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第六章
身の程知らず
午前中の診察も終わり、昼食も済ませてから俺は厨房に向かった。
裏口まではエルダーが送ってくれたが、今日は昼からリオルのマナーの講師があるらしくそこで別れた。
リオルが不貞腐れながらエルダーの話を聞いている姿が容易に想像できて思わず口角が上がる。エルダーは子供といえど容赦ないからな、そんなふうに思いながら厨房に着くとそこにゴードンの姿はなかった。
「珍しいな」
代わりにいたのはラナだ。
きっとリオルたちのための紅茶を用意しているのだろうと思いながら中に足を踏み入れると、ラナがこちらに向かって頭を下げた。
「それはリオルたちに?」
「はい」
「そうか。リオルは元気か?」
「お元気です」
菜園で話した時以降、ラナの俺に対する態度が少し棘のあるものになった。理由はわからないが、きっと俺が何かしてしまったのだろうと内心息を吐く。
「……ゴードンを見かけなかったか? 午後からここで」
「フィリアス様は」
言葉を遮られて目を丸くする。
吊り上がった猫のような目が俺を睨むように見ているのに更に驚いていると、ラナが赤く彩られた唇を開いた。
「リュシアン様が次期公爵様だとご理解されているのですか?」
ひやりとした刃物が首元に押し当てられているような感覚がした。明確な敵意と、それと軽蔑を含んだ視線にすう、と体温が下がる。
ラナが今どんな意図を持って俺にこんな言葉を投げかけているかがわからない。けれどその言葉は、俺が敢えて考えないようにしていたことだった。
「……ご自分のお立場をお考えになったら? あの方はいずれ妻を迎え、公爵家を継がれる方ですよ」
ざくりと刺されたような痛みが襲う。
何も言えないでいると、ラナが勝ち誇ったような笑みを浮かべて耳打ちした。
「この身の程知らず」
そう言ってラナは紅茶に必要なものを持って厨房から去っていった。
嵐のような時間だった。なぜ自分がそんなことを言われなければならないのかわからないけれど、ただ胸がひどく痛んでいるのは確かだ。
リュシアンはいずれ結婚をして、そして公爵となる。そんなのはわかっている。分かりきった未来であり、当然のことだ。
でもそうなった時、俺はどうなるのだろう。
当然リュシアンは王都に戻る。俺はこの場所に残り、リュシアンのいない時間を生きることになる。
いつか終わりが来るとわかっているのに、それでもこの関係を続けているのはなんだ。
それがわかっているのに、どうしてリュシアンは俺に触れるんだ。
疑問と不安で押し潰されそうになっていると、遠くの方からこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
裏口まではエルダーが送ってくれたが、今日は昼からリオルのマナーの講師があるらしくそこで別れた。
リオルが不貞腐れながらエルダーの話を聞いている姿が容易に想像できて思わず口角が上がる。エルダーは子供といえど容赦ないからな、そんなふうに思いながら厨房に着くとそこにゴードンの姿はなかった。
「珍しいな」
代わりにいたのはラナだ。
きっとリオルたちのための紅茶を用意しているのだろうと思いながら中に足を踏み入れると、ラナがこちらに向かって頭を下げた。
「それはリオルたちに?」
「はい」
「そうか。リオルは元気か?」
「お元気です」
菜園で話した時以降、ラナの俺に対する態度が少し棘のあるものになった。理由はわからないが、きっと俺が何かしてしまったのだろうと内心息を吐く。
「……ゴードンを見かけなかったか? 午後からここで」
「フィリアス様は」
言葉を遮られて目を丸くする。
吊り上がった猫のような目が俺を睨むように見ているのに更に驚いていると、ラナが赤く彩られた唇を開いた。
「リュシアン様が次期公爵様だとご理解されているのですか?」
ひやりとした刃物が首元に押し当てられているような感覚がした。明確な敵意と、それと軽蔑を含んだ視線にすう、と体温が下がる。
ラナが今どんな意図を持って俺にこんな言葉を投げかけているかがわからない。けれどその言葉は、俺が敢えて考えないようにしていたことだった。
「……ご自分のお立場をお考えになったら? あの方はいずれ妻を迎え、公爵家を継がれる方ですよ」
ざくりと刺されたような痛みが襲う。
何も言えないでいると、ラナが勝ち誇ったような笑みを浮かべて耳打ちした。
「この身の程知らず」
そう言ってラナは紅茶に必要なものを持って厨房から去っていった。
嵐のような時間だった。なぜ自分がそんなことを言われなければならないのかわからないけれど、ただ胸がひどく痛んでいるのは確かだ。
リュシアンはいずれ結婚をして、そして公爵となる。そんなのはわかっている。分かりきった未来であり、当然のことだ。
でもそうなった時、俺はどうなるのだろう。
当然リュシアンは王都に戻る。俺はこの場所に残り、リュシアンのいない時間を生きることになる。
いつか終わりが来るとわかっているのに、それでもこの関係を続けているのはなんだ。
それがわかっているのに、どうしてリュシアンは俺に触れるんだ。
疑問と不安で押し潰されそうになっていると、遠くの方からこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
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