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第六章
擦り傷でございます
「おーおーはしゃぎやがったな!」
「元はと言えばゴードン、あなたのせいですよ」
「俺ぇ⁉︎ ちょっとリオル様、庇ってくれよ!」
エルダーに睨まれたゴードンを見てリオルがけらけらと楽しそうに笑っている。リオルが楽しそうというだけでこうまで明るくなるのだから、この子の存在はすごいなと思った。
「はあ、まあ過ぎたことを言っても仕方がありません。リオル様もきちんとお風呂に入られてください」
「わかったっ」
「頼みましたよ、ラナ」
「かしこまりました」
二人はそう言って屋敷の方へと戻って行った。リオルは「またね」と手を振っていたが、ラナの表情は若干厳しかったように思う。
「メイドと言ってもお嬢様にゃ泥遊びは理解できねえか」
「さてフィリアス様、我らも参りましょう。ゴードン、お前も清潔に保ちなさい」
「汚ねえみたいに言わないでくれます⁉︎」
二人らしいやりとりに癒しすら覚えながら俺とエルダーも一度菜園を後にした。
館に戻るまでの間の道で前を歩くエルダーを見ながら口を開く。
「公爵家では土に触れるのが当たり前なのか?」
「はて、なんのことですかな」
「エルダーが言っていたんだろう。作物が育つ環境を知るには、と。公爵家はそんなところにまで意識が向いているんだなと驚いたんだ」
「ふむ、確かに」
やがて館に着き扉が閉まるとエルダーが髭を撫でながら告げる。
「リオル様は特別でございます。あの方は期待を掛けられておりますので」
「期待……?」
「さて入浴ですぞフィリアス様。どう転べばお顔まで泥に塗れるのですか。これでお顔に傷でもあったらどうなることか」
「放っておけば治るだろう」
「そういう話ではないのです。まったく」
やれやれと肩を竦めるエルダーの言葉を聞きながら入浴し、全身の汗と泥を流す。その際に顔に少し痛みを感じたのと、指先が荒れているのがわかった。
さっぱりしたあとにそれをエルダーに伝えると、俺は問答無用で椅子に座らされ、エルダーによるケアが始まったのだった。
「指ならまだしも、お顔にまで……!」
「これぐらいの擦り傷、気にすることは」
「お黙りなさい。まったく」
入念に傷口に薬を塗られ、それから布まであてられた。
まるで大きな傷を負ったかのような処置の仕方に目を丸くしてエルダーを見るが、有無を言わせない視線の圧力に屈して俺は黙って従った。
その日の食事会は俺とリュシアンの二人だった。
いつもならこちらに視線も向けないのに、この時に限っては顔に穴が開くのではという圧で見られて緊張で体が圧縮されそうな心地だった。
「擦り傷でございます。ご安心を」
エルダーの言葉にリュシアンが頷いて、それから静かで冷たい食事会が始まった。夢でリュシアンに会うことはなかったがそれから数日後の夢では顔を食い入るように確認された。
「……本当にただの擦り傷だ」
「あなたの体に傷が一つでもあるのが許せないだけだ」
そんな言葉にさえ胸を高鳴らせてしまったのだから、俺は相当リュシアンのことが好きなんだなと再認識した。
「元はと言えばゴードン、あなたのせいですよ」
「俺ぇ⁉︎ ちょっとリオル様、庇ってくれよ!」
エルダーに睨まれたゴードンを見てリオルがけらけらと楽しそうに笑っている。リオルが楽しそうというだけでこうまで明るくなるのだから、この子の存在はすごいなと思った。
「はあ、まあ過ぎたことを言っても仕方がありません。リオル様もきちんとお風呂に入られてください」
「わかったっ」
「頼みましたよ、ラナ」
「かしこまりました」
二人はそう言って屋敷の方へと戻って行った。リオルは「またね」と手を振っていたが、ラナの表情は若干厳しかったように思う。
「メイドと言ってもお嬢様にゃ泥遊びは理解できねえか」
「さてフィリアス様、我らも参りましょう。ゴードン、お前も清潔に保ちなさい」
「汚ねえみたいに言わないでくれます⁉︎」
二人らしいやりとりに癒しすら覚えながら俺とエルダーも一度菜園を後にした。
館に戻るまでの間の道で前を歩くエルダーを見ながら口を開く。
「公爵家では土に触れるのが当たり前なのか?」
「はて、なんのことですかな」
「エルダーが言っていたんだろう。作物が育つ環境を知るには、と。公爵家はそんなところにまで意識が向いているんだなと驚いたんだ」
「ふむ、確かに」
やがて館に着き扉が閉まるとエルダーが髭を撫でながら告げる。
「リオル様は特別でございます。あの方は期待を掛けられておりますので」
「期待……?」
「さて入浴ですぞフィリアス様。どう転べばお顔まで泥に塗れるのですか。これでお顔に傷でもあったらどうなることか」
「放っておけば治るだろう」
「そういう話ではないのです。まったく」
やれやれと肩を竦めるエルダーの言葉を聞きながら入浴し、全身の汗と泥を流す。その際に顔に少し痛みを感じたのと、指先が荒れているのがわかった。
さっぱりしたあとにそれをエルダーに伝えると、俺は問答無用で椅子に座らされ、エルダーによるケアが始まったのだった。
「指ならまだしも、お顔にまで……!」
「これぐらいの擦り傷、気にすることは」
「お黙りなさい。まったく」
入念に傷口に薬を塗られ、それから布まであてられた。
まるで大きな傷を負ったかのような処置の仕方に目を丸くしてエルダーを見るが、有無を言わせない視線の圧力に屈して俺は黙って従った。
その日の食事会は俺とリュシアンの二人だった。
いつもならこちらに視線も向けないのに、この時に限っては顔に穴が開くのではという圧で見られて緊張で体が圧縮されそうな心地だった。
「擦り傷でございます。ご安心を」
エルダーの言葉にリュシアンが頷いて、それから静かで冷たい食事会が始まった。夢でリュシアンに会うことはなかったがそれから数日後の夢では顔を食い入るように確認された。
「……本当にただの擦り傷だ」
「あなたの体に傷が一つでもあるのが許せないだけだ」
そんな言葉にさえ胸を高鳴らせてしまったのだから、俺は相当リュシアンのことが好きなんだなと再認識した。
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