
「どうした?」

 振り返ると、そこには静かな表情を浮かべているラナがいた。

「お聞きしたいのです。どうしてフィリアス様はこのようなことを? こんなことをせずとも、あなた様はここで暮らしていけるのに」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「知りたいのです。リオル様もフィリアス様も、私から見たらしなくてもいいことをしているように見えるのです。そうする理由が知りたいと思うのはおかしいでしょうか?」

 その言葉にそれもそうかと頷いた。

「俺はリオルではないからわからないけれど、俺の場合は自分にもできることがあると思いたかったからだ。ラナは俺のことはどれくらい知っているんだ?」
「……ある程度は」
「そうか」

 ラナの表情は変わらない。けれど目の奥に宿る色だけは少し変わった。
 俺はその目を知っている。王城にいた頃はほとんど毎日その目で見られていた。懐かしさと同時に、自分の過去が払拭できないことに遣る瀬なさも感じる。

「知っての通り、俺はもう何者でもない。罪を犯して、その処置としてここいる。俺に許されているのは生きることだけで、他は何もしなくていい」
「ならどうしてこんな」
「何者かでありたかったんだ。ここにくる前までは王子だった。でもそれがなくなって、俺は全てを失った。何者でもないのがきっと嫌で、ここで働くことで自分の存在を確かめたかったんだ」
「……私には、わかりません」

 眉間に皺を寄せ、前に合わせた手を目に見える力で握っているラナを見て目を細める。

「無理に理解しようとしなくていい。特に俺のことは。ラナはリオルのことをちゃんと見てあげてほしい」
「そんなことわかっています」

 そう言ってふいと顔を背けたラナはリオルたちの方へと歩き出した。
 その後ろ姿を見ながら、確かにエルダーの言う通り彼女は若いのだろうと思った。けれど以前の俺はあれよりもっと酷かったなと苦笑する。

「つくづく、彼には助けられているな」

 こうして穏やかに話せているのも畑中陽一の記憶があってこそだ。彼の記憶がなければ、俺はきっとラナに対して酷い言葉を浴びせかけていたに違いない。そう思いながら再び畑に向き直る。
 収穫する野菜はそれなりに多いけれど、手伝いは見込めない。
 なぜなら遠くの方でリオルのはしゃいでいる声が聞こえるからだ。

「随分元気になったな」

 リュシアンと仲直りしてからリオルはすっかり元気になったようだ。エルダーの独り言によれば、食事の量も元に戻ったらしい。
 子供には健やかに成長していってほしいものだ。そう思いながら手を動かし、次々と野菜を収穫していく。
 時々エルダーの言い付けを破って土を手で掘ったし、重い物も持ったけれど問題はない。むしろ一仕事終えた達成感で気持ちがいいくらいだった。

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