【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第六章

あの頃のゴードンはそれもう薄汚れていて

 そんなことがあった翌日だった。

「お、ようやく取れたな」

 菜園で俺を見るなりゴードンが茶化すように頬を指差した。

「大袈裟なんだ、」

 みんな、と言いそうになって慌てて言葉を飲み込む。
 エルダーはどうしてか俺とリュシアンが夜に会っていることを知っている。独り言が多い日は決まってリュシアンが館にやって来るからだ。
 けれど不思議なことにエルダー以外それを知らないのだ。ゴードンでさえ。

「本当に大袈裟だよなぁ。男なんて体に傷作ってなんぼだろ」
「ゴードンにもあるのか?」
「そりゃああるさ。腹に胸に足にってたくさんよ」

 徐に服を捲ったゴードンに驚くが、その下にあった肉体を見て言葉を失った。そこにあったのはとてもただの傷とは呼ぶべきではないものがあったからだ。

「……それ、は」
「まあ元々戦場上がりだからなぁ。こんぐらいの傷は勲章みてえなもんだ」
「軍属してたのか?」

 思ってもみなかった言葉に思わず聞き返す。

「そんな立派なもんじゃねえよ。傭兵だ、傭兵。金さえ積まれたらどこにでも行くってやつだな」

 そう言われて初めてどこか納得いく部分があった。
 ゴードンの豪快さは確実に貴族のそれではない。

「俺ぁ北の貧乏な土地の生まれでよぉ。ここみてえに野菜とかが育たねえ場所だったんだ。飯が作れねえ土地に生きる人間は自然と数が減るだろ? で、んなとこにはまともな働き口だってあるわけがねえ。んなもんでその辺のやつは大体傭兵になるんだよ」

 比較的気候の問題が取り沙汰されない国ではあるが、やはり北となれば話が違ってくるらしい。俺は王子だったにも関わらず、北の領地がそんなにも貧困に喘いでいるとは知らなかった。

「おいおいなんでそんな顔してんだよ。フィル様の責任じゃねえだろ。自然にはだーれも勝てやしねえんだから」
「それは、そうかもしれないが」

 がはは、とゴードンが豪快に笑って俺の背中をばしばしと叩く。
 その衝撃に軽く驚きつつゴードンを見れば、やはり彼は笑っていて眉尻が下がった。

「気にすんな。過去の話だ」

 もう一度背中を叩かれ、ゴードンが菜園の奥の方へと歩いていく。
 そのあとを追いながら彼の昔話に少し耳を傾けた。

「あっちにふらふらこっちにふらふらしててなぁ。でも年食うと傭兵もできねえし、さてどうしたもんかって路頭に迷ってたところをエルダー様に拾ってもらったんだよ」
「エルダーに?」

 思わず後ろを着いてきているエルダーを振り返れば、彼は髭を撫でながら深く頷いていた。

「懐かしい話です。あの頃のゴードンはそれはもう薄汚れていて」
「仕方ねえでしょ傭兵なんだから!」
「けれど嘘を吐けるような男ではないなと思いましてね、気まぐれで拾ったのです。ちょうど人手不足でしたし。すると意外となかなか仕事ができる男でして」
「そうでしょうそうでしょう。もっと褒めて!」

 得意げな顔で振り返ったゴードンを見てエルダーが大きく溜息を吐いた。

「終ぞ礼節を叩き込めなかったのが悔やまれますな」

 やれやれと首を振るエルダーに笑い、それから作業に移った。
 この前収穫したばかりだから今日はこれといってすることがないらしい。だから土を耕したり草を抜いたり、あとは間引いたりと細かに動く。
 そうすると暑くなるもので、軽く息を吐いてシャツのボタンを緩めた。

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